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付け焼き刃の覚え書き

 開設してからちょうど20年。はてなにお引っ越しです。https://postalmanase.hateblo.jp/

「海底軍艦(全)」 押川春浪

2013-07-19 | 架空戦記・仮想戦史
「米国が独立国たるごとくヒリッピンもまた独立国たり、この地球上には決して特権ある優等人種あることなくまた奴隷の生涯を送るべき劣等人種あることなし、汝等武侠を魂としてあくまで強暴に抵抗せよ」
 自由・独立・人権はなにより尊いと、フィリピン独立闘争を指揮した南洲翁、大西郷の檄。
 この話、映画化された『海底軍艦』のイメージが強いのだけれど、実際は海洋SFではなく、仮想戦記とか冒険小説のジャンルなんですよね。はっきりいって武侠小説。

 武力にものをいわせ、植民地を拡大していく西欧列強に対抗すべく、大日本帝国の桜木海軍大佐とその部下は南洋の孤島・朝日島に秘密の造船所を建造し、海底軍艦<電光艇>を建艦していた。
 いかに列強の大艦隊といえども、海底からの攻撃には手も足も出ないだろう……。

 『海底2万マイル』と同じく、軍艦が水中を進むだけで超兵器扱いされる時代の物語。
 海賊も悪いし、アメリカも卑劣だけれど、もっとも極悪な敵はロシア帝国。ムウ帝国なんか出てきません……という『海底軍艦』と空中戦艦が登場する続編『武侠の日本』の2作を収録した1冊。アジアを見下す西欧列強を、日本人が中心となって団結したアジアの人民の力で退けて自由・独立を!という、当時の世相を色濃く反映した押川春浪の主張がぎゅぎゅっと詰まってます。

【海底軍艦】【武侠の日本】【海島冒険奇譚】【押川春浪】【桃源社】【スーパーサブマリン】【電光影裏斬春風】【海賊船】【西郷隆盛】
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「皇国の守護者1」 佐藤大輔

2013-06-25 | 架空戦記・仮想戦史
「つまるところ、戦争とは異なる手段をもってする経済活動に他ならない」
 政治とか道徳とか宗教上の理由なんてのは、人の命を捨てやすくするための方便に過ぎない。

 皇国の北方より帝国軍が侵攻を開始した。
 圧倒的な軍事力を誇る帝国は、この極東の島国を経済上の脅威と見なして一掃することにしたのだ。
 皇国軍が敗走する中、兵站将校・新城直衛中尉は、本隊が撤退する時間を稼ぐための殿軍を務めることになるのだが……。

 死屍累々。明治期の日本によく似ているけれど、牙虎が戦線に配備されていて、何千年も前の龍との盟約が今なお生きている世界の戦史物で、あちこちで面白いシリーズを始めては中断したままで、ときおり出版社を変えて再スタートしてもまた中断……という佐藤大輔の代表作の1つ。
 C・NOVELS版は持っていますが、書き下ろし短編「観光資源」が収録されているので、なくなく購入。
 今度こそ期待して良いですか?

【皇国の守護者1】【反逆の戦場】【佐藤大輔】【中公文庫】【血塗られた英雄の伝説】【大河戦記】【救国の英雄】
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「グルア監獄」 九条菜月 

2013-06-23 | 架空戦記・仮想戦史
「悩んで苦しんで、努力しても上手くいかなくて、それでも、どうにか必死に這い上がろうとしている人への“頑張れ”は、凶器にもなるんだよ」
 第一監房棟の責任者、ヒル・コルドバ大尉の言葉。

 実年齢より幼く見える容姿を利用して密偵を務めているクロラは、政治犯や元軍人の犯罪者が収容されているグルア監獄へと送り込まれた。この監獄のために費やされている予算があまりにも高額すぎるのでは無いかと議会で俎上に上がったためだ。
 しかし、そこはとても同じ軍人とは思えない、奇人変人苦労人たちの巣窟だった……。

 監獄を舞台にした『三千世界の鴉を殺し』みたいな話で、あれよりは奇人変人苦労人が少なめ。今回は、それまで評価の低かった兵士たちがチームを組んで難問に挑み、その個性をフルに活かすことを知る物語。

