猫研究員の社会観察記

自民党中央政治大学院研究員である"猫研究員。"こと高峰康修とともに、日本国の舵取りについて考えましょう!

額賀防衛庁長官「敵基地攻撃能力は持つべき」

2006-07-11 05:36:38 | 安全保障・自衛隊
 額賀福志郎防衛庁長官は、9日、北朝鮮の弾道ミサイル発射を受け、敵のミサイル基地への攻撃について「独立国として憲法の範囲内で国民を守るために限定的な能力を持つのは当然」と述べ、自衛隊が敵地への攻撃能力を持つことを議論する必要性について言及した。我が国の政府公式見解は、鳩山一郎内閣が1956年に出した「我が国に対して急迫不正の侵害が行われ、他に手段がない場合、必要最小限度の措置を取ること、例えば誘導弾等の基地をたたくことは、日本国憲法の下でも自衛の範囲でも法理的に可能」というものである。額賀長官の発言は、これに沿ったものであり、理論的に全く正しい。
 我が国は専守防衛を国是として、攻撃的兵器を所有しないということで、長距離ミサイルや戦略爆撃機や攻撃型空母の保有は認められないとしてきた。しかし、攻撃性格を有するか否かは、主として使用方法の問題の方が大きい。そのよい例が空中給油機で、これを導入すると航続距離が伸びて攻撃力が高まるという理由で保有が見送られてきたが、航続時間が延びることは防空能力の増大に繋がるし、いわゆる国際貢献にも威力を発揮する。そこで、導入が決まったわけだが、中国の海洋侵出圧力のもと、我が国の制空権と制海権の確保は必須であるから、空中給油機導入は軍事的合理性に適う。かように、ある武器の導入は軍事的合理性の観点から判断されなければならない。敵基地攻撃能力を持つとなれば、戦略爆撃機なども想定できるが、最適なのは、やはり長距離巡航ミサイルであろう。これは、実際に2003年に検討されたことがある。ただ、対北朝鮮だけを念頭においてこれを導入するのは、硬直化した専守防衛理論を排するといった意味が濃くなる。換言すれば、主権国家としての体裁を整える意味合いが大きい。もちろん、それはそれで有意義なことだが、せっかくならば、例えば、離島防衛に資するかどうか、防空能力を高めることに繋がるかどうかなどの検討をすることがより本質的だろう。北朝鮮の脅威が去った後で、巡航ミサイルが無用の長物になっていたなどということのないよう、使途をよく検討しておくことである。この点、戦略爆撃機などは、北朝鮮の脅威がなくなれば使い道に困ると予想される。なお、私が言うところの「検討」は迅速な検討の意味であって、決して、お役所用語の「引き延ばす」意味のそれではない。
 引用した毎日新聞の記事では「そもそも、自衛隊は国土を守る「盾」の役割に徹し、敵国を攻撃する「矛」の役割は米軍が担うのが専守防衛。この見直しは集団的自衛権の行使など日米安保体制の根本的な変更につながりかねない。」などと述べているが、全くめちゃくちゃな話で、「自衛隊は国土を守る「盾」の役割に徹し、敵国を攻撃する「矛」の役割は米軍が担う」ことこそが集団的自衛権の行使である。同盟を結んでおいて集団的自衛権の行使がないなどということはありえない。防衛のための共同行動を集団的自衛権の行使でないと言い張るのならば、日本は米国の保護国であるということだ。この点、集団的自衛権は保有するが行使できないという政府の解釈も間違いである。「保護国というのは実態をあらわしていいではないか」と、シニカルな立場をとるならば話は別だが…。
 専守防衛に話を戻すと、米国との関係云々よりも「実際に攻撃されるまで何もしない」というほうが本質に近い。「日本が実際に攻撃を受けていない段階で先制攻撃的な形でそれをするんだというのは別問題。慎重に検討しなくてはいけない」という小泉総理の言葉もその枠内にとどまっている。国際法上「急迫不正の侵害」とは「実際に攻撃を受けた場合」だけでなく、そのおそれが明白である場合も含むと一般に解せられている。先制攻撃を全く認めないというのは合理的とはいえない。しかし、情報能力が十分でなければ敵基地攻撃といっても画にかいた餅であって、こちらの整備に力を注ぐことは決して忘れてはならない。そのためにも、MD構想の推進に伴う日米間の情報共有はきわめて重要である。



