頼子百万里走単騎 "Riding Alone for Millions of Miles"

環境学者・地理学者 Jimmy Laai Jeun Ming(本名:一ノ瀬俊明)のエッセイ

1990年代半ばにおける予測(Ichinose and Yasui, 2004)その3

2023-12-01 15:08:06 | 日記
2030年
先端電子機器による土壌汚染が問題に。ガリウム砒素やその製造装置からでる廃棄物などの不適切な処置が問題。
やっとのことで鉛が完全回収以外は使用禁止に。鉛に付随して産出する金属が不足。水銀もやっと完全回収義務化。

一ノ瀬の見解
電子機器による環境汚染は、今後その拡大が懸念される。
電子機器による土壌汚染は、特に廃棄物の輸出先となる途上国で、健康被害などが大きな問題となっている。
EU 諸国では、電気・電子機器の特定有害物質使用禁止指令が 2003 年に発効した。
電子機器には貴金属も含まれることから、並行してそのリサイクルが推進されることと思われる。

日本の鉛の供給は全量を輸入(およびリサイクル)に頼っている。
鉛と水銀は有害産業廃棄物に指定され、廃棄物処理法によって管理されている。
鉛の用途の約 9 割が蓄電池用であり、そこではほぼ完全なリサイクル体制が構築されている。
日本での需要は減少傾向にあり、2030 年までには達成できる可能性は十分ある。
鉛と共に採掘される銀・亜鉛などの不足の見通しはないが、電子機器に使用されるレアメタル(タングステン、タンタル等)の供給不安定が懸念されている。
日本の水銀鉱山はすべて閉山となった。
これらは廃棄電子製品中に大量に保持されている(「都市鉱山」)が、極めて細かく分散していて効率的な回収が困難であり、今後はモジュール化など回収しやすい形の設計が求められる。
水銀をはじめとする金属の回収は、市場メカニズムと廃棄物処理法施行令の双方で行われている。
新興国を中心に金属資源の需要は高まり、自国への供給を優先させることによって、他国への供給の悪化にもつながっている。
サーキュラーエコノミーの世界的浸透で、金属資源の残余年数を伸ばすことも検討されている。

Ichinose, T., I. Yasui : (2004) FUTURE SCENARIOS: PREDICTING OUR ENVIRONMENTAL FUTURE. in Regional Sustainable Development Review: Japan, [Eds. L.D. Kiel], Encyclopedia of Life Support Systems (EOLSS), Developed under the Auspices of the UNESCO, Eolss Publishers, [http://www.eolss.net]
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1990年代半ばにおける予測(Ichinose and Yasui, 2004)その2

2023-12-01 00:59:09 | 日記
2005年
ゴミ焼却が制限された。完全分別した単品の焼却のみ許可。
日本国内において、廃棄物の最終処分地不足が顕在化。産業廃棄物の不法投棄はあいかわらず後を絶たない。

一ノ瀬の見解
2005年前後において、廃棄物焼却はいまだ制限されてはいなかった。
ダイオキシン類の総排出量は年々低下し続け、2021年の対1997年削減割合は99%であった。ごみ総排出量の減少や、800℃以上で焼却可能な焼却炉が全国のごみ焼却場に整備されたことによる。
2000年以降は、分別回収や各種リサイクルの進展など、循環型社会の形成が進むとともに、産業構造の変化や景気変動等により、廃棄物は減少傾向となっている。また、分別の徹底と焼却ゴミ削減のために一般ごみの有料化が行われている地域もある。さらに、ごみの燃焼熱を温水利用や発電などに利用する割合も増えてきた。一方焼却炉の稼働率低下も問題視されている。
最終処分場不足による不法投棄は増えている。最終処分場を有していない都道府県があることや、都市部を中心に、ごみを県外へ移動させているという課題も残っている。
サーマルリサイクルに際しては、燃焼の際に二酸化炭素を排出しており、プラスチック廃棄物が新たな材料として生まれ変わるのは全体の約22%にすぎない。
焼却灰最終処分場(埋立場所)の容量は減少していくものの、新たな処分場を建設するのは住民の反対が強く極めて困難である。
都市近郊では、廃棄物最終処分場を新たに建設するよりも、リデュース、リユース、リサイクルの促進に投資をした方が費用対効果は高い。
中国の廃棄物輸入禁止により、日本はインドネシアやベトナムなど処理技術が未熟な国にまでプラスチック廃棄物を輸出するようになった。
一ノ瀬俊明:(2007)ゴミで包囲される中国内陸都市. 地理,52-4,46-51
一ノ瀬俊明:(2021)中国のゴミ問題.In 漆原和子ほか編:「図説 世界の地域問題 100」,136-137,ナカニシヤ出版,pp. 219+