【グルア監獄】【蒼穹に響く銃声と終焉の月】【九条菜月】【伊藤明十】【C・NOVELS】【雌雄同体】【男子寮】【怪力娘】【怪談】【模擬戦】
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「マージナル・オペレーション4」 芝村裕吏

2013-06-17 | 架空戦記・仮想戦史
「敵は頭がいいに限る。プロ意識が強ければなおいい」

 アラタに指揮されたジブリールたちは、ミャンマー東部の中国との国境付近で戦い続け、順調に中国軍に占領されていた村を奪回していった。
 しかし、アラタたちの後を引き継いだミャンマー軍は練度もモラルも低く、本格的な戦力を投入してくる中国軍の前に、村は次々に再解放されてしまい……。

 子供たちを救うために、子供たちを戦場に送り続ける男の物語も、もう4冊目。イトウさんに続いて斎藤さんが登場し、さらに懐かしキャラの再登場。人物紹介に今回出番の無い人がいるところを見ると、まだまだ再登場組は多そうです。しかし、冒頭の人物紹介を見ていて予想したより斎藤さんの出番は少なめ。いつも以上に第2夫人予定者が活躍してます。
 予定ではあと1冊で完結のはずなのに、本当に終わるのか先の想像がつきません。なにより、ジブリールとアラタの関係に決着がつくのでしょうか。
 戦場では常に味方の損害を最小にして勝利をかすめとっていくアラタですが、女性関係では連戦連敗で、しかもその失策をきちんと自覚できていないところが最悪です。最後にはちゃんとファンタジーになるといいなあ。
 子供を育てるのは、金魚を育てるより難しいんですよ。

【マージナル・オペレーション04】【芝村裕吏】【しずまよしのり】【星海社FICTIONS】【民間軍事会社】【監視団】【ヘリ】【行運】
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「帝国護衛艦隊、太平洋を征く III~大和撫子紫電改2」 志真元

2013-05-15 | 架空戦記・仮想戦史
「馬鹿に言うことをきかせる最善の方法は正論を言うことじゃない。もっと馬鹿なことをしてやるんですよ」
 第一遊撃艦隊司令長官、深津大悟海軍中将の言葉。

 その日、神田明神下の老舗蕎麦屋は、もしここで爆弾の1つでも破裂したら帝国陸海軍首脳部が壊滅しそうなありさまだった。
 海軍中尉で撃墜王の千葉貴子が実家に結婚相手を連れてきていたのである。頑固親父と若手士官との対面の行方がどうなるか、彼女の同僚や部下のみならず艦隊司令や陸軍大臣、参謀総長までの関心事だった。
「失礼ですけど皆さん、いま、戦争中なんですよね?」

 ミッドウェイ島攻略を軸に、帝国海軍内の主導権争いとか女性パイロットたちの恋愛事情などを取りまとめつつ、戦争終結を予感させながらの完結編。
 人情映画的な人々のやりとりに重きを置いた戦争活劇のような作品。最高機密が市井の人々にまでバレまくりの日本の防諜体制のお粗末さは論外だけれど、空母を失った途端に活き活きしてくる南雲中将のダメさ加減は好き。
 総括すると、女性が現場に入ってくるだけで組織は変わらざるを得なくなるよと言うことなんでしょう。

【帝国護衛艦隊、太平洋を征く III】【大和撫子紫電改2】【志真元】【長森佳容】【中村亮】【ジョイ・ノベルス】【MI作戦】【図上演習】【蕎麦湯】【二式大艇】【笑う門には福来たる】【兵糧攻め】
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「ガンパレード・マーチ2K~5121小隊の日常III」 榊涼介

2013-04-13 | 架空戦記・仮想戦史
「正論っていうのはね、普通以下の人間が、自己防衛してなんとか生きていこうとして、しがみつくものなの」
 原素子の言葉。

 ワシントン政府の支配下から抜け出し、シアトルに到達した5121小隊の面々は日本から派遣された艦隊と合流するが、帰国はかなわなかった。
 与えられた長期休暇をそれぞれが思い思いに過ごすこととなったのだが……。

