学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

チェーホフ『カメレオン』の思い出

2007-10-15 16:21:18 | 読書感想
私が中学生の頃だったと思いますが、国語の教科書に、チェーホフの《カメレオン》が掲載されていた覚えがあります。なぜ覚えているのかと申しますと、物語のなかにはカメレオンなんざ一切出てこないのに、何で《カメレオン》なんてタイトルが付けられているのだろうと疑問に思ったためです。

誰しもが抱くタイトルの疑問。先生は授業の中で、どうしてこの物語は《カメレオン》とタイトルが付いているかわかる人はいますか、とおっしゃっいました。私はちっとも想像力のない生徒だったから、誰かが手を上げて答えてくれるのを待っていました。すると、ある同級生が挙手し、主人公がコロコロと意見を変えるからだと思います、と存外まじめな顔をして答えました。なるほど、確かにそうです。状況によって、カメレオンが皮膚の色を変えるのと同様に、主人公の意見もコロコロ変わるのです。ようやく私は合点がいきました。

昨日、柄にもなくチェーホフ全集を借りてきました。そこに『カメレオン』があり、十数年ぶりに読み返してみました。話の内容は、犬が男を噛み、もめているところで、主人公の警察署長が登場。初めすぐに犬を撲殺処分にしようとしますが、野次馬や部下が、この犬は将軍の犬、あるいはその弟の犬だとか、いやそうではないただの野良犬だとか、横から口を出します。もしこの犬がおえらい将軍の犬だったら、えらいこと。野次馬から様々な声が飛ぶたびに、署長の意見はコロコロ変わります。結局、犬は将軍の弟の犬だと結論が出され、噛まれた男は腑に落ちない調子で終わるのです。

学生時代は、こんな署長みたような大人になりたくないと思ったものですが、今は理想と外れて、少しカメレオンになってしまっているような…。でも、それではいけないのですよね。何とも情けない大人です。確固たる自分の意見を持つことは、なかなか容易なことではありませんけれども。

『カメレオン』を読んで、ふと学生時代の私に出会えた気がする休日の午後でした。

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