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国難打破から、いざ、未来創造へ

【櫻井よしこ 次期首相に申す】中国の動きを注視せよ

2009年09月10日 | 民主党政権
産経新聞 9月10日より転載)

 鳩山由紀夫次期首相を多くの難題が待ち受けている。日本を取り巻く国際社会は大きく変化しており、その意味で、鳩山氏は平時の首相ではなく、有事対応内閣の長としての心構えが必要だ。

 鳩山次期首相には心に刻んでほしい2つの緊急課題がある。東シナ海のガス田をめぐる中国の不穏な動きと、気候変動に対処するためのCO2大幅削減問題である。
 ガス田については昨年6月、日中共同開発が合意された。東シナ海の中間線近くの翌檜(あすなろ)(中国名・龍井)と中間線からわずかばかり中国側に入った白樺(春暁)の2カ所の開発に、日本側が資本参加するとの内容で、計画の詳細が詰まるまでは中国は開発を中断すると合意した。
 以来、日本側は計画の詳細を詰めるべく、再三再四、交渉を持ちかけたが、中国は一切応じなかった。そして、今年7月、突然、一方的に、行動を開始した。
 海上自衛隊のP3C哨戒機が白樺で作業する中国船を発見、撮影したのは7月10日だった。13日夕方には藪中三十二外務次官が記者会見した。白樺に集結している中国船の行動を中国側にただした結果、「中国側はガス田の維持、管理だと説明した」とのことで、藪中次官は「維持、管理の必要があるというなら分かる」と語った。
 だが、中国側の説明が虚偽であることはすぐに判明した。彼らが白樺に持ち込んだ資材には、維持管理の範囲を超えた開発施設構築用のものが含まれていたのだ。
 この事態を受けて中曽根弘文外相は、14日、閣議後の記者会見で、「掘削用ドリルの確認はしていないが、将来の(中国単独の)開発の準備のための資材が含まれている可能性はある」「信頼を損なうような行為はとらないように中国側に申し入れた」と述べた。

 7月22日、タイのプーケットでも中曽根外相は楊潔●(ヨウケツチ)外相に白樺での作業に「強い懸念」を表明、楊外相は「ガス田の実質的な変更はない。中国も日本との合意を重視している。船の動きは管理作業だ」と言い抜けた。
 だが現実には白樺の作業は急ピッチで進み、8月21日までに、ガス田開発・掘削に必要な3つの施設、技術者らの住居棟、掘削塔、処理施設のすべてが完了した。
 ここに至るまでに、日中間で40回近い交渉が行われたのだが、日本側が一連の動きを全く阻止できなかったのは、極めて深刻である。日本側は、中国の行為は昨年の日中合意の精神に反する、一連の作業が維持管理のためとの説明は受けいれられないと繰り返し、中国側は「維持管理だ」と言い張った。7月から8月にかけて日本は政治空白のまっただ中で漂流していた。政治が事実上機能停止した状況下で、日本側がどのような言葉を突きつけても、ほとんど意味はない。中国側は、日本の政治空白の間隙(かんげき)を狙ったかのように、必要な全設備を完成させ、既成事実を作り上げた。

 尖閣諸島および東シナ海問題において中国は徹頭徹尾、理不尽なゴリ押しを重ねてきた。理不尽外交の現場では中国国内の反日運動も、過去21年間に20倍に増えた軍事予算と強大化する軍事力も、格好の材料として利用されてきた。
                   ◇
 歴史問題、反日運動、軍事力。あらゆる要素を活用して、尖閣諸島および東シナ海ガス田に関する中国の主張を日本に押しつけてきたのだ。


次期首相として鳩山氏はこの中国の交渉術を心してほしい。友愛を掲げつつも、それが通じる相手か否かを判断し、中国の不当な主張や暴挙に屈してはならない。東シナ海で、中国があと一歩踏み出し、掘削を開始するような場合には、断固たる措置をとり、物理的に排除することをためらってはならない。そのような危うい線にまで来たのは、中国側に責任がある。そのことを、理性的に伝え、あらゆる事態への対処策を整え、日本国の決意を示すべきだろう。


 もう一点は、気候変動への取り組み、大規模なCO2削減である。鳩山氏は90年比25%、05年比で30%の削減を打ち出した。EUが掲げるのは05年比で13%、米国は14%である。麻生太郎首相が掲げた15%は、大きな目標ではあったけれど、一応他国並みだった。すでに高い省エネ水準を達成している日本が、さらに過大な負担をひとりで引き受ける状況に陥らないように、留意した目標値だったといえる。

 しかし、鳩山氏の90年比25%、05年比30%は、国際社会も驚いた大胆な目標である。どの国もここまでのコミットはしておらず、その実現性について、内外の研究機関の評価は非常に厳しい。

 国内各種研究機関の予測を拾ってみると、25%の削減には、太陽光発電をすべての新築住宅に義務づけ、現状の55倍増とする、原子力発電所の稼働率を現状の60%から90%以上に上げる、電気自動車など次世代車の販売を促進し、従来型の自動車を事実上禁止する、などが目立つ。だが、それでも足りず、粗鋼、セメント、エチレン、紙パルプなど、主要品目の生産のかなりの部分を他国に移さなくてはならないとみられている。

日本の産業基盤が大幅に縮小されかねない。その場合の国民負担や失業率の上昇について、民主党はなんの説明もしていない。

 25%の内訳、つまり、どこでどのように削るのかについての説明もない。25%削減を実施するには、麻生首相の提唱した15%削減のコストに加え、さらに最低でも年間4兆円がかかると試算されている。民主党内にさえ「そんな額は工面できない」という声がある。補正予算見直しも凍結も、CO2削減のコスト捻出(ねんしゅつ)のためなのだろうか。しかし、予算が必要なのは、教育も少子化問題も同じである。初めて政権を取るとはいえ、あまりに理念的、かつ、冒険的な政策ではないか。25%削減は、一歩間違えると、日本を取りかえしのつかない衰退の道に突き落としかねないのだが、民主党内ではもともと40%案が検討されていたという。これで本当に大丈夫だろうかと、深く懸念する。

 国際社会では、いまや気候変動への対処とCO2削減問題は切り離され、後者は完全に政治・経済の問題となっている。環境にことよせたマネーゲームの様相は、民主党の担当者も認めるところだ。

 そのような状況で、友愛の精神に基づいて25%という抜きんでて高い目標を掲げることが、果たして国益に資するのか。すべての国の参加や他国も同様に高い目標を掲げるなどの前提条件をつけたとしても、数字は必ず独り歩きする。そのとき、日本だけが国富を流出させ、活力を失っていく危険性もある。理想はよい。しかし、節度なき愛が必ずしも人間を育てはしないように、冷静な観察眼なき友愛は、必ずしも日本を守り、国民への責任を果たすことにはつながらないであろう。25%の国際公約は慎重にせよ。

(●=簾の广を厂に、兼を虎に)



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