「異世界国家アルキマイラ」 蒼乃暁

「女の子の泣きそうになる寸前の顔は、とても尊いものなのですよ！」
　殿方も女子も好きなエルティナは、女の子の泣き顔は見たくないけれど、半泣きの姿は愛おしい。

　人間のプレイヤーが魔物の軍団を指揮して覇権を競い合うＶＲシミュレーションゲーム『タクティクス・クロニクル』で頂点を極めたアルキマイラ国王ヘリアンは、建国150年の記念祭を祝うべく首都にいた。しかし、そこで起きた突然の地震。天災イベントかと確認してみれば、街が丸ごと密林に転移し、周辺都市との連絡も途絶えていた。
　ヘリアンは運営によるイベント、新ステージの始まりを疑ったが、すぐにこれが仮想ゲームの世界では無いことに気づく。ＡＩの限界を無視して会話する部下たち、身体を傷つけて流れる血と痛み。リアルな異世界転移だった。
　自分は戦闘力が皆無の脆弱な人間。周囲の部下は一騎当千の魔物ばかり。まかり間違って忠誠度が下がればひとたまりも無い。さらに樹海の外では人間とエルフの国家間での紛争が激しく、ハーフエルフなどに対する差別や弾圧も激しい。
　中身はまだ20歳前の大学生に、この状況に王として立ち向かえというのは、あまりに酷な話であった……。

　異世界で魔物の王を務めることになってしまった大学生の冒険譚。大学の授業はしっかり聴いておくもんです。
　ゲームしてたら異世界転移して魔物ばかりの国家を指揮して戦うというと『オーバーロード』とか真っ先に思い浮かびますが、こちらは主人公の中身も器も人間なので冷酷に割りきれず、あれこれ苦悩しながら成長していきます。
　エルフの王女姉妹のキャラも良いですね。自分の弱さや至らなさを自覚しながら、それとは関係なくのしかかる責任を前に逃げることなく、最善の道を進もうとする強さが素敵です。

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