 登場人物も辛いけれど読む方も辛い、重くて暗くて激しい戦いの日々も一区切り付き、シアトル政府下のアメリカでの一幕を描いた小篇集となりました。この表紙だとレイアウト的にもう2冊くらいはありそうだけれど。
 「日常」と言いつつ、周囲の状況もじりじり動いてますから、完全に番外編というわけでもありませんが、そろそろ全然出番のないヨーコさん中心のエピソードがあっても良い頃です。他の人はそれなりに描写があり、エピソードがあるのですが、ヨーコさんは「いつもそこにいてニコニコ仕事している」だけです。その出番の無さがゲームの裏設定を知っているだけに怖すぎます。

【ガンパレード・マーチ2K】【5121小隊の日常III】【榊涼介】【きむらじゅんこ】【電撃ゲーム文庫】【善行、大破炎上】【森さん、暴発】【妄想は心の友】【江戸の火消し】【カウンセリング】【昆虫】【PTSD】【剣道】【トイレ掃除】【捕鯨】
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「マージナル・オペレーション3」 芝村裕吏

2013-03-01 | 架空戦記・仮想戦史
「幸せはこれだと決めた瞬間に幸せではなくなるものだ」
 シュワさんこと守和の言葉。

 日本から放り出されたアラタとオマル。同行しているのは傭兵のほうがまだマシだという境遇の子供たち24人に、ちょっと殺し合ったことがきっかけで知り合った男たちが数人。
 うさんくさい旅券でタイに入国したアラタたちだったが、周囲は彼にビジネス拡大をそそのかしているようだった……。 

 ちょっとでもマシな選択肢を子供たちに与えるために子供たちを戦わせるアラタは「子供達の生活費が第一」という男。天下一品の鈍感男だけれど、これで繊細だったら耐えられないよね。
 ストーリーとしては中盤、状況的にはどん底と言うことで、今後の展開に希望を抱きつつ再読に入ります……。

【マージナル・オペレーション03】【芝村裕吏】【しずまよしのり】【星海社FICTIONS】【民間軍事会社】【朝粥】【グリーンカレー】【中国製品】【サブウェイ】【伊藤園】【義勇軍】
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「マージナル・オペレーション2」 芝村裕吏

2012-09-22 | 架空戦記・仮想戦史
「ファンタジーだ。ファンタジーだよ。私は一人のただの人間が現実を叩いてその壁を揺らすのを見た。一人の人間の拳がファンタジーを呼ぶんだ。世界の壁、常識の壁という奴が、一人の人間の拳の前に揺らぐのだ」
 民間軍事会社でオペレーターの総括をしていたクロード・ランソンの言葉。熟達の軍人である彼でさえ、アラタを賞賛せずにはいられない。

 2ダースもの少年少女を引き連れて戦乱の中央アジアから逃れたアラタだったが、親の保護も教育もツテもない子供たちが生きていくためにできる仕事は少ない。だからアラタたちは傭兵となった。それがいちばんまともな選択だったからだ。
 そして1年。彼らは日本へと足を踏み入れた。アラタには久々の帰国であり、子供たちにとってはちょっとした修学旅行みたいなものだ。
 しかし、いくら平和ボケした日本であっても、歴戦の傭兵集団の入国には気づかないはずがなかった……。

 発売予定日に半径15キロの主立った書店を梯子して、やっと発見。取次は地方書店を冷遇しすぎだと思う。
 血涙を流しながら読了。

 平和な時代においては無能の烙印を押されかねないような人物が、非常時において才能を開花し認められ頼られる英雄譚というのは、好きな物語のパターン。『銀河英雄伝説』も『翼の帰る処』とか、そんな感じの物語ですね。
 とはいえ、こうした物語は、当の主役が意に反した行動を強いられるというストレス負荷実験のような話になるわけで、この話も子供たちを戦禍から救おうとした結果なのに、結果的に子供たちを戦場に投入することでしか活路を見いだせないジレンマが歯がゆいです。
 かつてアムロ・レイは「小さい子が人の殺し合い見るの、いけないよ」などといいましたが、これはその子供が平然と人を殺していく話なのです。手放しで拍手喝采とはいきません。すごく面白くて、何度も読み返してしまうのだけれど、これでいいのかなーと読み手の方もアラタと同じように悩んでしまうのです。

【マージナル・オペレーション02】【芝村裕吏】【しずまよしのり】【星海社FICTIONS】【民間軍事会社】【赤門前】【天ぷら】【自動販売機】【浅草浅草寺】
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「ガン・ブラッド・デイズ」 芝村裕吏

