付け焼き刃の覚え書き

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「空き家課まぼろし譚」 ほしおさなえ

2011-04-13 | ミステリー・推理小説
「どんな人でも、いつかは死ぬ。そして跡形もなく消える。でも、生まれてつかのまここにいるというだけで、実はじゅうぶん希有なことなのかもしれない」
 空き家課・間宮明の言葉。

 海市協会空き家課は、日本海沿岸の小都市である海市の景観を守るため、空き家となった古い建物を保全して賃貸の仲介を行うのが仕事。
 間宮明は課長の娘である小学生、三上汀を職場見学で同行させたことから、彼女の不思議な力の開花を目のあたりにしてしまい……。

 ミステリではあるけれど謎解き小説ではなく、間宮が仕事で扱うことになった空き家にまつわる謎を、汀の幻視の力を借りて解決していくという、どちらかといえば都市奇譚。いや、写真の写された直前の状況を幻視で再現するという力が解決にかなり役立ってはいるけれど、事件そのものは日常の謎とまでいえないものも多いので、奇譚というよりミステリ風味の人情談義に近いかも。今は亡き夫が薔薇の花を植えた理由は何かとか、お嬢様学校の跡地で起きた幽霊騒ぎの真相とか、読者としては登場人物たちが見て触って考えた結果を聞くだけで推理の余地とかはまったくないので、そういう話を期待する人にはお薦めできません。
 面白かったのは「まやかし師」の話。存在しないゲームの紹介本とか、存在しない虫の昆虫図鑑とか、クラフト・エヴィング商會のようにありもしないものをいかにもあるように見せた作家が残した遺産の謎話で、汀の親友である菅谷栞の登場篇。
 もったいないと思ったのは、理由があるとはいえ間宮の行動が単に手癖が悪いようにしか見えず、汀や栞がただ小生意気な子供にしか見えなかったこと。読者は謎解きにいっさい参加できず、ただ登場人物の謎解きを見守るだけなので、もっと応援したくなるキャラクターだったら良かったのにと思いました。 

【まぼろし譚】【ほしおさなえ】【薔薇】【カメラ】【オルガン】【架空本】【菅谷冬彦】【モスキート】【メフィスト】

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2 コメント

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どこか若さを求める作風なんですね (パフ)
2011-07-17 00:20:02
設定などは惹かれる点もあるんですけどね。

>登場人物の謎解きを見守るだけ
が残念感の原因だった事に行き着く事が出来ました。
スッキリした気がします。

最近「夏草のフーガ」も出ましたし、注目度もアップして
きてるみたいです。
ちょっと↓のサイトみたいにキビシイ事もありますけど。
http://www.birthday-energy.co.jp/ido_syukusaijitu.htm

プライベートが苦しければ、逆にそれを生かして仕事が発展していく、
そんな事になるみたい。
それが出来れば今後はドンドン注目を浴びるようですね。
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Unknown (まなせ)
2011-07-18 23:06:43
そうですね。設定的にはすごく惹かれるのです。
返信する

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