猫研究員の社会観察記

自民党中央政治大学院研究員である"猫研究員。"こと高峰康修とともに、日本国の舵取りについて考えましょう!

H2Aロケットによる4基目の情報収集衛星打ち上げ成功

2007-02-25 22:26:28 | 安全保障・自衛隊
 宇宙航空研究開発機構(JAXA)が24日、情報収集衛星を搭載したH2Aロケット12号機を種子島宇宙センターから打ち上げに成功した。今回打ち上げられたのは天候に関わらず地表面の様子を撮影できるレーダー衛星である。これで、情報収集衛星は目標とされた4基態勢(光学衛星・レーダー衛星のペア2組)が整ったことになる。この結果、昼夜を問わず天候にも左右されずに地上の全地点を1日に1回以上撮影することが可能になる。03年3月に1組の打ち上げに成功した後、同年11月に残る1組の打ち上げに失敗したことが響いて当初の計画より約3年遅れてしまった。 
 情報収集衛星に関する課題は、やはり何といっても解像度である。解像度が1メートル前後というのは民間衛星と同じレベルかそれ以下であり、安全保障の目的に供用するには心許ない。これは、日本の技術のレベルが低いからというより、1969年の「宇宙利用に関する国会決議」と1985年の「一般化原則」と呼ばれる政府見解が元凶である。民間衛星よりも精度を上げると「軍事目的」となってこれらに反するからだめだという話なのだ。この点については2006年9月に3基目が打ち上げられた際に書いた『H2Aロケットによる3基目の情報収集衛星打ち上げ成功』も合わせて参照していただきたい。この問題点を解決するには現在与党が国会への提出を目指している宇宙基本法(仮称)の早期成立が肝要である。なお、2009年度には高分解能の「光学3号」を打ち上げる予定となっているが、それでも解像度は60センチである。解像度のほかに重要なのは、衛星の個数である。2組4基で全球の全地点を24時間に1回ずつ撮影できるのだが、これではいかにも間隔があきすぎる。せめてこの3倍の6組12基で8時間おきに画像をとるぐらいでなければ情報収集の効果があまりあがらないのではないかと考えられる。しかも、各衛星の耐用年数は5年程度なので、前回の1組2基が2003年に打ち上げられたということは2組4期体制もさほど長く続かないということである。そこで、2011年度には情報収集衛星をもう一組打ち上げる計画である。
 技術的に重要なことをもう一点指摘しておくと、衛星の姿勢制御による安定化である。要するに、撮影する時にいかにぶれないようにするかである。これが実は難しいと、確か元陸自の志方氏だったと思うが指摘しておられた。
 ソフト面での課題は、効果的な情報収集態勢に向けての組織づくりと秘密の厳格な保持である。現在内閣府に情報衛星センターがありそこが衛星による情報収集の中枢となっているが、他省庁に情報をリリースすると漏洩のおそれがあるということで限られた情報がわずかに流される程度である。これでは情報収集する意味がない。やはり、包括的な情報保護法を制定した上でもっと柔軟に情報を活用することができるようにすべきである。
 今回の一連の情報収集衛星の打ち上げには2006年度までに5050億円の費用を要した。この点につき「巨額すぎる」との批判がある。例えば(参考記事1)としてあげた毎日新聞の解説記事である。当該記事の本音は「衛星を中心とした米のネットワーク構想や宇宙の軍事化の動きに組み込まれる恐れがある。攻撃能力を持たないからいいという甘いものではない」という部分にあるのだろうが、いかにも開発費用が一番の問題であるかのように議論をすり替えているのは姑息極まりない。
 そもそも大規模な技術開発には初期投資がかなり必要となるのは当然である。しかも国家国民の安全に関わることである。98年度から06年度に費やした費用が5000億円あまりなど安いものである。むしろ01年度予算の773億円をピークに毎年減少して07億円度は602億円に減ってしまっていることの方が問題である。もちろん、むやみやたらと毎年増額すればよいわけではない。開発が軌道に乗れば自ずから額は漸減する。しかし、現段階ではとてもではないが情報収集に十分な態勢が確立されたとは言えない。この段階で減額されているのが問題なのである。また、国民への説明責任云々ともっともらしいことを言っているが、情報収集衛星に関することなど中枢の部分は秘密にしておくのが当然であって、いちいち説明されては敵に手の内を見せることであり、それこそ予算を無駄にすることに他ならない。対照的に(参考記事2)にあげた読売の社説は理に適っている。
最後に、情報収集衛星の使用方法についてもう一点。情報収集衛星のプロジェクトはいうまでもなく98年の北朝鮮のミサイル実験がきっかけとなったものだが、情報収集は敵方からだけではなく味方からも行なうことができる。例えば、米国が世界中の海に展開している艦隊の動きが分かれば、米国がこれからとろうとしている軍事的選択肢が分かり、我が国が同盟国としてどう行動すべきかという判断材料を与えてくれる。艦隊の動きなど同盟国といえども教えてくれるわけはないのだから、情報収集衛星は有用なのである。


