現在、私は文化財行政に関わっていて、美術館の世界からは少し離れてしまったけれど、「郷に入れば郷に従え」の通りに慣れないながらも本や仕事を通して様々なことを学んで毎日を過ごしています。人生において、自分の知らない世界を知ることはなかなかに楽しいことです。
さて、最近読んだ文化財関係の本のなかで気になる本を一冊紹介しましょう。『国宝消滅 イギリス人アナリストが警告する「文化」と「経済」の危機』(デービッド・アトキンソン著 東洋経済新報社 2016年)です。著者は世界を股にかける投資銀行「ゴールドマン・サックス」の金融調査室長だった方で、現在は小西美術工藝社社長です。デービッドさんは外国人としての視点、経済としての視点、そして文化財の修復に関わる人としての視点から、日本経済の動向や観光業、文化財の活用などについて述べています。
最近、書店へ行くと、日本(文化)は素晴らしい、という論調の本をよく見かけるようになりました。特に外国人の著者が、日本の長所をよく褒めて下さる内容が多いようです。それは日本に住む私にとって、とても嬉しいことですし、海外から日本がどのように見えるのか参考になります。けれども、褒められるばかりではなんだか怖い気持ちがするのも事実。その点、デービッドさんの著作は容赦ない(笑)日本を評価しつつも、現在の問題点をぴしゃりと指摘していきます。デービッドさんも著作のなかで書いていらっしゃるように「物事をストレートに言ってしまう」内容なのですが、さすがにゴールドマン・サックスで働いていた方らしく、根拠をしっかりと挙げ、数字による問題点の提起、それに向けての改善点まで記載されています。
実は、私、現在の部署に異動してから、文化財で稼ぐにはどうやったらいいのだろうか、と考えていました。文化財で稼ぐものではない!と先輩方から言われそうだったので、職場では口には出しませんでしたが、きっとその方法があるはずだと。というのは、やはり年々市町村の財政は苦しくなる一方。文化財を修復するのにそれなりの額の補助金が出ますが、その額を出しただけのリターンが市民に還元されているのかが疑問だったためです。そんなときに出会ったのがこの本でした。デービッドさんの主張されることを要約すると次の通りです。
日本は財政的に苦しい→観光業はまだまだ伸びしろがある→文化財を整備し活用する(日本文化、技術の伝承)
かなり要約しましたので、単純な内容だと誤解されてしまうかもしれませんが、とても深い内容について書かれています。興味のある方はぜひ著書をお読みいただければと思います。この本のなかで、私が大いに気になった箇所があります。それは文化財に指定されている建造物の公開について。デービッドさんは、ただ単にそれらは建物の中を公開しているだけで、いつ、一体何のために作られたのか、そしてそこに住む人たちがどんな生活を送っていたのかが全くわからないと嘆いています。その文化財の詳しい解説もなければ、部屋の掛け軸や調度品もなく、人間の生活が感じられないケースが多すぎると。確かに…私もそうした建造物は色んなところで観てきました。指摘されるまで、こんな単純なことに気が付かない私の愚かさに泣けてきます…。
そこで、私はふと福島県福島市にある福島市民家園へ行ったことを思い出しました。ここは文化財指定の建造物10件を一箇所に集め、ひとつの集落のようにして公開しているところです。
こうした建造物が軒を連ねています。これらの建造物を結ぶ小道にも民俗行事にまつわる資料を木からぶら下げるなどして展示しています。
建造物のなかはがらんどう…なわけではありません。そこにはしっかりと人が生活してきた証を展示しています。
こういう展示の方法だと、とてもイメージが伝わりやすいですよね。これらの建築物の解説文もきちんと付いていました。デービッドさんがおっしゃるような理想の展示の方法ではないかと思います。セキュリティの問題で難しいのかもしれませんが、これらの建築物を利用して実際に宿泊して生活を楽しむことができればもっと楽しい場所になるのかも。
ちょっと今日のブログは長くなってしまいました。私の仕事、今まで通りのやり方で本当に良いのか、デービッドさんに問われたような気がしたので、書き留めた次第です。
