細越麟太郎 MOVIE DIARY

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●『ヴァンパイア』の自殺願望ヤングのための、やさしい「おくりびと」。

2012年06月29日 | Weblog

●6月27日(水)13−00 京橋<テアトル試写室>
M−074『ヴァンパイア』Vampire (2011) rockwell eyes, inc. カナダ/日米
監督/岩井俊二 主演/ケヴィン・ゼガーズ <119分> ★★★☆
実に久しぶり、8年目となる監督の新作は吸血鬼ものだ。
しかし「トワイライト」よりも内向的で繊細な若者たちの心傷ドラマだ。
カナダの小都市で、心中自殺願望サイトで知り合った若者を相手に、安楽死をさせる「おくりびと」がいる。
アルツハイマーの母の介護に疲れた独身の学校教師。
ケヴィンは動脈注射で相手の血液を抜く事で、若い自殺希望者の要望に答えているという、変質な「ヴァンパイア」だ。
その血液を飲むことはあるが、すぐに嘔吐してしまう。
あくまで伝来の吸血鬼ではなく、理解ある自殺傍観者。
もの静かで殺意はなく、あくまで死にたいという若い女性に、同情的に願いを叶えている。
苦痛で苦しまず、眠るように死にたい。それには体内の8パーセントの血液を抜くだけでいいらしい。
たしかに、年間にわが国だけでも3万人もの自殺者がいる。
その現実を背景に考えると、このテーマのリアリティも、かなりヤバい。
しかし岩井監督は例によって、クールにデリケートに、こうしたマイナーな青春の転落ドラマを描いている。
これまでのヴァンパイア映画の異常な猟奇的な犯罪色はなく、これは一種の内向的な心の映画。
独特の閉鎖的な青春の姿は、ポエティックではあるが、救いようはない。人生の意味も全然見えない。
これはどうも、娯楽映画評論家よりも青年心理学か、精神生理学の医師が見たらどうだろうか。

■初球、デッドボール。
●9月15日より、渋谷シネマライズでロードショー


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