2012-08-28 | 架空戦記・仮想戦史
「ご心配なく。アメリカの正義は私の中にあります。私が正しい」
 ヴァージニア・イラステッド・ガジェット紙の記者・イーヴァ・クロダの言葉。

 マスコミに煽られるように政権交代がおこなわれ、有象無象の革新集団によって状況は悪化した。
 それでも有権者は学ばず、また革新を名乗るだけの新たな集団による政権交代がおこなわれ、財政はさらに悪化して国は傾いた。
 その結果、新エネルギー開発に成功した新興財閥オルトロスによる実質的な日本支配がおこなわれるようになり、それを善としない勢力が日本解放戦線となって、日本は内戦へと突入していく。
 この事態を沈静化することを口実に、アメリカは軍事介入を決意。地方紙記者であるイーヴァは従軍記者として海兵隊の作戦に同行したのだが……。

 一口で言うと、戦場に放り出された日系アメリカ人の女性記者が各勢力間を転々とするはめに陥り、その度に状況は悪化して、最後に一回りしたときが一番最悪だった……という話。あるいはオスプレイ大活躍。

【ガン・ブラッド・デイズ】【芝村裕吏】【kyo】【電撃ゲーム文庫】【ノンストップ・ミリタリーノベル】【藤】【装甲列車】【ゾンビ】【医療保険】
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「君が衛生兵で歩兵が俺で」 篠山半太

2012-07-06 | 架空戦記・仮想戦史
 いろいろ書きたいことがあって、それを全部ぶち込もうとしたらウェイト過多でトルク調整が狂ってぶっ飛んだ……というイメージの1冊。

 武山高校は自衛隊の下士官養成のための高校で、学生は半分は自衛官という位置づけ。
 ところがテロによって政府首脳が暗殺され戒厳令が発令されたとき、武山高校の生徒も動員されることになり……。

 学園ものの体裁だったのは最初の1/4まで。最後は任侠映画みたいな再会シーンで締め。
 現代日本における自衛隊の位置づけを語るのであれば、好みとしては吉岡平の『二等陸士物語』の方が好きだけれど、それを差し引いても欲張りすぎ。劇場版パトレイバー2にSP革命篇を掛けて三島由紀夫を足し、自衛隊や憲法問題を問いかけつつ、アイドルものとかアニパロみたいな要素も取り入れ、それで学園ライトノベルにてボーイ・ミーツ・ガールを描こうったって無理ってもんです。

【君が衛生兵で歩兵が俺で】【篠山半太】【西出ケンゴロー】【スマッシュ文庫】【世界一ヘビーなライトノベル】【イラク派兵】【集団的自衛権】【憲法改正】【機動戦士ガンダム】【ガラスの仮面】【長いナイフの夜】【世直しクーデター】
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「帝国護衛艦隊、太平洋を征く II~大和撫子紫電改2」 志真元

2012-05-30 | 架空戦記・仮想戦史
 すっかり山本長官が凡夫扱いされていて、GFが引き籠もりの『大和撫子紫電改』の最新刊。

 帝国海軍護衛艦隊はソロモン海に展開し、ラバウルを拠点にした貴子らは豪州空軍との戦いを繰り広げていた……。

「水雷屋なら突撃して死ね、だ」
 運命の皮肉を感じた、木村昌福の自嘲。

 日本は三国同盟を維持しつつアメリカやオーストラリア、自由フランス、オランダと戦い、ビルマに進攻する一方で、満州王国を通じて重戦車をイギリスやフランスに輸出し、ソ連へは日本の武器を装備したユダヤ人義勇部隊を送り込んでいて、ドイツはイギリス・アメリカと海戦を繰り広げ、アメリカはヨーロッパと太平洋に2つの戦線を抱え……まさに世界大戦。
 女性兵士たちの戦いとか紫電改の活躍よりも、この右手で殴り合っている相手と左手で握手しているような戦いを、外交的にどう収拾つけるつもりかの方が気になります。まさか白洲次郎無双ではあるまいが……。

【大和撫子紫電改2】【帝国護衛艦隊、太平洋を征く】【志真元】【長森佳容】【中村亮】【ジョイ・ノベルス】【風林火山】【降下挺身大隊】【南洋の新天地】
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「信長新記(3)」 佐藤大輔

