学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

「闇に刻む光 アジアの木版画運動」展を観る

2019-03-04 19:21:59 | 展覧会感想
群馬県は前橋にあるアーツ前橋では「闇に刻む光 アジアの木版画運動」展が開かれています。私たちが子供のころに学校の授業で親しんだ木版画というものは、版さえあれば絵や文字を複製することができる特長を持っています。そうであるなら、マス・メディアのひとつになりえますね。この展覧会では、1930年代から今日に至るまで、資本主義によって生み出された社会のひずみを、木版という媒体がどのように訴え、そして広がっていったのかを示したものです。これはとても大きな主題であり、よって展示されている作品の数も400点に近く、かなり見ごたえがありました。

まず、魯迅が中国での木版画教室に日本人を招き、その技術を同志に広めてゆくところから始まります。木版画は、経済活動という名において労働力を摂取し、そして摂取される者との関係をあぶり出し、その死や暴力、略奪は、おそらく印象を強く残したいという意図をもって、木版の墨摺りのみで強く訴えかけます。それは同じ木版でも、権力者への反発心を「見立て」で茶化した江戸時代の浮世絵とは迫り方が全く違うものです。この社会の問題を訴える木版画は、時代に寄り添い続け、やがてベンガル、インドネシア、シンガポールなどの世界へ広がっていきます。

会場を進むにつれ、木版画が人間の精神をよく表し、そしていかに強く訴えるものかを知るとともに、1930年代から続くこうした資本主義経済の問題は、今も根深く残っていて、これはつまり人を奴隷のように扱うブラック企業や、外国人労働者を低賃金で雇い長時間労働を命ずる一部の会社など、我々は何も変わっていない社会に居ることを実感するのです。木版画を通し、現代の文明というものは一体何なのか、私はつくづく考えさせられたのでした。

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