厚生労働省は、業務による過重負荷を原因とする脳血管疾患及び虚血性心疾患等については、2001年(平成13年)12月に改正した「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準」に基づき労災認定を行っていたが、改正から約20年が経過する中で、働き方の多様化や職場環境の変化が生じていることから、最新の医学的知見を踏まえて、「脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会」において検証等を行い、2021年(令和3)年7月16日に報告書が取りまとめられたことを受けて、認定基準の改正を行い、9月15日より適用されている。
⇒厚生労働省プレスリリース2021/9/14 「脳・心臓疾患の労災認定基準を改正しました」
「業務の過重性の評価」について、長期間の過重業務の判定に使う基準である、「労働時間」(〇発症前1か月間に100時間または2~6か月間平均で月80時間を超える時間外労働は、発症との関連性は強い(※)、〇月45時間を超えて長くなるほど、関連性は強まる、〇発症前1~6か月間平均で月45時間以内の時間外労働は、発症との関連性は弱い)、「労働時間以外の負荷要因」(〇拘束時間が長い勤務、〇出張の多い業務など)については、残念ながら維持された。
しかし、以下のものが新たに認定基準に追加された。
長期間の過重業務では、
〇労働時間と労働時間以外の負荷要因を総合評価して労災認定することを明確化
【(※)の水準には至らないがこれに近い時間外労働+一定の労働時間以外の負荷⇒業務と発症との関連が強いと評価することを明示】
〇労働時間以外の負荷要因を見直し
【勤務間インターバルが短い勤務や身体的負荷を伴う業務などを評価対象として追加】
短期間の過重業務・異常な出来事では、
〇業務と発症との関連性が強いと判断できる場合を明確化
→「発症前おおむね1週間に継続して深夜時間帯に及ぶ時間外労働を行うなど過度の長時間労働が認められる場合」等を例示
さらに、認定基準の対象疾病に「重篤な心不全」が追加された。
「勤務間インターバルが短い勤務」については、次の通り。
勤務間インターバルとは、終業から始業までの時間をいう。
勤務間インターバルが短い勤務については、その程度(時間数、頻度、連続性等)や業務内容等の観点から検討し、評価すること。
なお、長期間の過重業務の判断に当たっては、睡眠時間の確保の観点から、勤務間インターバルがおおむね11時間未満の勤務の有無、時間数、頻度、連続性等について検討し、評価すること。
資料1 脳・心臓疾患の労災認定基準の改正概要
資料2 血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について
資料3 脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会報告書
ところで、4月、実態調査の結果を受けて、第5回労働政策審議会労働条件分科会自動車運転者労働時間等専門委員会から、2024年4月告示施行に向けた議論が本格的に開始されるとともに、5月からは、タクシー・バス・トラック各モードごとの作業部会が開催されている。
タクシーの労働者代表委員であるわたしたちは、①年拘束時間は3300時間以下にすべき、②日勤の休息期間は11時間に見直すべき、③隔勤の休息期間は24時間必要、④休日労働は2週間に1回を維持すべき、⑤累進歩合については厳格に禁止すべきと主張している。
これに対して、使用者代表の委員からは、「1日の休息期間を11時間としてしまうと、1日の拘束時間の最大が13時間となってしまい、業務の繁閑に対応できない」との反論が出されてるところ。
この「休息期間」というのは、いわゆる「勤務間インターバル」のことであり、私たちの自動車運転の業務については、1979年(昭和54年)より連続8時間以上の勤務間インターバルが告示により義務付けられている。
タクシーだけでなく、バス・トラックも同様に、今回の2024年改正に向けて、労側は「連続11時間以上」の勤務間インターバルを主張しているが、これの根拠の一つは、EU指令(Regulation(EC)No561/2006)であるが、先日公表された「脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会報告書」、そして今回改正された「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準」によって、労側の主張の正当性は、さらに補強された。
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