2050年
原油の生産量は、最盛期であった2030年の半分に減った。その減少量は、やはり原子力に依存せざるを得ない。
太陽発電衛星がいよいよ軌道を周回し始めた。宇宙産業の成長により宇宙居住人口が4000人になった。しかし宇宙線の影響が心配。
地球温暖化が目に見えるようになってきた。海水面も50cm程度上昇したようだ。モルジブなどの島国では被害が出ている。

一ノ瀬の見解
2020年までの動向を見ても、世界の原油生産量は新たな油田の発掘や(アメリカのオイルシェールなど、)回収技術の発達により微増してきている。ピークは2050年以降になるだろう。また、脱炭素への政策や再エネの拡大に伴い、原油生産は減退していくと考えられる。
石油も天然ガスも可採年数はあと約50年とされており、当面は石炭と原子力発電に頼らざるを得ない状況である一方、脱原発も盛んに議論されている。実際太陽光発電や風力発電は設置コストが初期よりも下がり、再生エネルギーは実用性の高いものとなってきている。
宇宙太陽光発電衛星は約2km四方の太陽電池/送電パネルを用い、マイクロ波を使って地上にそのエネルギーを伝送し、地上の受電アンテナで受信した後、電力に変換するものである。地上にくらべて約10倍の太陽エネルギーが利用可能とされる。一方マイクロ波による健康被害、宇宙デブリや太陽嵐などによる被害も予想され、経済性もネックになると思われる。2050年(経産省の目標)までに完全実用化されることはないと考えるが、他の目的も兼ねた実験機が軌道に投入される可能性は否定できない。
民間人向け宇宙旅行(2021)などの宇宙ビジネスは活性化されていくだろう。2040年には月に1,000人が住み、年10,000人が訪れることを目指す動きもある。宇宙放射線の影響を軽減するための施設整備やスーツの開発といった、新たな宇宙産業市場形成も期待される。
超長尺炭素繊維が開発できるならば「宇宙エレベーター」(静止軌道)の方が、往還機よりも経済性・有用性の点で実現性が高いと考えられる。増築も容易なことから(4000人にはならないであろうが)多くの人が作業員として居住することも考えられる。宇宙船防護服の着用は不自由なため、施設全体を覆うバリアが採用されるだろう。
IPCC AR5によれば、1901年からの110年間で19センチの海面上昇があり(2014)、21世紀中に最大82cm上昇すると予測されている。またフィジー諸島、ツバル、マーシャル諸島などでは高潮被害が大きくなっており、「環境難民」の発生が懸念されている。このような島国はリゾート地の収入に依存しているため、海面上昇による土地の喪失は国の発展のための収入が減少することを意味する。先進国と途上国の格差がさらに拡大し、気候変動に対するレジリエンスが構築できないと考えられる。

Ichinose, T., I. Yasui : (2004) FUTURE SCENARIOS: PREDICTING OUR ENVIRONMENTAL FUTURE. in Regional Sustainable Development Review: Japan, [Eds. L.D. Kiel], Encyclopedia of Life Support Systems (EOLSS), Developed under the Auspices of the UNESCO, Eolss Publishers, [http://www.eolss.net]
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