さる11日に、我が国の3基目の自前の情報収集衛星が、国産ロケットH2A10号により打ち上げられた。周知の通り、情報収集衛星の打ち上げは1998年の北朝鮮によるテポドン発射実験が契機となったものである。計画では、可視光線の高性能カメラによって地上を撮影する光学衛星が2基と、夜間や曇天時に電波でレーダー観測をするレーダー衛星2基の合計4基体制になる予定である。残りは、レーダー衛星1基だが、これは年明けに打ち上げられる予定である。
今回打ち上げられ2基が揃った光学衛星は、地上の1メートルの物体を識別できる解像度を持つが、この解像度は民間衛星の水準に合わせて1メートルである。米国の早期警戒衛星は、解像度が実に10センチであり、それに比べれば「お話にならない」といっても過言ではない。なぜこんなことになったかといえば、何も日本の技術が格段に劣っているというのが理由ではない。自衛隊の衛星利用を商用技術の水準に留めるべきだとした1985年の政府見解が最大の原因なのだ。この政府見解は「一般化原則」と呼ばれる。元はと言えば、1969年になされた宇宙の平和利用に関する国会決議が元凶であろう。「平和利用=非軍事」との解釈が野党のごり押しにより政府も受け入れざるを得なかった。今さら当時のことを責めても仕方ないが、政府の「一般化原則」は早急に改める必要があるし、北朝鮮によるミサイル実験の実施や核開発を受けて政治的にもそれほど困難なこととは思われない。是非とも新政権の英断を期待したい。これは、情報機関の充実といった情報分析のシステム向上とともに必要不可欠である。
7月の北朝鮮のミサイル実験に際しては、当時運用されていた2基の情報収集衛星は、テポドン2号の発射を見逃し、海上自衛隊のイージス艦も補足に失敗している。結局、発射の瞬間は米国の早期警戒衛星によってとらえられた。技術的・専門的なことはよく分からないが、やはり解像度の低さは原因の一つなのであろう。ミサイル防衛(MD)構想の推進にも障害になるのではないか。だいたい、「情報収集が大事だ」といいながら手足を縛っているのではどうしようもない。精確な情報を収集することは、同盟国たる米国をはじめとする他国との情報交換に必要不可欠である。情報は、ただ一方的にもらうものではなく、ギブアンドテイクによってより多くを入手できるものである。
一連の情報収集衛星の打ち上げは、安全保障上の成果としては「着手したことに意義がある」と評価できる程度なのかもしれない。しかし、副産物として、H2Aロケットの打ち上げ成功率が01年8月の初打ち上げ以降90%(世界平均が80~85%)に達したのは、我が国の衛星打ち上げビジネスにとって大きな収穫となった。さらなる信頼向上の確立とコストダウンが今後の課題であろう。
<国会決議の「平和の目的」と自衛隊による衛星利用についての政府見解(一般原則)>
利用が一般化している、及びそれと同機能の衛星は自衛隊が利用しても、決議の『平和の目的』に反しない。(1985年2月6日)
(参考記事)
<H2A成功>情報収集衛星は3基 識別能力など課題に
H2Aロケット10号機の打ち上げ成功で、情報収集衛星は3基になり、地球の全地点を1日1回は撮影できるようになった。しかし、地上の物体の識別性能は不十分で、巨額の費用とともに今後の課題となっている。
光学衛星は地上の1メートルの物体を識別できる望遠鏡を備える。レーダー衛星は、雲がかかっていても地上の様子をセンサーで把握できる。当初目標の2組4基態勢が整えば、対象をより詳細に把握できるようになる。
開発には打ち上げ失敗分も含め、06年度までに約3300億円かかる見通しだが、観測能力は米国の民間衛星レベルだ。
政府は、情報収集衛星の後継機で性能向上を目指すが、宇宙開発に詳しいジャーナリストの松浦晋也さんは「防衛庁は米国の商業衛星画像を購入し続けている。できているかどうか分からない北朝鮮のミサイルのために数千億円も投入するのはおかしい」と批判する。
これに対し、鈴木一人・筑波大助教授(国際政治学)は「日本側に情報があれば、ギブ・アンド・テークで他国の情報を得やすくなる。安全保障面で日本の地位は上がった」と指摘する。
一方、H2Aは01年8月の初打ち上げ以降、成功率は90%に達し、世界のロケットの初期段階成功率の80~85%を上回った。国は10年度までにさらに約10機を打ち上げ、信頼性の確立を目指す。
07年度からは民間主体でH2Aによる衛星打ち上げ事業が始まるが、日本の実績は米欧露に比べて圧倒的に少ない。受注には、一層の低コスト化も求められる。【下桐実雅子、永山悦子】
(毎日新聞) - 9月11日22時48分更新