(参考記事1)
<北朝鮮ミサイル>「基地攻撃能力は持つべき」額賀長官
 額賀福志郎防衛庁長官は9日、北朝鮮の弾道ミサイル発射を受け、ミサイル基地への攻撃について「独立国として憲法の範囲内で国民を守るために限定的な能力を持つのは当然」と述べ、自衛隊が敵地への攻撃能力を持つことを議論すべきだとの考えを示した。東京都内で記者団に語った。
 ただ、「こういう事態が起こってすぐに結論を出すべきものではなく、与党の中でよく議論してもらいたい」とも語り、慎重に検討すべきだとの認識を示した。また、「現状では日米同盟があり役割分担をしている。敵地への攻撃は米軍が行う」と説明した。
 麻生太郎外相も同日、NHKの番組で「今の状況を考えた場合、国民の安全を守るためには(自衛権の範囲内でのミサイル基地攻撃は)間違いなく正しい」と語った。
 政府は56年、当時の鳩山一郎内閣が「我が国に対して急迫不正の侵害が行われ、他に手段がない場合、必要最小限度の措置を取ること、例えば誘導弾等の基地をたたくことは自衛の範囲で可能」との政府見解を出しており、額賀長官と麻生外相の発言は、これに沿ったものだ。【古本陽荘】
 ◇  ◇
 安倍晋三官房長官は10日午前の記者会見で「日米同盟で盾(日本)と矛(米国)という役割分担があるなかにおいて、こうした理論をまとめていく必要がある」と話した。

(参考記事2)
<北朝鮮ミサイル>自衛隊の「敵地攻撃能力」…議論が再燃
 北朝鮮の弾道ミサイル発射を受け、敵国のミサイル基地を攻撃する能力を自衛隊に保有させる議論が政府・与党内で再燃してきた。ミサイル防衛(MD)システムの配備が進んでいない現段階で弾頭を載せたミサイルを撃たれた場合、防御手段がないためだ。しかし、長距離ミサイルなど敵地攻撃を目的とした武器の保有を日本が避けてきたのは「専守防衛」の国是から。この見直しには国内や近隣諸国の強い反発が予想され、ハードルは極めて高いといえる。
 きっかけは「国民を守るために限定的な(敵地攻撃)能力を持つのは当然」と提起した9日の額賀福志郎防衛庁長官の発言。10日には「国民と国家を守るために何をすべきかという観点から常に検討、研究は必要」(安倍晋三官房長官)、「積極的に取り組む必要がある」(武部勤自民党幹事長)と同調する声が政府・与党内から相次いだ。
 政府は従来、自衛のためやむを得ない場合に限定し敵地攻撃は可能との憲法解釈をとる一方、大陸間弾道ミサイル(ICBM)と長距離戦略爆撃機、攻撃型空母については「他国の国土の壊滅的破壊のためにのみ用いられる攻撃型兵器」として保有を違憲としてきた。戦闘機の飛距離を伸ばす空中給油機はグレーゾーンにあったが、「防空能力の向上」などを理由に導入に踏み切った。
 北朝鮮が核拡散防止条約(NPT)脱退を宣言した03年には当時の石破茂防衛庁長官が敵地攻撃能力の保有検討に言及し、長距離巡航ミサイル「トマホーク」の導入論が浮上。中期防衛力整備計画を策定した04年には離島防衛などを目的に長射程の精密誘導ミサイル研究を始めようと防衛庁が動いたが、公明党などの強い反発で断念した経緯がある。ハードルの高さを知る防衛庁内は額賀長官の問題提起を歓迎しつつ、まずはMD導入の加速を優先する構えだ。
 そもそも、自衛隊は国土を守る「盾」の役割に徹し、敵国を攻撃する「矛」の役割は米軍が担うのが専守防衛。この見直しは集団的自衛権の行使など日米安保体制の根本的な変更につながりかねない。このため、公明党の神崎武法代表が10日、「そういう(敵地攻撃の)段階になれば全面戦争ということ。慎重に検討すべきだ」と否定的な考えを表明するなど、与党内の足並みもなかなかそろいそうにない。
 小泉純一郎首相も「議論するのは差し支えない」としながらも「日本が実際に攻撃を受けていない段階で先制攻撃的な形でそれをするんだというのは別問題。慎重に検討しなくてはいけない」と語った。【古本陽荘】
(毎日新聞) - 7月10日23時6分更新


