朝鮮半島情勢の第一人者・辺真一氏が真相を斬る!
「“第二次朝鮮戦争”パニックは杞憂。韓国の哨戒艦
沈没事件で、北朝鮮が本当に狙うもの」
――『コリア・レポート』の辺真一編集長に聞く
(ダイヤモンドオンラインより)
朝鮮半島情勢が、かつてないほど緊迫している。黄海で沈没した韓国の哨戒艦が、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の潜水艦が発射した魚雷に撃沈されたという見方が強まっているためだ。事件は国際社会を巻き込み、韓国は国連安全保障理事会に非難決議を呼びかけている。最近では、「第二次朝鮮戦争勃発か」といった物騒な報道まで目立つようになった。しかし、それは一面の見方に過ぎない。この事件の背後では、各国の深謀遠慮が複雑に絡み合っている。朝鮮半島情勢に詳しい『コリア・レポート』の辺真一編集長が、韓国哨戒艦沈没事件の「真相」を斬る。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 小尾拓也)
――朝鮮半島情勢がかつてないほど緊迫している。3月に黄海で沈没した韓国の哨戒艦が、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の潜水艦が発射した魚雷に撃沈されたという見方が強まっているためだ。事件は国際社会を巻き込み、韓国が国連安全保障理事会に非難決議を呼びかけるに至った。この事件の先行きをどう予測するか?
米国や日本を睨んで北朝鮮と絶妙な「共存関係」を続ける中国やロシアは、今回の事件への北朝鮮の関与を認めていない。そのため、玉虫色の議長談話が出され、非難決議の可能性は遠のいた。しかし、韓国はこのまま黙っていないだろう。
韓国が米国に強く働きかければ、4年前のマカオのケースと同じく、北朝鮮に対して金融制裁が発動されたり、テロ支援国家に再指定される可能性もある。そうなれば北は、再び核実験やテポドンミサイルの発射に踏み切るかもしれない。
韓国の出方によっては、今後朝鮮半島の軍事的緊張が一気に高まるかもしれない。
――この事件は、日本にとっても「対岸の火事」ではない。軍事的緊張が回避されるシナリオは、考えられないだろうか?
韓国の納得がいかない限り、すぐに緊張が去る見込みは少ない。仮に国連や米国がレッドカードもイエローカードも出さない穏便外交に終始した場合は、事件への「報復」を明言している韓国軍が、軍事懲罰に出る可能性もある。
最も可能性が高いのが、「渡り蟹合戦」だ。朝鮮半島の海域は、6月中旬~下旬にかけて渡り蟹漁の最盛期となり、海の軍事境界線であるNNL(北方限界線)付近には、北朝鮮、韓国、中国などの漁船が集まってくる。
北は韓国が設定したこの境界線を不服とし、韓国の領海の一部を自分の領海だと主張し続けてきた。そのため、万一北の船が韓国の警戒水域に侵入してきた場合、韓国の警備艦がそれを口実に、ここぞとばかりに攻撃を開始するだろう。
NNLは、過去何度も南北間の火種になってきた。この海域で韓国と北朝鮮が正面衝突したのは、1999年、2002年、09年の3回。うち1999年と02年の衝突は、それぞれ「第一次海戦」「第二次海戦」と呼ばれている。昨今の緊迫した情勢を考えると、今後「第三次海戦」が起きる可能性は、低くないだろう。
他にも火種はある。「渡り蟹合戦」が回避されても、7月に東西の日本海と黄海の間で行なわれる米韓合同軍事演習に紛れて、軍事衝突が起きることも考えられる。
陸においても同様だ。哨戒艦事件以降、韓国は北緯38度線で拡声器による北の非難宣伝や大量のビラ撒きを計画しているが、目下様子見を続けている。韓国がもしこれを始めれば、非武装地域で両国の衝突が起きるかもしれない。
――何かうまい「落としどころ」はないのだろうか?