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今回打ち上げられ2基が揃った光学衛星は、地上の1メートルの物体を識別できる解像度を持つが、この解像度は民間衛星の水準に合わせて1メートルである。米国の早期警戒衛星は、解像度が実に10センチであり、それに比べれば「お話にならない」といっても過言ではない。なぜこんなことになったかといえば、何も日本の技術が格段に劣っているというのが理由ではない。自衛隊の衛星利用を商用技術の水準に留めるべきだとした1985年の政府見解が最大の原因なのだ。この政府見解は「一般化原則」と呼ばれる。元はと言えば、1969年になされた宇宙の平和利用に関する国会決議が元凶であろう。「平和利用=非軍事」との解釈が野党のごり押しにより政府も受け入れざるを得なかった。今さら当時のことを責めても仕方ないが、政府の「一般化原則」は早急に改める必要があるし、北朝鮮によるミサイル実験の実施や核開発を受けて政治的にもそれほど困難なこととは思われない。是非とも新政権の英断を期待したい。これは、情報機関の充実といった情報分析のシステム向上とともに必要不可欠である。
7月の北朝鮮のミサイル実験に際しては、当時運用されていた2基の情報収集衛星は、テポドン2号の発射を見逃し、海上自衛隊のイージス艦も補足に失敗している。結局、発射の瞬間は米国の早期警戒衛星によってとらえられた。技術的・専門的なことはよく分からないが、やはり解像度の低さは原因の一つなのであろう。ミサイル防衛(MD)構想の推進にも障害になるのではないか。だいたい、「情報収集が大事だ」といいながら手足を縛っているのではどうしようもない。精確な情報を収集することは、同盟国たる米国をはじめとする他国との情報交換に必要不可欠である。情報は、ただ一方的にもらうものではなく、ギブアンドテイクによってより多くを入手できるものである。
一連の情報収集衛星の打ち上げは、安全保障上の成果としては「着手したことに意義がある」と評価できる程度なのかもしれない。しかし、副産物として、H2Aロケットの打ち上げ成功率が01年8月の初打ち上げ以降90%(世界平均が80~85%)に達したのは、我が国の衛星打ち上げビジネスにとって大きな収穫となった。さらなる信頼向上の確立とコストダウンが今後の課題であろう。
<国会決議の「平和の目的」と自衛隊による衛星利用についての政府見解(一般原則)>
利用が一般化している、及びそれと同機能の衛星は自衛隊が利用しても、決議の『平和の目的』に反しない。(1985年2月6日)
(参考記事)
<H2A成功>情報収集衛星は3基 識別能力など課題に
H2Aロケット10号機の打ち上げ成功で、情報収集衛星は3基になり、地球の全地点を1日1回は撮影できるようになった。しかし、地上の物体の識別性能は不十分で、巨額の費用とともに今後の課題となっている。
光学衛星は地上の1メートルの物体を識別できる望遠鏡を備える。レーダー衛星は、雲がかかっていても地上の様子をセンサーで把握できる。当初目標の2組4基態勢が整えば、対象をより詳細に把握できるようになる。
開発には打ち上げ失敗分も含め、06年度までに約3300億円かかる見通しだが、観測能力は米国の民間衛星レベルだ。
政府は、情報収集衛星の後継機で性能向上を目指すが、宇宙開発に詳しいジャーナリストの松浦晋也さんは「防衛庁は米国の商業衛星画像を購入し続けている。できているかどうか分からない北朝鮮のミサイルのために数千億円も投入するのはおかしい」と批判する。
これに対し、鈴木一人・筑波大助教授(国際政治学)は「日本側に情報があれば、ギブ・アンド・テークで他国の情報を得やすくなる。安全保障面で日本の地位は上がった」と指摘する。
一方、H2Aは01年8月の初打ち上げ以降、成功率は90%に達し、世界のロケットの初期段階成功率の80~85%を上回った。国は10年度までにさらに約10機を打ち上げ、信頼性の確立を目指す。
07年度からは民間主体でH2Aによる衛星打ち上げ事業が始まるが、日本の実績は米欧露に比べて圧倒的に少ない。受注には、一層の低コスト化も求められる。【下桐実雅子、永山悦子】
(毎日新聞) - 9月11日22時48分更新
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出来るのにやれないことが多すぎますよね。
しかし、何よりも日本自身の解釈によるところ大です。これを正そうと言う動きが自民党から出ています。20日づけのエントリーをご覧ください。
宇宙開発に限らず、私が歯がゆく思っている一つに航空機産業の遅れがあります。昔、YS-11という双発プロペラ機を開発し、一定の成果を上げましたが、その後、ジェット化の話は出ましたが、立ち消えになったのでしょうか。偏狭な愛国心からではなく、技術的に可能なら、せめてローカル路線用の双発ジェット旅客機くらいは国産にしてもらいたいと思います。
ところで猫研究員さんにメールでお願いしたいことがあります。こちらの送信先はinfo@newglobal-america.orgです。こちらのブログにもこのメール宛て先はリンクしてあります。
急なことで恐縮ですが宜しくお願いいたします。
「国策としての産業」という観点が不足しているんでしょうね。技術的には当然可能でしょうが、民間企業が純粋に生産するとしたら、ローカル路線用の双発ジェット旅客機を生産してもペイしないという判断かと思われます。
>舎亜歴さん
インターネットだってもとはといえば軍事技術ですもんね。
メール送らせていただきました。返信お待ちしています。