栃木県の足利市立美術館で「リアルのゆくえ」を観てきました。その大きな目的は安本亀八が制作した生人形を観ること。木下直之さんの著書『美術という見世物』を読み、ぜひ本物を観たいと以前から思っていたのでした。
展示されていたのはパーツごとにバラバラになった明治初期の生人形の姿。それでも迫力は充分です。木に彩色されたまさにリアルな作品で、頭部の毛の縮れ具合や力んだ時の飛び出すような目玉の表現、さらに右足の肌はこげ茶で泥の濃淡を表し、細い毛、さらに浮き上がるような血管までが筆で緻密に描かれていました。また、左手首に注目すると爪の間に入った泥まで再現している。まさに生人形という名前にふさわしい作品で驚かされました。
展覧会会場には、生人形が西洋の由来ではない写実性とあり、であるならば、鎌倉時代の一時期に見られた写実的な仏像や肖像の系譜と何か関係しているのかなと思ってみたり。想像が膨らみます。
生人形の話ばかりになってしまいましたが、会場で観た高橋由一の焼豆腐のリアルさ、本田健さんの実在感のある作品の一群、横山奈美さんの岸田劉生風であるけれどモチーフがユニークな最初の物体シリーズ、秋山泉の鉛筆による静物画など、リアル、すなわち物の本質をどう掴むか、作家ごとの答えを観るようで、とても勉強になる展覧会でした。
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