それがなかなか難しい。表面的な軋轢だけでなく、背後には両国のプライドが深く絡み合っているからだ。
韓国は北朝鮮に対して、事件の関与を認め、謝罪をし、責任者を処罰するという3つの要求を突きつけているが、北は「韓国の自作自演」と言い張って関与を否定している。
国連で非難決議が成立すれば韓国はこぶしを降ろせることができるが、そうでなければ矛を収めたくても収めようがない。
そもそも論として、NNLが現在の形で存在する限り、小競り合いが終わる見通しは立たない。相手の警告に従って領海から出て行けば、その時点で「負け」になってしまうため、お互い引くに引けないからだ。北朝鮮は「南下しても当然」と考えているが、それは韓国にとって明らかな領海侵犯。どこまで行っても意見が噛み合わない。
(中略)
――では、北朝鮮が事件に関与していた場合、彼らの「真の目的」は何なのか?
表向きの目的は韓国への報復だろうが、その背後には「平和協定締結の必要性を国際社会に訴える」という目的があると思う。
哨戒艦事件を起こすことにより、「韓国との小競り合いが絶えないのは不当なNNLのせい」「『撃ち方止め』のままの休戦協定を米朝間で強固な平和協定に替える必要がある」ということを、暗に主張することができるからだ。
これまで米国は、核開発問題の解決を議論するための「6ヵ国協議」に、北朝鮮を参加させようと苦心していた。北は「米国が平和協定の議論に応じるならば出てもよい」という条件をつけて、米国と対峙してきた。
そのさなかに起きたのが、今回の哨戒艦事件だ。これにより、韓国の世論は「6ヵ国協議よりも哨戒艦事件の解決がまず先」という意見に一気に傾いた。
そうなると、困るのは米国だ。「6ヵ国協議」の空白状態が続けば続くほど、その間に北の核開発はどんどん進んでしまう。北がそれをダシに使い、核開発中止の見返りとして巨額の経済援助を求めてきても、無下に断れないだろう。
つまり北朝鮮は、米国と韓国の間に楔を深く打ち込むことに成功したと言える。
――そこまで睨んで今回の事件に関与したとしたら、驚くほどの周到ぶりだ。
ラングーン事件(83年)や大韓航空機爆破事件(87年)のときも、今回と全く同じパターンだった。北は事件を「韓国のでっち上げだ」と主張し続け、結局煙に巻いてしまった。大韓航空機事件から3年後には、南北首脳会談まで実現している。
韓国の李明博大統領は「今度こそ許さない」と怒っているが、北は「李大統領とは一切の会談に応じない」と言っている。そんな状態が続いて困るのは、他ならぬ米国や韓国だ。
戦争不安が報道されればされるほど、平和協定の必要がクローズアップされることもあり、まさに北が思い描く通りのシナリオになりつつある。
金総書記は、米国のクリントン元大統領やブッシュ前大統領を相手に、「チキンレース」を繰り広げてきた強者だ。今は、いまいち態度がはっきりしないオバマ大統領の出方を探っているところだろう。
――では、今後大規模な軍事衝突に日本が巻き込まれる恐れはないということか?
