学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

クラシック音楽

2020-08-21 20:19:54 | その他
今は昔、大学4年の3月のことである。卒業を間近に控えた私たちに、お祝いの料理を振る舞いたい、と指導の先生からお誘いがあった。得意料理は豚の角煮と聞いて、食べ盛りの私たちはまったく遠慮もせずに、先生のご自宅へそろって伺うことにしたのである。

予想に違わぬ美味しい角煮をほおばっていると、先生のご主人が仕事から帰ってきた。ご主人はリビング奥の自室へ入ると、半分ほど戸を締め、厚めのジャケットを脱いでハンガーにかけている。私の父は仕事から帰るとすぐに床へごろりと転がるので、同じ男性でもずいぶん違うものだと思って驚いた。さて、軽装になったご主人は、次にオーディオのスイッチを入れる。すると、クラシック音楽が部屋中へ静かに流れ始めた。私たちの食事の邪魔にならない程度の大きさで。このとき、この家の生活にはクラシック音楽が根付いているのだと感じたのである。

それ以来、私は音楽のある生活に憧れた。縁遠かったクラシック音楽を聴くようになり、なかでもシューマン、ベートーベン、ヴァーグナーが今でもお気に入りだ。それらの音楽を聴いていると、あのときの食事会の仲間や、笑顔の先生とご主人の顔が目に浮かぶ。時間と音楽はつながっているようだ。私の幸福な人生の1ページである。