猫研究員の社会観察記

自民党中央政治大学院研究員である"猫研究員。"こと高峰康修とともに、日本国の舵取りについて考えましょう!

海流予測システムで海運燃料節減、データ提供へ

2006-06-06 02:39:16 | 環境・防災・エネルギー
 海洋国家にふさわしい産学連携の一例として、海洋研究開発機構が、独自の海流予測システムを使い、海運会社にそのデータを有償で提供する有限責任事業組合を設立したというニュースをご紹介したい。
 海流予測システムは、海洋研究開発機構が世界で初めて開発に成功したもので、人工衛星や海に浮かべた3000個の海洋ブイによる海流や水位、水温などの観測データをもとに、最大2か月先までの特定海域の流れの向きや強さを、スーパーコンピューターを用いてシミュレートして予測するものである。ちょうど、気象庁の天気予報と同様の仕組みで、言ってみれば「海の天気予報」である。得られたデータは毎日更新されて有償で船舶に向けて配信され、それを参考に船舶の航行計画を立てることにより、1船舶当たり最大2%の燃料節減が可能になる。微々たる量といえばそうかもしれないが、それでも、世界中の船舶がこのシステムを使うと、年間14万6000トンの重油、53億円の燃料節減が可能になると試算されている。
 省エネに寄与する程度もさることながら、グローバルな規模で貢献できるこういうシステムを開発すること自体が、海洋国家の戦略として意義深いものである。まさに産官学の連携が必要とされる分野である。予算の重点配分も望まれるところには違いないが、単純に「予算の重点配分」と書くと「目先で見て役に立つ研究に集中的に予算配分すべきだ」というふうに誤解されそうなので、少し補足しておく。
 今回紹介した取り組みは、海洋学の基礎的な研究に立脚したものである。プロジェクトの代表を務める山形俊男・東京大教授は、工学部ではなくて理学部で海流の基礎理論を中心とする海洋学を専攻している日本を代表する研究者である。基礎的研究というと、役に立たないものとして、効率化の名の下に切り捨てられかねない分野ではある。しかし、ご紹介した事例の他にも、純粋な学問の代表格と思われがちな数学も、アメリカなどでは暗号の作成・解読に必須な技術として位置づけられている側面があるなど、先端の技術には基礎的な研究は必要であり大前提である。宇宙への興味も、衛星打ち上げ産業を盛んにしていく上で日本のイメージ向上に役立つ上に、種々の副産物が安全保障面でも有用であると期待される。今回は、理系の例ばかり挙げたが、基礎的研究の重要性を少しでも実感していただければと思う。



(参考記事1)
[海流予測システムで海運燃料節減、データ提供へ]
 海洋研究開発機構は、開発した世界初の海流予測システムを使い、海運会社にそのデータを有償で提供する有限責任事業組合を設立した。
 データに基づき船舶の運航計画を立てることで、時間短縮や燃料節減に役立てられる。
 海流予測システムは人工衛星や、海に浮かべた3000個の海洋ブイによる海流や水位、水温などの観測データをもとに、スーパーコンピューターで計算し、最大2か月先までの特定海域の流れの向きや強さを予測するもの。
 提供データは毎日更新し、通信衛星を介して船舶に送信し、航路決定の参考にしてもらう。
 試算によれば、黒潮の流れを利用してアジアから北米に向かう航路で、1船舶当たり、最大2%の燃料節減が可能になるという。世界中の船舶がこのシステムを使うと、年間14万6000トンの重油、53億円の燃料節減が可能になる。
 同組合は任意組合と株式会社のそれぞれの長所を取り入れた新しいタイプの営利組織。
 事業組合の代表を務める山形俊男・東京大教授は「これまでは海流予測は精度が低いとして利用されなかった。高精度の情報を提供し、より使いやすい仕組みにしていきたい」と話している。
(2006年6月3日19時43分 読売新聞)


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2 コメント

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種子島 (PJ)
2006-06-06 12:00:55
ロケット打ち上げの記者会見でやたらお年寄りが出てくるのが気になります。ああいう分野でお年寄りの権威が現場に蔓延した場合どうなるのかなと不安を覚えます。

文系では、哲学や歴史など、もっと日本からの情報が発信されて欲しいと思います。アジアの思想家は中国人ばかりと思われているようですし、いくら歴史の研究が進んでも、国際的な認知が無ければ日本に対する誤解は解けません。

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PJさんへ (猫研究員。=高峰康修)
2006-06-07 19:14:17
いつもコメントありがとうございます。

学問においてはお年寄りでなんであれ「権威」は進歩の妨げになりますよね。

文系の学問においても日本の発信力を向上させるべきというのは全く同感です。たとえば、国立大の政治史の講座などは存在理由を厳しく問われていて、なかなかお金がおりないなどという話も聞きますが、そういう学問も日本の政治全体の土壌を豊かにするうえで重要だと思います。
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