全面戦争と言わないまでも、海や38度線付近における「局地戦争」が起きる可能性は、否定できない。金総書記の言い分ではないが、当局が預かり知らないところで現場の軍同士が衝突することも、ないとは言えないからだ。
今回の哨戒艦事件に関して、民主党は韓国に歩調を合わせる方針を取っている。なおかつ、米国と強固な安全保障体制を築いている日本にとって、「在韓米軍は在日米軍である」と言っても過言ではない。
当然北朝鮮も、アジアにおける米国、韓国、日本は一心同体と見ている。北朝鮮と韓国の対決に米国が一切関与しないなら話は別だが、「北朝鮮 VS 米韓連合軍」という構図になったら、日本は否応なくこれに関与しなくてはならないだろう。
そうなれば、日本が再びテポドンミサイルの威嚇を受ける可能性も、なくはないと言える。
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「“第二次朝鮮戦争”パニックは杞憂。韓国の哨戒艦
沈没事件で、北朝鮮が本当に狙うもの」
――『コリア・レポート』の辺真一編集長に聞く
(ダイヤモンドオンラインより)
朝鮮半島情勢が、かつてないほど緊迫している。黄海で沈没した韓国の哨戒艦が、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の潜水艦が発射した魚雷に撃沈されたという見方が強まっているためだ。事件は国際社会を巻き込み、韓国は国連安全保障理事会に非難決議を呼びかけている。最近では、「第二次朝鮮戦争勃発か」といった物騒な報道まで目立つようになった。しかし、それは一面の見方に過ぎない。この事件の背後では、各国の深謀遠慮が複雑に絡み合っている。朝鮮半島情勢に詳しい『コリア・レポート』の辺真一編集長が、韓国哨戒艦沈没事件の「真相」を斬る。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 小尾拓也)
――朝鮮半島情勢がかつてないほど緊迫している。3月に黄海で沈没した韓国の哨戒艦が、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の潜水艦が発射した魚雷に撃沈されたという見方が強まっているためだ。事件は国際社会を巻き込み、韓国が国連安全保障理事会に非難決議を呼びかけるに至った。この事件の先行きをどう予測するか?
米国や日本を睨んで北朝鮮と絶妙な「共存関係」を続ける中国やロシアは、今回の事件への北朝鮮の関与を認めていない。そのため、玉虫色の議長談話が出され、非難決議の可能性は遠のいた。しかし、韓国はこのまま黙っていないだろう。
韓国が米国に強く働きかければ、4年前のマカオのケースと同じく、北朝鮮に対して金融制裁が発動されたり、テロ支援国家に再指定される可能性もある。そうなれば北は、再び核実験やテポドンミサイルの発射に踏み切るかもしれない。
韓国の出方によっては、今後朝鮮半島の軍事的緊張が一気に高まるかもしれない。
――この事件は、日本にとっても「対岸の火事」ではない。軍事的緊張が回避されるシナリオは、考えられないだろうか?
韓国の納得がいかない限り、すぐに緊張が去る見込みは少ない。仮に国連や米国がレッドカードもイエローカードも出さない穏便外交に終始した場合は、事件への「報復」を明言している韓国軍が、軍事懲罰に出る可能性もある。
最も可能性が高いのが、「渡り蟹合戦」だ。朝鮮半島の海域は、6月中旬~下旬にかけて渡り蟹漁の最盛期となり、海の軍事境界線であるNNL(北方限界線)付近には、北朝鮮、韓国、中国などの漁船が集まってくる。
北は韓国が設定したこの境界線を不服とし、韓国の領海の一部を自分の領海だと主張し続けてきた。そのため、万一北の船が韓国の警戒水域に侵入してきた場合、韓国の警備艦がそれを口実に、ここぞとばかりに攻撃を開始するだろう。
NNLは、過去何度も南北間の火種になってきた。この海域で韓国と北朝鮮が正面衝突したのは、1999年、2002年、09年の3回。うち1999年と02年の衝突は、それぞれ「第一次海戦」「第二次海戦」と呼ばれている。昨今の緊迫した情勢を考えると、今後「第三次海戦」が起きる可能性は、低くないだろう。
他にも火種はある。「渡り蟹合戦」が回避されても、7月に東西の日本海と黄海の間で行なわれる米韓合同軍事演習に紛れて、軍事衝突が起きることも考えられる。
陸においても同様だ。哨戒艦事件以降、韓国は北緯38度線で拡声器による北の非難宣伝や大量のビラ撒きを計画しているが、目下様子見を続けている。韓国がもしこれを始めれば、非武装地域で両国の衝突が起きるかもしれない。
――何かうまい「落としどころ」はないのだろうか?
