(7月27日 毎日新聞)
菅直人首相の私的諮問機関「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」(座長=佐藤茂雄・京阪電鉄最高経営責任者)が8月上旬に首相に提出する報告書原案の全容が27日、明らかになった。中国の海洋進出や北朝鮮の核・ミサイル開発への懸念を背景に、鹿児島から沖縄にかけて点在する南西諸島を念頭においた「離島地域への自衛隊の部隊配備」を検討するよう提言している。また、集団的自衛権の行使を禁じる政府の憲法解釈の見直しや、武器輸出三原則の緩和などを求めている。
報告書は、民主党政権下で初となる年末の「防衛計画の大綱」(防衛大綱)改定のたたき台となる。菅内閣として報告書をどの程度、大綱に反映させるかが、今後の議論の焦点となる。
報告書原案では、東シナ海や日本近海で海洋進出を活発化させている中国、弾道ミサイル発射や核実験を繰り返す北朝鮮などによる日本周辺の安全保障環境の悪化に言及。「離島地域の多くは日本の防衛力の配置が手薄で、領土や海洋利用の自由が脅かされかねない」として、南西諸島周辺を念頭に離島への自衛隊部隊の重点配備の必要性などを指摘した。冷戦時代に採用された、自らが力の空白とならないよう必要最小限の基盤的な防衛力を保有する「基盤的防衛力」の概念については、「もはや有効でない」として見直しを求めている。
集団的自衛権の行使については、日米同盟を重視し、米国に向かうミサイルを迎撃することが可能となるよう、柔軟に解釈や制度を変える必要があると指摘。武器輸出三原則は、米国以外の国とも共同開発が可能となるよう、早期に緩和するよう提言している。
国連平和維持活動(PKO)については、停戦合意など参加5原則のうち、武器使用基準の修正を積極的に検討するよう求めている。【仙石恭】
◇解説…大綱反映に困難も
政府の「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」がまとめた報告書原案は、南西諸島を念頭に置いた島しょ防衛の必要性、集団的自衛権行使を禁じた憲法解釈の見直し、武器輸出三原則緩和などを打ち出し、自公政権下で09年8月に出された有識者懇談会の報告書と大きな違いを感じさせない結論となっている。報告書の内容が防衛大綱に反映されるかどうかは、今後の政府の対応次第だが、反映されるには二つの理由で困難が予想される。
一つは、民主党内で安全保障に関する見解が多様な点だ。集団的自衛権問題などは今年の参院選マニフェストでも触れられておらず、党内でさらに議論を深める必要がある。社民党との連立解消で、与党間調整は容易になったといえるが、年末の大綱改定までに民主党内で一致した安全保障政策を確立できるかが、今後の焦点となるだろう。
また、防衛予算が削減傾向にある中で、南西諸島への部隊配備を実施するにしても、財政的な制約が大きい。米国へ向かうミサイルに対処するため、集団的自衛権の行使を実現しようとする場合は、ミサイル防衛(MD)システムのさらなる充実も求められるだろう。政府が目指す安全保障政策のあるべき姿と、実現するための財政的な裏付けとの兼ね合いが、今後大きな壁となってくることは間違いない。【仙石恭】
菅直人首相の私的諮問機関「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」(座長=佐藤茂雄・京阪電鉄最高経営責任者)が8月上旬に首相に提出する報告書原案の全容が27日、明らかになった。中国の海洋進出や北朝鮮の核・ミサイル開発への懸念を背景に、鹿児島から沖縄にかけて点在する南西諸島を念頭においた「離島地域への自衛隊の部隊配備」を検討するよう提言している。また、集団的自衛権の行使を禁じる政府の憲法解釈の見直しや、武器輸出三原則の緩和などを求めている。
報告書は、民主党政権下で初となる年末の「防衛計画の大綱」(防衛大綱)改定のたたき台となる。菅内閣として報告書をどの程度、大綱に反映させるかが、今後の議論の焦点となる。
報告書原案では、東シナ海や日本近海で海洋進出を活発化させている中国、弾道ミサイル発射や核実験を繰り返す北朝鮮などによる日本周辺の安全保障環境の悪化に言及。「離島地域の多くは日本の防衛力の配置が手薄で、領土や海洋利用の自由が脅かされかねない」として、南西諸島周辺を念頭に離島への自衛隊部隊の重点配備の必要性などを指摘した。冷戦時代に採用された、自らが力の空白とならないよう必要最小限の基盤的な防衛力を保有する「基盤的防衛力」の概念については、「もはや有効でない」として見直しを求めている。
集団的自衛権の行使については、日米同盟を重視し、米国に向かうミサイルを迎撃することが可能となるよう、柔軟に解釈や制度を変える必要があると指摘。武器輸出三原則は、米国以外の国とも共同開発が可能となるよう、早期に緩和するよう提言している。
国連平和維持活動(PKO)については、停戦合意など参加5原則のうち、武器使用基準の修正を積極的に検討するよう求めている。【仙石恭】
◇解説…大綱反映に困難も
政府の「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」がまとめた報告書原案は、南西諸島を念頭に置いた島しょ防衛の必要性、集団的自衛権行使を禁じた憲法解釈の見直し、武器輸出三原則緩和などを打ち出し、自公政権下で09年8月に出された有識者懇談会の報告書と大きな違いを感じさせない結論となっている。報告書の内容が防衛大綱に反映されるかどうかは、今後の政府の対応次第だが、反映されるには二つの理由で困難が予想される。
一つは、民主党内で安全保障に関する見解が多様な点だ。集団的自衛権問題などは今年の参院選マニフェストでも触れられておらず、党内でさらに議論を深める必要がある。社民党との連立解消で、与党間調整は容易になったといえるが、年末の大綱改定までに民主党内で一致した安全保障政策を確立できるかが、今後の焦点となるだろう。
また、防衛予算が削減傾向にある中で、南西諸島への部隊配備を実施するにしても、財政的な制約が大きい。米国へ向かうミサイルに対処するため、集団的自衛権の行使を実現しようとする場合は、ミサイル防衛(MD)システムのさらなる充実も求められるだろう。政府が目指す安全保障政策のあるべき姿と、実現するための財政的な裏付けとの兼ね合いが、今後大きな壁となってくることは間違いない。【仙石恭】