旧住民目線では、メディアの描く虚像、と思える部分が全くないというわけではない。毎度毎度のことではあるが。視聴者の皆さんには、実際現地で判断してもらえるといい。出演者が新鮮だと感動しているポイントが、高校生の小生にはつらい現実だった。意志の弱い受験生には信じられない環境といってよい。辰野町のまちづくりステイクホルダーのみなさんとの交流をベースにこんなものを書いていた。視聴された後にぜひこれを読んでほしい。
一ノ瀬俊明:(2018)持続可能な地域の戦略を考える. 清陵同窓会報,44,5-5から抜粋
最近では首都圏からの有識者のみならず、インターンの大学生、ユニークなIターン人材、地域おこし協力隊、活性の高いNPOなど、様々なステイクホルダーが活躍している。故郷を離れて35年の小生が半年ほどの観察により得た問題意識は、旧来の地域住民と、SNSなどを通じて遠くからも活動が見えやすいステイクホルダーとの温度差などである。
ドイツの地方都市では、シャッター商店街に代表されるような中心市街地の空洞化を目にすることはない。日本の観光地特有の華やかさはないものの、地域の資源や魅力を生かしたまちづくりの事例、とりわけクリーンエネルギーの利用やリサイクルに積極的な、環境に配慮した持続可能なまちづくりに取り組んでいる自治体は非常に多い。そのドライビングフォースは、(おらが)地域への誇りだけなのだろうか。
小生が気になるのは母校(小学校)の行く末である。70年代の全校生徒は100名前後であったが、今日当時の1学年の人数が全校生徒の規模となってしまった。小生は高校(清陵)まで実家近くの学校に通い、夢を抱いて都心の大学に進学した。希望の業界に職を得たまま故郷には戻らず、現在の住まいで子育てをした。こういう子供の世帯が多く、新たに転入してくる世帯が少なければ、当然生徒数は少なくなる。現在辰野町でも、「暮らしやすさ全国第■位」などと盛んに子育て世代を誘致している。しかし、なりたい職業のために故郷を離れ、都会へ進学して夢をかなえる、というような子供に育てるべきか、地元に就職して地域に貢献し続ける子供に育てるべきかで、学校の運営方針は異なるはずだ。
現在日本の大学進学率は60%に近い一方、職業高校で定員割れするところも少なくない。ドイツの学校教育では10歳で、大学進学をめざす普通科か、技術・技能を身につけ職人の世界をめざす学校かという選択を迫られる。余計に時間はかかるが後者からの大学進学も可能であり、日本のようにとりあえず大学に進学してサラリーマンに、という選択は多数派ではない。また、職人の世界にはマイスター(親方)のように社会的な尊敬を集める地位があり、この世界をめざす人は多い。
生徒が選びたい道を選び、その選択なりの郷土への貢献ができる教育を、きちんと残したいものである。ただこれからは、地域における就労の機会創出とかいう甘い話だけではなく、国土や社会の構造、人々の価値観にメスを入れるような荒療治が必要となるのかもしれない。
最後の1段落は我ながらかなり痛烈と思う。
一ノ瀬俊明:(2019)地域戦略における環境共生の視点. pp. 255-264; In 信州大学編:明日の地域をみつける -信州大学 地域戦略プロフェッショナル・ゼミ 4年間の軌跡. 第一企画,長野,396p+。
こっちはややソフトに書いてます。