それがなかなか難しい。表面的な軋轢だけでなく、背後には両国のプライドが深く絡み合っているからだ。
韓国は北朝鮮に対して、事件の関与を認め、謝罪をし、責任者を処罰するという3つの要求を突きつけているが、北は「韓国の自作自演」と言い張って関与を否定している。
国連で非難決議が成立すれば韓国はこぶしを降ろせることができるが、そうでなければ矛を収めたくても収めようがない。
そもそも論として、NNLが現在の形で存在する限り、小競り合いが終わる見通しは立たない。相手の警告に従って領海から出て行けば、その時点で「負け」になってしまうため、お互い引くに引けないからだ。北朝鮮は「南下しても当然」と考えているが、それは韓国にとって明らかな領海侵犯。どこまで行っても意見が噛み合わない。
(中略)
――では、北朝鮮が事件に関与していた場合、彼らの「真の目的」は何なのか?
表向きの目的は韓国への報復だろうが、その背後には「平和協定締結の必要性を国際社会に訴える」という目的があると思う。
哨戒艦事件を起こすことにより、「韓国との小競り合いが絶えないのは不当なNNLのせい」「『撃ち方止め』のままの休戦協定を米朝間で強固な平和協定に替える必要がある」ということを、暗に主張することができるからだ。
これまで米国は、核開発問題の解決を議論するための「6ヵ国協議」に、北朝鮮を参加させようと苦心していた。北は「米国が平和協定の議論に応じるならば出てもよい」という条件をつけて、米国と対峙してきた。
そのさなかに起きたのが、今回の哨戒艦事件だ。これにより、韓国の世論は「6ヵ国協議よりも哨戒艦事件の解決がまず先」という意見に一気に傾いた。
そうなると、困るのは米国だ。「6ヵ国協議」の空白状態が続けば続くほど、その間に北の核開発はどんどん進んでしまう。北がそれをダシに使い、核開発中止の見返りとして巨額の経済援助を求めてきても、無下に断れないだろう。
つまり北朝鮮は、米国と韓国の間に楔を深く打ち込むことに成功したと言える。
――そこまで睨んで今回の事件に関与したとしたら、驚くほどの周到ぶりだ。
ラングーン事件(83年)や大韓航空機爆破事件(87年)のときも、今回と全く同じパターンだった。北は事件を「韓国のでっち上げだ」と主張し続け、結局煙に巻いてしまった。大韓航空機事件から3年後には、南北首脳会談まで実現している。
韓国の李明博大統領は「今度こそ許さない」と怒っているが、北は「李大統領とは一切の会談に応じない」と言っている。そんな状態が続いて困るのは、他ならぬ米国や韓国だ。
戦争不安が報道されればされるほど、平和協定の必要がクローズアップされることもあり、まさに北が思い描く通りのシナリオになりつつある。
金総書記は、米国のクリントン元大統領やブッシュ前大統領を相手に、「チキンレース」を繰り広げてきた強者だ。今は、いまいち態度がはっきりしないオバマ大統領の出方を探っているところだろう。
――では、今後大規模な軍事衝突に日本が巻き込まれる恐れはないということか?
全面戦争と言わないまでも、海や38度線付近における「局地戦争」が起きる可能性は、否定できない。金総書記の言い分ではないが、当局が預かり知らないところで現場の軍同士が衝突することも、ないとは言えないからだ。
今回の哨戒艦事件に関して、民主党は韓国に歩調を合わせる方針を取っている。なおかつ、米国と強固な安全保障体制を築いている日本にとって、「在韓米軍は在日米軍である」と言っても過言ではない。
当然北朝鮮も、アジアにおける米国、韓国、日本は一心同体と見ている。北朝鮮と韓国の対決に米国が一切関与しないなら話は別だが、「北朝鮮 VS 米韓連合軍」という構図になったら、日本は否応なくこれに関与しなくてはならないだろう。
そうなれば、日本が再びテポドンミサイルの威嚇を受ける可能性も、なくはないと言える。
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徹底的な経済制裁で干上がらせ、テポドンを発射させてからそれを理由に叩くというアメリカ的発想もあるが、回りくどい。HAARPを使えば良い!!