細越麟太郎 MOVIE DIARY

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●『白鯨との闘い』からエイハブ船長が生まれる秘話。

2015年12月19日 | Weblog

12月10日(木)13-00 内幸町<ワーナー・ブラザース映画試写室>

M-153『白鯨との闘い』<3D> " In the Heart of the Sea " (2015) Warner Brothers / Village Road Show Pictures / Cott Productions

監督・ロン・ハワード 主演・クリス・ヘムズワース <122分> 配給・ワーナー・ブラザース映画

名プロデューサーのブライアン・グレイザーと、<イマジン・エンターテイメント>でチームを組むロン・ハワード監督は、多くのヒット作品を生んだ。

ところが「ダヴィンチ・コード」と「天使と悪魔」のヒットのあとは鳴りを潜めていたが、つい先年にレーシング・チームのドラマ「ラッシュ」で変貌した。

つまりハリウッド・ヒット・メイカーのリーダーのような派手なエンターテイメントから、かなり地味ながら、本来の男たちの人間ドラマを作るようになったのだ。

この新作は、あのハーマン・メルビルが『白鯨』を書く為に、実際に捕鯨船の格闘と遭難の実態、その裏の秘密をリサーチして、ついに名作を書くに到るエピソードを追って行く。

つい、あの『白鯨』の謎めいたエイハブ船長の実態が描かれると思って見たが、まったく映画は別のアングルから、あのクレイジーな船長が創作されるという構想を探るのだ。

まだ西部が開拓されている時代のアメリカ東海岸は、多くの移民に溢れていて、ボストンなどの都市が近代化されつつあったが、まだ電力がなくてエネルギーは石炭や灯油などに依存していた。

だから、漁師たちは大西洋に現れるクジラを捕鯨しては、その巨体の油による生活の基盤がつくられていた時代なので、荒海に出てクジラを捕獲して来る男たちはヒーローだったのだ。

西部では砂金の掘削がブームだったが、東部の港では食用としてだけではなくて、クジラから取れる油によって、夜の生活も活性化していたから、漁師は日夜の大西洋でクジラを追った。

噂の巨大クジラは、漁師たちの宿敵であって、多くの漁船が被害に遭っていたが、この映画は白鯨と格闘して遭難して絶海をさまよって帰還した漁師のエピソードを再現していく。

さすがに映画術に手慣れた監督とプロデューサーのチームは、この作品でも、まったく海に生きる男たちだけの凄まじい格闘を描いていて、3Dによる映像の迫力は凄まじい。

という点ではペーターゼンの「パーフェクト・ストーム」の洋上ハリケーンの再現であり、先日見た「エベレスト3D」と同様の、大自然の驚異と死闘する男たちのドラマが息詰まる迫力。

しかし、本来のテーマは、遭難事件の真相の陰から、インタビュアーの作家ハーマン・メルビルが、どうしてここから<エイハブ船長>のイメージを作ったか、だ。

あのジョン・ヒューストン監督が、グレゴリー・ペックをエイハブ船長に仕立てて映画化した傑作の原点が、実は、この男たちの狂気に似た巨大クジラとの格闘から生まれたのか。

その興味に繋がるエッセンスが、このド迫力の捕鯨サスペンスから充分に見て取れるし、とにかく10メートルを超える白鯨の<芝居>には恐れ入ってしまうのだ。

 

■パワー打法でレフトのグラブを弾いた豪快なツーベース。 ★★★☆☆

●2016年1月16日より、新宿ピカデリーなどでロードショー 


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