「聴衆が望むものだけを伝えるのが、ジャーナリズムの仕事ではない。彼らが見たくないと目をそむけるもの、彼らが気付いていない事実を伝えることも、ジャーナリストの義務だ」
日独の航空戦を目の当たりにしたエド・マローの自戒。
1940年代初頭、アジア情勢は緊迫の一途を辿っていた。フランス極東艦隊の奇襲によって日本は戦艦4隻を失った。その一方で、アメリカとの関係は急激に悪化していた……。
タイトルには「大和撫子紫電改」とありますが、まだ紫電が投入されたばかりで主役は瑞山だし、「山本五十六・米本土侵攻」とあるけれど、アメリカと戦争せんといかんぞーという各国かけひきの段階です。とりあえず、この巻の話はユダヤ難民を輸送していた帝国の艦隊が、地中海でドイツ・イタリアの航空戦力とぶつかるところまで。ハンス・マルセイユは貧乏くじ、チャーチルはタヌキ親父で、山本五十六は……。
こまかなポイントで歴史はいろいろ変わっていますが、ポイントの1つは山本権兵衛内閣がシーメンス事件を乗り切り、欧州派兵したことで日本の国際的地位が向上し、それと連動するように経済力が強くなったこと。
もう1つは1920年代なかばに日本を襲った6つの大地震とインフルエンザの流行によって人口の3割と都市機能を失いつつも再生に成功したこと。
この2点が許せない人はダメかもしれませんが、架空戦記なんてシロモノは、(興ざめにならない範囲で)事実よりマシな歴史を求めるべきものなので、自分は素直に「経済力と国際的地位を手に入れた日本が、近衛内閣の舵取りで対米戦にはまり込んでいく」過程を楽しみたいと思いました。
人口の急激な減少から女性の社会進出が進み、数は多くないものの女性士官の姿も見られるようになり、トンキン湾空戦でエースパイロットとなった千葉貴子中尉が大活躍!……というのも見せ場ですが、読了後の感想は「山本権兵衛、偉いなー。近衛はいかんなー」に尽きるかと。
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