さて、最近読んだ文化財関係の本のなかで気になる本を一冊紹介しましょう。『国宝消滅 イギリス人アナリストが警告する「文化」と「経済」の危機』(デービッド・アトキンソン著 東洋経済新報社 2016年)です。著者は世界を股にかける投資銀行「ゴールドマン・サックス」の金融調査室長だった方で、現在は小西美術工藝社社長です。デービッドさんは外国人としての視点、経済としての視点、そして文化財の修復に関わる人としての視点から、日本経済の動向や観光業、文化財の活用などについて述べています。
最近、書店へ行くと、日本(文化)は素晴らしい、という論調の本をよく見かけるようになりました。特に外国人の著者が、日本の長所をよく褒めて下さる内容が多いようです。それは日本に住む私にとって、とても嬉しいことですし、海外から日本がどのように見えるのか参考になります。けれども、褒められるばかりではなんだか怖い気持ちがするのも事実。その点、デービッドさんの著作は容赦ない(笑)日本を評価しつつも、現在の問題点をぴしゃりと指摘していきます。デービッドさんも著作のなかで書いていらっしゃるように「物事をストレートに言ってしまう」内容なのですが、さすがにゴールドマン・サックスで働いていた方らしく、根拠をしっかりと挙げ、数字による問題点の提起、それに向けての改善点まで記載されています。
実は、私、現在の部署に異動してから、文化財で稼ぐにはどうやったらいいのだろうか、と考えていました。文化財で稼ぐものではない!と先輩方から言われそうだったので、職場では口には出しませんでしたが、きっとその方法があるはずだと。というのは、やはり年々市町村の財政は苦しくなる一方。文化財を修復するのにそれなりの額の補助金が出ますが、その額を出しただけのリターンが市民に還元されているのかが疑問だったためです。そんなときに出会ったのがこの本でした。デービッドさんの主張されることを要約すると次の通りです。
日本は財政的に苦しい→観光業はまだまだ伸びしろがある→文化財を整備し活用する(日本文化、技術の伝承)
かなり要約しましたので、単純な内容だと誤解されてしまうかもしれませんが、とても深い内容について書かれています。興味のある方はぜひ著書をお読みいただければと思います。この本のなかで、私が大いに気になった箇所があります。それは文化財に指定されている建造物の公開について。デービッドさんは、ただ単にそれらは建物の中を公開しているだけで、いつ、一体何のために作られたのか、そしてそこに住む人たちがどんな生活を送っていたのかが全くわからないと嘆いています。その文化財の詳しい解説もなければ、部屋の掛け軸や調度品もなく、人間の生活が感じられないケースが多すぎると。確かに…私もそうした建造物は色んなところで観てきました。指摘されるまで、こんな単純なことに気が付かない私の愚かさに泣けてきます…。
そこで、私はふと福島県福島市にある福島市民家園へ行ったことを思い出しました。ここは文化財指定の建造物10件を一箇所に集め、ひとつの集落のようにして公開しているところです。
こうした建造物が軒を連ねています。これらの建造物を結ぶ小道にも民俗行事にまつわる資料を木からぶら下げるなどして展示しています。
建造物のなかはがらんどう…なわけではありません。そこにはしっかりと人が生活してきた証を展示しています。
こういう展示の方法だと、とてもイメージが伝わりやすいですよね。これらの建築物の解説文もきちんと付いていました。デービッドさんがおっしゃるような理想の展示の方法ではないかと思います。セキュリティの問題で難しいのかもしれませんが、これらの建築物を利用して実際に宿泊して生活を楽しむことができればもっと楽しい場所になるのかも。
ちょっと今日のブログは長くなってしまいました。私の仕事、今まで通りのやり方で本当に良いのか、デービッドさんに問われたような気がしたので、書き留めた次第です。
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