
ターニャ・フォン・デグレチャフ少尉は死んだ魚のように濁った目で夜明けを迎えていた。
多数の負傷者を出しながらも何とか殿軍の役目を果たして帰還したターニャだったが、そこで与えられたのは敵司令部を直撃しろとの指令と、敵陣を一気に突破するための人間ロケット兵器V-1だった……。
前巻では「第一次大戦期のドイツに似ている」とは前世の記憶に思いをはせた主人公ターニャ・デグレチャフ少佐ですが、いつしか第二次大戦の様相を呈してきています。大英帝国みたいな連合王国にいかにもなマールバラ海相、一方、フランスみたい共和国にはド・ルーゴ将軍の台頭。
周囲からは狂気に満ちあふれた戦争の天才とみなされながら、主人公本人はあくまでホウレンソウを大事にして保身第一の安全主義な常識人のつもり。やらなきゃいけないなら、(自分が戦死も失脚もしないように)成功させないといけないので何とかしているだけなのだ……というギャップでくすりとさせながら、あくまで末期戦へと突き進む国家の崩壊を描いた物語。
この巻は「幼女」要素は皆無。既に幼女である必然性は無くなっていて、ただ全体を見通す目を持ちながら、あくまで大隊レベルの指揮権しか持たない主人公が、帝国の栄光が頂点に過ぎないのではないかと怯える話になってます。主人公がいくら前線で頑張って戦場を支配し続けていても、それで戦争に勝てる保証はないのです。
この話の肝は、誤解であれなんであれ、主人公がただやったら成功した……という話ではなく、自分がやることの意義を全体の中での位置づけを認識することによりモチベーションを向上させ成功に結びつけるという、経営学的に正しい話になっているところです。同じことはファインマンのマンハッタン計画の話でも指摘されていたよね。
特典ショートストーリー「沙漠のパスタ作戦」、サウンドドラマのダウンロード付き。
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