学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

芥川龍之介『西郷隆盛』

2009-11-09 20:06:00 | 読書感想
今日は11月とは思えないほど、暖かい陽気!おかげで洗濯物がよく乾きました(笑)

久しぶりに芥川龍之介『西郷隆盛』を読みました。「僕」が、大学の先輩で維新史の研究者である本間から聴いたという話で小説が進みます。京都へ維新史の研究に行った学生時代の本間は、帰りの列車で奇妙な老紳士と出会う。老紳士は本間に対し、維新の史料は怪しいものが多いから用心してかかるよう警告します。続けて、西郷隆盛は西南戦争で戦死していない、とも。突拍子も無い言葉。本間が老紳士に疑惑の目を投げかけます。すると老紳士は、西郷隆盛はこの列車に乗っている、今は疲れて寝てしまっているが会わせてあげようと本間を車室へ誘います。半信半疑の本間。彼が車室で見たものはなんと…。

芥川には珍しいミステリアスな小説。小説の手法をとりながら、歴史史料の扱いについて見識を述べています。

「歴史上の判断を下すに足るほど、正確な史料などというものは、どこにだってありはしないです。誰でも或事実の記録をするには自然と自分でディテエルの取捨選択をしながら、書いてゆく。これはしないつもりでも、事実としてするのだから仕方がない。」

歴史の研究、これは史料と物証による構成によって論じられると思うのですが、タイムマシンでもない限り、我々は完璧な史実をつかむことはできないと言えるでしょう。あくまで現時点ではこの説が有力である、に留まるわけです。そして信憑性が高いと思われる新史料が登場したら、歴史が更新されていくんですね。歴史が更新される、という言葉もちょっと変ですけれども。

史料はまずは疑ってかかる。私の場合もそうですが、例えば物故画家の日記、回想、考え方などを著した本を読んで、それを文章どおり受け取っていい場合と、そうでない場合があります。その見極めがなかなか難しい。画家がユーモアを交えて冗談半分に書いたものを、大真面目に捉えてしまうと、画家のイメージがまるっきり違うことにもなってしまう、なんてことにもなってしまいます。慎重になりすぎることはない、といえるのでしょう。

『西郷隆盛』は短編小説ですが、話はどこまでも広がりそうです。果たして、本間が見た人は一体誰だったのか…気になる方はぜひ読んでみてください!

●芥川龍之介『蜘蛛の糸・杜子春・トロッコ 他17篇』 岩波文庫 1990年
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