学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

芥川龍之介『煙草と悪魔』

2019-09-30 20:02:20 | 読書感想
私は煙草を一度も喫ったことがない。だから、喫うとどんな心地になるのか、一向にわからない。父は私が中学校に入る頃まで喫っていたが、母から喫うたびに小言を食らうようになって、そのうち嫌気が差して辞めてしまった。小言も毎日繰り返されると意外なくらい効果を発揮するようである。

ひょんなことから芥川龍之介の『煙草と悪魔』を読むことになった。芥川のいわゆる南蛮ものとされる小説のひとつである。今から500年程前、日本はヨーロッパ文明との出会いを経験したが、その南蛮人たちが乗ってきた船の中には悪魔が一匹交じっていた。悪魔は人間の姿をしてひそかに煙草の栽培を始める。そこへ何も知らない牛飼いの男がやってきて、悪魔と賭けをすることになる。賭けるものが魂だとは知らずに…。

芥川の小説はフィクションだが、実際の歴史をたどると煙草は日本に大分普及したようである。それを示すものとして、今年、サントリー美術館で開催された『遊びの流儀』展に展示された風俗図は参考になるだろう。私は見に行けなかったが、カタログを観ると煙草を吸っている、あるいは煙管を手にした粋な人物たちがずいぶん描かれている。特に女性が多いように見受けられた。そういえば、日本で最初に煙草を吸ったのは淀君である、と聞いたことがある。今日、煙草は百害あって一利なしと、その評価は散々たるものだが、これも芥川の小説に従って悪魔の仕業だとすれば納得がいく。


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