2012-04-17 | 架空戦記・仮想戦史
「君、よく知りもしない男を誉め立てるような奴はろくな人間ではないよ」
 スペイン艦隊に対して非礼な応答をした、サー・フランシス・ドレイクの弁明。

 ついに徳川家康が牙をむいた。狸はやはり肉食獣なのだ。
 明智光秀と柴田勝家の謀叛により戦力再編を余儀なくされていた信長軍は、伊達・上杉と手を組んだ家康の奇襲に圧倒される。
 圧倒的優位の家康軍の前に立ち塞がったのは、筒井順慶によって要塞化された岐阜城のみであった……。

 激戦が続きますが結果を心配しないで読めるのは、南海覇公・信長が天下を平定し、さらに大洋公・秀吉が若君をもり立てて海外へ進出し……という後の書物の不正確さを著者が指摘しているから。細かいところは通俗的な物語なのでデタラメだけれど、大筋ではそういうことなのね……と。
 今回は信長軍と家康軍の激突がクライマックスですが、その前哨戦である岐阜城攻防の方がメインですし、その中でも急造の野戦陣地で勇猛にして精強で知られる三河兵を迎え撃った筒井順慶より、その配下の実験部隊、石火矢奉行、川端直芳のマッド・テクノロジストぶりの方が目立ってしまうのは気の毒なことです。

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「信長新記(2)」 佐藤大輔

2012-03-21 | 架空戦記・仮想戦史
『健気なるかな足軽どもよ。彼らは敵の最も堅き陣に向けて突貫していく』
 キューバのグアンタナモ攻撃時の、大和民国将軍・立見尚文少将の言葉。
 もともとは日露戦争での立見少将の言葉だったかな。こういう歴史改変の流れが見えてくるのが愉しいのです。

 明智光秀の謀反と、それに連鎖する柴田勝家の叛乱をしのいだ信長だったが、いちばんの痛手は官僚団の中枢を丸ごと失ったことであり、軍資金の不足であった。
 だが、この末期的財政難にあって、信長はあえて秀吉に石山普請を命じた。大坂に巨大な城塞を建設せよというのである。
 その頃、ハプスブルグ家のフェリペ2世は、国家戦略としてネーデルランド重視策からアジア植民地へと足場を移そうとしていた……。

 架空の歴史を現代の軍事用語や軍事史的解釈で解説・再構成する戦国絵巻の2冊目で、とりあえず織田信雄と筒井順慶のデコボコ主従が岐阜大要塞で徳川軍を迎え撃つ「三州騒乱」の勃発まで。
 本能寺で歴史改変してみせる作品は他にもありますが、1000名規模のマニューヴァーをおこなえるほど練度の高い兵士は、三河の赤備えと島津勢、それとハプスブルグ家のスペイン正規軍くらいだろう……とか「同盟という政治行為はつねにプラス・サム・ゲームでなければならない」と生真面目に分析をおこなってみせたかと思うと、ポルトガルの難破商船相手に手ひどいダメージをくらった九鬼嘉隆が「この船では、奴等に勝てない」とつぶやいて従来の鉄甲軍船に見切りを付けたり(ここ笑いどこです)。信長が生きているという一点で、どこまで歴史が変わっていくかのワクワク感が違います。
 このシリーズの面白さというのは、単に目の前の歴史がどう変わっていくかだけではなく、その100年後、300年後にどうなっているかというところまで見せてくれるところにありますね。そのあたりを、荒唐無稽に見えないよう、実際の史実との違和感が少ないよう、こまかに軌道修正しながら歴史改変をしていく佐藤大輔の本領が見てとれます。
 二条城に設置された情報処理・指揮センター(の機能を持つ場所)で、目の前に表示される軍の動員と兵站の動きを見守る真田信繁の初々しさが微笑ましいですね。

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「信長新記(1)」 佐藤大輔

2012-03-12 | 架空戦記・仮想戦史
 16世紀には早くもテューダー朝イングランドが世界帝国への第一歩を踏み出していたが、それに対抗しうる勢力が地球の反対側の島国に存在した。いまだ国家統一を成し遂げていない日本の1勢力に過ぎない織田家である。
 当時の織田家は世界でも有数の経済力を持ち、全西欧のそれを上回る20万人の常備兵力を保有し、その3割は火力装備という世界最強水準にあった。
 しかしそれも先進的な指導者に率いられていてのこと。
 そして、天正10年6月2日未明。その織田信長は、京都四条西洞院・本能寺にて、謀反した明智光秀の軍勢に包囲されていた……。