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(参考記事1)
<情報収集衛星>打ち上げ成功…4基態勢に
(2月24日20時36分配信 毎日新聞)
 4基目の情報収集衛星が24日、打ち上げに成功した。今国会には与党が防衛目的の宇宙利用に道を開く宇宙基本法案(仮称)の提案を目指しており、情報収集能力の向上に期待が集まる。しかし、過去の打ち上げ失敗で本格運用の4基態勢は長くは続かないとみられ、肝心の撮影能力は米国の商業衛星にも劣る。5000億円という巨額の費用に見合うのか。【下桐実雅子、反田昌平、須田桃子】
 ◇間もなく寿命?
 「米国の衛星は数センチの大きさのものまで見分けられる能力を持つというが、提供していい情報しか日本には出してこない。自前の情報が得られる意味は大きい」。4基態勢の実現に、防衛省幹部はこう話す。
 情報収集衛星は、北朝鮮のテポドンミサイル発射(98年)を機に導入された。当初は03年11月に4基態勢になる予定だったが、打ち上げに失敗。同年3月に打ち上げた最初の2基は設計寿命の5年を07年度に迎える。衛星を運用する内閣衛星情報センターは「最初の2基は順調なので寿命は延びるだろう」と話すが確証はない。
 ◇一切公開されず
 情報収集衛星には98~06年度に5050億円が投じられた。大規模災害時にも活用される。しかし、これまで災害時も含め撮影された画像は一切公開されたことがない。「公開すると衛星の正確な軌道が分かってしまう」(同センター)と説明する。米国は商業衛星ですら物体の識別能力は60センチ。情報収集衛星は政府見解により物体の識別能力を民間レベルの1メートルに制限されているが、実際はこれより悪く公開しにくいのではないかという声さえある。
 政府の総合科学技術会議の事業評価では「機微な情報を含むため対象外」(内閣府)だ。巨額な税金が投じられた事業だが、どのように役立っているのかは、国民には見えない。
 内部からも「ある情報をつかんで、2時間後に撮影してもらいたいと要望しても、他の役所(警察庁、消防庁、国土地理院、内閣官房)の仕事があるので撮影してもらえないこともある」(防衛省)と不満が漏れる。
 ◇宇宙基本法は?
 宇宙基本法案が成立すると、「非侵略」であれば軍事利用もできる。防衛省の政策担当者も「早期警戒衛星のような軍用システムを持つべきかなど、議論がでてくると思う」とみる。
 立命館大の藤岡惇教授(アメリカ経済学)は「基本法ができれば、衛星を中心とした米のネットワーク構想や宇宙の軍事化の動きに組み込まれる恐れがある。攻撃能力を持たないからいいという甘いものではない」と新たな脅威を指摘する。
 一方、内閣衛星情報センターは法案の成否にかかわらず、4基態勢を維持する考えだ。09年度打ち上げ予定の後継衛星は物体の識別能力60センチレベルを目指し、11年度にはさらに2基を打ち上げる予定。来年度には約600億円が計上されている。
 宇宙開発に詳しいジャーナリストの松浦晋也さんは「過剰な秘密主義のため、きちんと使えているのか分からない。衛星の費用は民生用の宇宙開発費を削ってねん出されたが、現状では5050億円の価値はなく、国民への説明責任も果たしていない」と厳しい。

