細越麟太郎 MOVIE DIARY

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●『ヨーヨー・マと旅するシルクロード』の音楽的なリラクゼーション。

2017年02月01日 | Weblog

1月31日(火)13-00 渋谷<映画美学校・B-1試写室>

M-011『ヨーヨー・マと旅するシルクロード』" The Music of Strangers " (2015) Silk Road Project Inc./ Participant Media / National Entertainment

監督・モーガン・ネヴィル 主演・ヨーヨー・マ、ジョン・ウィリアムズ <95分・ビスタサイズ> 配給・コムストック

いまや世界的なチェロの名手と知られるヨーヨー・マは、ニューヨークを拠点にして演奏活動をしている中国人だが、まさに今や無国籍コスモポリタン・ミュージシャンだ。

その彼が友人音楽家のグループを率いて<シルクロード・プロジェクト>というボランティア運動として、シルクロードに添って演奏したドキュメント・フィルム。

 あの「バックコーラスの歌姫たち」という、名もない合唱グループの活動を描いた傑作ドキュメンタリー映画の監督モーガン・ネヴィルが着眼したのが、この新作だ。

もともと1981年に、奈良の正倉院で<シルクロード文物>に出会ったヨーヨー・マは、それから平和的な共通意志を共にするミュージシャンたちとグループ活動を始めた、という。

コンサート会場もなく、ごく路上ミュージシャンとして始めたグループには、志に共鳴したイランや、シリアや、ケルトなどの治安の不安定で音楽演奏のできないアーティスト達が集結。

それぞれの民族楽器を演奏して、少しずつメンバーが増えていって、このような<シルクロード・アンサンブル>のようなスタイルにまとまり、2000年に<音の文化遺産>として活動。

ミュージシャンたちの祖国には、それぞれの音楽的な土壌と個性があるが、政治的な不安定から祖国を脱出してニューヨークで、まさに、国際連合音楽グループとしてスタートしたという。

だから、これはヨーヨー・マの音楽映画ではなくて、その苦境のミュージシャンたちが集まって、それぞれの音楽性を寄せ集めた異文化ミクスチュア演奏活動を追いかけた記録映画だ。

とくにヒット曲とか、レコーディング活動はなく、自然発生的に共鳴した演奏家たちがプレイする音楽は、それぞれの楽器のもつ音楽的特性と、演奏者の国状や音楽ルーツがリードしていく。

その偶発的な音楽性の魅力を、「スターウォーズ」などのジョン・ウィリアムズが絶賛して語り、バッハやサン=サーンス、オリヴィア・メシアンなどの曲が演奏されるサウンドは豊かだ。

ほとんどのミュージック・グループは営利や名声を意図したマネージメントで活動しているが、ここに集まったメンバーたちは、まさに<平和学校>の学生たちのように溌剌として演奏する。

そこに本来の<音楽>が生まれた様に、このメンバーたちがシルクロードを旅しながら演奏する音楽には、どうやら<音楽>そのものの古典的な発想起点があるようで、妙な感動がある。

ヨーヨー・マの息子が『子供の頃は、毎日のように旅に出る父の仕事は、きっとエアポート関係の仕事をしている、と思っていた・・・」という言葉には試写室爆笑だった。

 

■左中間をゴロで抜ける当たりがフェンスを転々する間に、足のツーベース。 ★★★☆☆

●3月4日より、Bunkamuraル・シネマ他でロードショー 


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