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6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
抑止力 (iina)
2006-07-11 11:54:59
北の死の商人になるべくテポドンが飛ぶことを証明する

必要から飛ばしたという説は、根拠のないことでしょうか?

先刻承知ながら北には困ったものです。

隣国としての中国・韓国・ロシアも悪でも求心力から放たれると

難民がなだれ込む心配が高く、金体制が保って欲しいようですし・・・。

「敵基地攻撃能力は持つべき」は、抑止力として持つべきでしょう。

今の世は、残念ながらナイフを懐にいてれ、

付き合わざるを得ないようです。
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国連決議 (PJ)
2006-07-11 13:05:03
延期になりましたね。

日本は今回も苦杯を舐めさせられるのでしょうか。

せめて今回のことを防衛力の増強に繋げてもらわなければ。
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iinaさんへ (猫研究員。=高峰康修)
2006-07-12 10:37:55
コメントありがとうございます。



>北の死の商人になるべくテポドンが飛ぶことを証明する

必要から飛ばしたという説は、根拠のないことでしょうか?



それも、理由の一つでしょうね。デモンストレーションってやつで。



>隣国としての中国・韓国・ロシアも悪でも求心力から放たれると難民がなだれ込む心配が高く、金体制が保って欲しいようですし・・・。



中露は、難民よりも、地域のパワーバランスを考えていますよ。つまり、米国の一極支配は阻止するという観点や、北朝鮮を緩衝地帯として残しておきたいという意図です。



>今の世は、残念ながらナイフを懐にいてれ、付き合わざるを得ないようです。



全くその通りですよね。で、武器を持ちながらも使わないで自国の意図の通りに相手を動かす。これが最善ですね。

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PJさんへ (猫研究員。=高峰康修)
2006-07-12 10:41:37
国連決議の件は、まだ悲観的になるのは早いかもしれません。米国も、6カ国協議の枠組みを何とか残したいので中国に関与させたいということなのでしょう。

延期されている間の日本の外交力が問われることは間違いないですが。
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さっそく (PJ)
2006-07-13 11:25:18
一部のマスコミで、額賀さん、安部さん、麻生さんの一連の発言で『日本は戦争をするつもりかと外国の要人が心配している』みたいなことを言ってますね。

日本の現状を説明すれば、どこの国だって理解してくれると思うのですけど、心配なのは日本側の雰囲気です。

常任理事国の件で世界中の大使を呼び戻したときのことや、ワールドカップの日本チームを連想してしまうのは、私が小心者のせいでしょうかw

とは言っても、今回は、最悪、日本案が通らなかったところで、自衛隊が強化されることは間違いないし、特定アジア3カ国やロシアの言動を印象付けられるし、次回はもっと強い姿勢で臨める、なんて楽観的なことも考えていますw
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PJさんへ (猫研究員。=高峰康修)
2006-07-14 03:14:16
>一部のマスコミで、額賀さん、安部さん、麻生さんの一連の発言で『日本は戦争をするつもりかと外国の要人が心配している』みたいなことを言ってますね。



仮の話として、戦争をするつもりになっても、そういう能力がないというのに…。軍事のイロハも分からないものだから、臆面もなくそういう報道ができるのでしょう。分かって言ってるのだったら、さらに悪質ですが。



まあ、国連の安保理決議の件は楽観的に見ていてよいのではないでしょうかね。ご指摘のように、どっちに転んでも得られるものはありますから。
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