(参考記事2)
<2月25日付・読売社説[情報収集衛星]「宇宙からの監視網はできたが」>
 日本の安全保障を支える「宇宙からの監視網」が、やっと目指す形に近づいてきた。
 4基目となる政府の情報収集衛星が、鹿児島県種子島から国産ロケット「H2A」12号機で打ち上げられ、予定の軌道に乗った。
 監視網は、望遠カメラを備えた光学衛星2基と、夜間、曇天で撮影可能なレーダー衛星2基の計4基で構成される。今回は2基目のレーダー衛星だ。軌道上での点検を無事に終え、運用を始めれば、日本が独自に、地球のどこでも、1日に1回以上撮影できる体制が整う。
 速やかに本格運用へ移行させたい。必要な場所を、必要な時に、確実に撮影して画像を詳細に分析し、活用する体制を早急に築かねばならない。
 北朝鮮の核実験と、度重なる弾道ミサイル発射実験により、日本を巡る安全保障環境は一段と厳しくなった。中国も軍備の増強に力を注ぎ、日本近海などで活動を活発化させている。宇宙からの監視網にかかる期待は極めて大きい。
 それにしても、監視網の形が整うまでに時間がかかった。1998年の北朝鮮の「テポドン」発射を契機に整備が始まり、当初計画では、4年前に4基体制になっているはずだった。
 H2Aロケットが足を引っ張った。2003年3月に、まず2基を打ち上げたものの、続く11月の打ち上げに失敗して2基を同時に失った。この反省から1基ずつの打ち上げに変更し、昨年9月に光学衛星を打ち上げている。
 機密の塊ともいえる衛星だけに、外国のロケットに打ち上げを依頼することはできない。ところが、打ち上げ失敗に備えて予備の衛星を準備しておくなどの対策は取られていなかった。
 この間に、当初打ち上げた2基は、設計寿命の5年が迫っている。すでに代わりの衛星は待ったなしの状態だ。
 次の打ち上げは、09年に予定されている。監視網に穴が開かないよう、これまでの遅延を教訓に、着実な衛星製造、打ち上げを目指さなくてはならない。
 衛星の目の強化も急務だ。
 現在は、地上の約1メートルの物体を見分ける能力しかない。トラックと乗用車を区別できる程度の解像度だ。世界では民間衛星でも同じ能力がある。
 政府は、次の世代の光学衛星で、この解像度を60センチまで高める目標を掲げている。今回の打ち上げでは、その実証機も無事に軌道投入された。
 日本が独自に情報を得て活用するには解析などのソフトを含め自前で高度な技術を持つ必要がある。そのための技術開発でも手を抜くべきではない。
(2007年2月25日1時34分 読売新聞)


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2 コメント

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衛星は覗きの道具 (加藤)
2007-02-26 18:03:42
愛知県に住んでいます。スパイ衛星は軌道コ-スを変えたり。高度を変更すると燃料を消費してなくなると終わりですし、ソ連のコスモス衛星は7日間ぐらいの寿命しかないと本で読みました。日本は国境警備隊もなく四方に海に囲まれ潜水艦だけでなく難民船でもたやすく侵入できる国なのに広大な海をシーレーン防衛しなければ原油も資源も食料も確保できない国です。正しい判断をするには正確でリアルタイムな情報が必要です、日本はレーダーがなく暗号はすべて解読された太平洋戦争の悲劇は伝えるべきです、戦争や紛争を回避するには自前の情報入手手段をもつべきだと思います、
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コメントありがとうございます (猫研究員。=高峰康修)
2007-02-27 01:47:58
加藤さま、コメントありがとうございます。
おっしゃるように、過去の失敗に学ばなければいけませんよね。
偵察衛星のような機械的手段による情報収集、人的情報収集(いわゆる諜報ですね)、収集した情報の分析が有機的に一体となって政策決定への判断材料となるようにしていかなければなりません。最近になってようやく情報収集の重要性が少しずつ認識されるようになってきたようですが、まだまだ端緒にすぎません。
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