越後勢の陣中、家臣らは大いに喜び、裏腹に謙信は突然不機嫌になったと間者から聞いた信玄はにっこと笑い上機嫌となった。
山本道鬼がまかり出て、「臣、先だって上州に送った間者が馳戻り告げるには、謙信は上州の諸大将に命じて、長野信濃守、太田三楽斎、倉賀野六郎、小幡、和田、上杉らが軍を出すのを待って準備をしている様子
これ察するに、上州勢は甲州の留守を攻め入るか、または我らの背後より攻めかかるかのいずれかと存じます
そうであれば、君急ぎ御陣を挙げられて謙信の謀略をくじき賜え」と言えば、飫冨兵部少輔、進み出て
「謙信は戦をおこして、ここ十五年、毎年信州に出でて我らを妨害するのは、かねてより有無の決戦を行いたい故也
此度は、今までにない憤怒をもっての出陣であれば、戦にはやる景色あり
我らも此度は、これを引き受けての戦するべし
謙信のはやる心、我らの勝利の吉瑞なり」
信玄は、馬場民部少輔を召されて「このこといかが思うか」と問う
ここに真田一徳斎も駆けつけてくれば、同じく一徳斎にも問う
馬場、真田俱に申すには「なるほどご一戦ごもっとも也、戦いは士卒の勇気、勝を制するは大将の謀りなり
数年、味方は堅き守勢を保って謙信を相手にせず、そのため味方の士卒は戦うことを望んでおります
この志あって、今度の機会は我らの吉でありましょう、されども謙信は一計を仕損じて落胆するような愚将とは違い、謀略ならぬ時はまた別の必勝の利を考えてことに臨み、勇気いよいよ盛んになり、されども無謀の勇は控えるのが謙信であります
其のいわれは、先年の戦でも和平敗れて恥辱を被り信州に攻め寄せ、五十日間睨み合いましたが、怒りに逸って無二無三に川を押し渡ることをせず、事ならぬと思えば、静々と越後に引き上げました
これ勝利の機なければ忍が故です、ただ謀を能くして、御一戦然るべく候」と申せば
信玄、うなずいて「そうと決まれば、謙信に重手を打たれる前にこちらから戦を始めて、西條山に攻め寄せて陣城をまくり落とせ」と山本、真田、馬場と軍議をおこない、備えを決めた。
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