付け焼き刃の覚え書き

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「夏目漱石ファンタジア」 零余子

2024-04-05 | 異世界転生
「俺たちは楽しんで小説を書いていたんじゃない。表現しないと己が壊れていくという強迫観念に駆られ、血を吐きつつ筆を手にしたんだ」
 執筆は心の治療、表現しないと死んでしまうのだと樋口夏子。

 言論の自由のない時代に、個性と自由のために戦った文士がいた。文豪にして個人主義者、夏目漱石である。
 1910年、文人たちを束ねて木曜会を組織し、作家の自由を脅かし利用しようとする政府や社会主義者との武装闘争を続けていた夏目は「修善寺の大患」事件で命を失うが、星一の助けを借りた医学者・野口英世によって蘇生された。しかし、それは彼本来の肉体ではなく、女流作家である樋口一葉の身体であった。
 夭逝した一葉の遺体は将来の医学技術の発達に期待して冷凍保存されていたのだが、作家をつけ狙う殺人鬼『ブレインイーター』によって脳髄を奪われてしまい、軍医総監の森鴎外と闇医者の野口英世はそこに夏目漱石の脳を移植することにしたのだ。
 夏目の暗殺をきっかけに文学界と政府は手打ちの状態に持ち込み現在は均衡状態にあるのだが、作家への襲撃を繰り返しながらそり脳を奪っていくブレインイーターの被害者は増え続けるばかり。女流作家の身体で復活した夏目漱石だったが、親友である正岡子規の仇を討つべくダムダム弾を手に立ち上がった……。

 表現の自由を守るために戦う夏目漱石が記憶を取り戻し、心を手に入れるまでの活劇譚。作家と編集者の戦いに推し命の読者が乱入するような話ですね。
 いきなり女教師として女学校に潜入しろと言われ、会話に迷ったら「月が綺麗だな」ですべて誤魔化せと言われて開き直ってみたりとかドタバタめいた展開もあったり、女の園ならではの百合百合しいエピソードも挿入されつつ、基本は創作者としての業に立脚した戦いが繰り広げられます。
 加藤保憲が登場しないのが不思議なくらいの、明治伝奇アクション小説でした。

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コメント
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