付け焼き刃の覚え書き

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★パンデミック小説

2021-09-05 | ランキング・カテゴリー
 パンデミックとは伝染病の世界的大流行のこと。人類を滅亡に導き、文明を崩壊させんとするパンデミックをテーマにした小説は、この新型コロナウィルス(COVID-19)が蔓延する中で読むのはなかなか辛いものがありますが、それゆえに作品から受けとれるものもまた多くなっているんじゃないかなと思います。

『復活の日』 小松左京
 その年のインフルエンザは悪質だった。今までのインフルエンザと比較して致死性が非常に高い上にワクチンの効果が出にくいタイプだった。ワクチンの開発が急がれ、軍や政府機関はその確保を最優先事項とした。しかし、新種のインフルエンザと平行して、全く別の未知の流行病が蔓延していたのだ。医療従事者による懸命の治療が間に合わず、医師や看護師すら倒れ、街には回収しきれない死骸があふれた。都市機能・政府機能は次々にマヒし、ついには世界中の街並みに動く者はいなくなる。ただ、南極に孤立した調査隊員たち1万人を除いて……。
 1964年発表のトラウマ級パンデミック作品。滅び行く文明の中で最後まであらがいながら病魔と戦う人々から、生き残った人々がいかに人類文明を維持するために既存の倫理とか人道とか社会規範を捨てて0から構築していく苦悩と自己犠牲までが語られます。映画化もされましたが、そのせいで新型コロナウィルス蔓延で自衛隊が出動するシーンをニュースで見るとつい目が火炎放射器を探してしまいます。

『アンドロメダ病原体』 マイクル・クライトン
  地球へ帰還した人工衛星を回収に向かった軍のチームと連絡が途絶。調査に発進した偵察機のカメラは、周辺の町の人間が死に絶えたように見える光景を映し出した。なんらかの生物学的汚染が発生したと判断され、ワイルドファイア警報が発令された。事前に定められていた手続きに従って秘密裏に招集されたメンバーは、人里離れた砂漠の地下に建設された研究施設にて原因の究明と解決に取り組むことになった……。
 パンデミックを荒野の町1つに食い止めるべくサンプル調査を続ける科学者たちの5日間の記録。映画化もされた1969年作品。ほぼ研究所内部で話が進むのに、そのスリリングな展開は読む手が止まりません。

『カサンドラ・クロス』 監督:ジョルジュ・パン・コスマトス
 逃走中のテロリストが大陸横断鉄道に潜り込んだが、男は既に致死性の病原菌に感染していた。男の行方を突き止めた軍は列車をニュルンベルクに停止させ、窓から出入口まで溶接するなどして完全密封してポーランドの防疫施設に送り出すこととした。しかし、乗客の老セールスマンは知っていた。その途中にあるカサンドラ鉄橋は老朽化が進み、崩壊の恐れがあると近隣の住民には知られていたのだ……。
 未知の(軍用の)病原菌による感染への恐怖が前半、崩落の可能性が高いルートからの回避が後半という1976年のサスペンス映画。公開後に発売されたノベライズ版を読みました。不吉な予言を信じてもらえないカサンドラの故事を踏まえたストーリー。みんな不吉な予想は信じたくないのだ。それはテレビのニュースワイドなどで専門家の予想や警鐘を莫迦にして笑い飛ばすコメンテイターを見てれば分かりますね。老セールスマンが収容所の生き残りのユダヤ人で、当時を思い出してパニックに陥るのも時代を感じさせられます。

『ロンドン・ペストの恐怖』 ダニエル・デフォー
 1665年、50万都市ロンドンをペストが襲い8万人以上の命が奪われた。治療法を知らぬ市民は極限状況に追い込まれ、街から逃げ出す人々も多かったが、一方、周辺の町々では避難民を追いかえさんと銃をかまえてバリケードを築いていた……。
 『ロビンソン・クルーソー』の著者がペスト禍を目の当たりにして、当時の地獄絵図を精密に描き出したもの。ペストにかかって道連れとばかりにわざわざ人のいるところに出かけていったり、死者が減少し始めた途端にもう安全と喜んで街に出かけて、あるいはわざわざ避難先から出戻ってきたあげくに一家全滅したりする姿をみれば、今の熱があるのにわざわざ会食したり旅行する人の姿そのままですが、実は「新型コロナなんか存在しない」とデモしたりする人がいる分、現状は17世紀ロンドンより酷そうです。

『錆喰いビスコ』 瘤久保慎司
 人を生きながら錆びさせる《錆び風》が蔓延し、異形の怪物が跋扈するようになった日本で、人間は社会のシステムを変革させながら対応することで文明を維持し続けていた。しかし、それによって国家としての統制は失われ、各地方都市が独自の発展を遂げてきた。「人喰い茸」の異名を持つ少年ビスコは幻の茸を求めて関所を破り、砂漠を渡り、カバ兵やカタツムリ爆撃機と戦い続けている……。
 パンデミックというより、それに失われてしまった世界の再生とそこで生きる少年たちの冒険を描くポストアポカリプスもの。
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