 佐藤大輔作品の中でわたしが一番好きなシリーズで……もちろん未完。
 未完なのに、タイトルを変え、出版社を変え、何度も刊行されてきたのは、やはり面白くてファンが多かったからだと思います。魅力的な戦国武将は数あれど、歴史のifを考えた場合、いちばん面白いのは織田信長ではないでしょうか。

『こうして、誰もはっきりと口に出せない問題は、誰も口に出さないうちに決められてしまったのである』
……と、腹芸も腹芸。いかにも日本的な羽柴軍の先鋒決定のプロセス。

 織田信長が生き残ってしまったことで変わった歴史を、未来から軍事史研究の視点で振り返りながら綴るという形式。田中芳樹の『銀河英雄伝説』における“後世の歴史家が語る”ってのと同じです。なので、「オーダー・オブ・バトル」「ライヘンバッハ・プラン」とか「ロジスティックス」とか戦国小説には馴染みのない用語がばんばん出ますし、冒頭で日本とイングランドが数世紀にわたって世界の覇権を争う関係になるとはっきり書かれてます。オチが最初に来ちゃったよ!?
 そういうわけで、山岡荘八の歴史小説に親しんだような人が「仮想歴史小説とかいうものを読んでやろう」くらいのつもりで読むとぶっ飛んで、悪口三昧になっちゃう気がします。
 さて、歴史改変ものの醍醐味は、周知の歴史イベントがどのように変わるかという点にあると思います。けれども、信長による壮絶な小田原城攻めとか、佐々成政の凶悪な漸進射撃とか、そういう個々のイベントだけではなく、その変化した結果がさらに未来での変化を促すという変化の連鎖も巧いところです。

『(柴田中央軍の突撃を)「おそらく日本史上最大の歩兵突撃」と記した。
 なぜかと言えば、この関ヶ原以後、日本人は歩兵突撃に徹底的な不信感を抱くようになってしまうからだ。』

 装甲偏重になってしまった日本軍って、見てみたい。

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「マージナル・オペレーション」 芝村裕吏

2012-03-07 | 架空戦記・仮想戦史
「リアリティの欠如、想像力の不足は、人を簡単に虐殺者に変えてしまう」

 平和な世界では見出されないまま埋没していた才能が、本人にとっては不幸かも知れないけれど非日常において開花し、それによって周囲が救われていく物語。徹底したリアリティ以外は入り込む余地のない、現代の戦場に生まれた勇者の寓話。暁という名の男が、夜を呼び、夜明けを告げるために歩いていく話。あるいは、三十男が主人公の『エンダーのゲーム』。ちなみに、エルフが出てくるけれどファンタジーではない。

 アラタは今年で30歳。アニメ鑑賞とフィギアのコレクションが趣味で、務めていたデザイン事務所が倒産して今は失業者。
 やむにやまれず仕事を探し、やっと見つけた仕事は年収600万円だが職種は民間軍事会社。どう考えてもブラック企業だが、無職のまま部屋を追い出されるよりはマシだと応募してみれば、そこは中央アジアの戦地。エアコンの効いた管制室から現地徴用した兵士の部隊に指示を送るだけの簡単なお仕事だった……。

 あまり読み慣れていない現代の傭兵会社の話だったけれど、素人同然だった主人公の覚え書きのような形式で細かく章分けされているので、予想以上に読みやすく、期待以上に面白かった。
 自分では認めていない才能を周囲が認めていく「人の価値は他人が決める」過程の痛快さは、マイルズ・ヴォルコシガンやホワイトディンプル教授の物語などでも愉しめたけれど、これもそれらに続く1冊。岡島緑郎に比べると、こちらの方がずっと冷めていて、なおかつ極悪人になったと自覚していても、まだ一線を越えていないので読後感はさわやか。
 いろんな意味で続きが気になります。ここからどうする?

【マージナル・オペレーション01】【芝村裕吏】【しずまよしのり】【星海社FICTIONS】【民間軍事会社】【オペレーター】【OO】【マチズモ】【エヴァンゲリオン】【決断のコツ】【ドンキー】
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