先日、私鉄総連ハイタク協議会(2016/12/13)にて、宮里邦雄弁護士(私鉄総連顧問)から「ライドシェア」問題と「労働契約法20条」について、ご講演をいただいた。
「ライドシェア問題」についての内容は以下の通り。
1 「ライドシェア」とは
(1)二種免許を持たない一般ドライバーが自家用車を使い運賃を得て乗客を輸送することをいう。
(2)道路運送法78条は自家用車を有償で旅客運送の用に供することを禁止しているので(いわゆる「白タク」の禁止)、現行法上「ライドシェア」は違法。
(3)ビジネスとしての「ライドシェア」
・ウーバー(Uber)、リフト(Lyft)などのアメリカの業者が、ドライバーと利用者を結びつけるスマートフォンのアプリを開発し、予約、決済を代行し、手数料を得る「ライドシェア」ビジネスモデル(「有償旅客運送のあっせん業」)を開発。
・ウーバーらはあっせんの手数料として運賃の2割程度を得ている。
・ウーバーは、2016年5月現在、世界70カ国・地域の450都市で事業展開をしており、ウーバーのキャッチフレーズ「好きなときに運転し、必要なだけ稼ごう」(「Drive when you want,earn what you need」)
(4)「ライドシェア」は「シェアリングエコノミー」の一形態とされる。
・「シェアリングエコノミー」とは、仲介サイト業者がインターネットを介して、参加者同士が直接取引を行うことを仲介するサービスのことをいう(例えば、民泊はその一例)。
・安倍政権は、「シェアリングエコノミー」を「1億総活躍社会の実現等に資するものであり、シェアリングエコノミーサービスの発展を政府として支援する」との基本方針を掲げており、シェアリングエコノミーを推進しようとしている。
(5)「シェア」というコトバの欺瞞性
・いわゆる「相乗り」ではない。
・シェアの持つ本来の意味「責任の分かち合い」「連帯」(例えば、「ワークシェア」)とは本質的に異なる。
2 「ライドシェア」の契約関係・法律関係
(1)事業者は運転者と乗客の運送契約の単なる仲介者であり、旅客運送について契約上の責任を負わない。
(2)運転者と事業者との間には労働契約関係はなく、運転者は、自営業者(「独立事業者」)であり、「労働者」でないとされることから、労基法上の保護(労働時間規制など)はもとより、労災保険、失業保険の適用もなく、憲法・労組法上の団結権が否認される。
※労働基準法9条「労働者」の定義
「この法律で『労働者』とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。」
※労働組合法3条の「労働者」の定義
「この法律で『労働者』とは、職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者をいう。」
(3)運転者と事業者との非対等性-運賃の配分など契約条件の一方的変更
(4)非正規雇用化から非労働者化へと就労形態の多様化、労働力利用の多様化が進んでいるが、その究極の形態といえる。
3 「ライドシェア」の問題点
(1)事業者は運送契約によって利益を得ながら、運送契約に伴うリスク(損害賠償責任など)を一切負わないしくみ。
(2)事業者は、運転者の労働力を利用しながら、運転者の労働者性を否定し、労働関係法令の適用を免れる。
(3)タクシー事業の許可制(道路運送法4条)の意義
① 運送の安全・安心確保のための法規制と監督-安全基準の確立、労働法令の遵守-「安全と労働は不可分一体」
② 健全な事業運営の確保による運行管理
(4)導入された場合に予想されるタクシー事業者との過当競争→労働条件の悪化等雇用の劣化、利用者の安全への影響など
※「悪貨は良貨を駆逐する」
4 「ライドシェア」をめぐる動向
(1)2013.1.8 産業競争力会議の設置
(2)2013.12.7 国家戦略特区法の制定
(3)2015.5.29 産業競争力会議での三木谷楽天社長発言
「シェアリングエコノミーは生活様式なり社会の構造自体を大きく変えようとしている。それに乗り遅れてはいけない」「全面的に我が国も先行するような形で検討すべき」と発言
※三木谷社長は、「ライドシェア」の代表的事業者の「リフト」社に三億ド
ルを出資して役員に就任(2014.3.12)
(4)2015.6.30「日本再興戦略」閣議決定
「シェアリングエコノミーなどの新たな市場の活性化のために必要な法的措置を講ずる」
(5)2015.10.20 国家戦略特区諮問会議での竹中平蔵発言
「シェアリングエコノミーをキーワードとして掲げて、ここから改革を進める必要がある」←安倍首相発言「過疎地等での観光客の交通手段として、自家用自動車の活用を拡大する」
(6)2015.10.30 三木谷が代表理事を務める新経済連盟が「シェアリングエコノミー活性化に必要な法的措置に係る具体的提案」を政府に提出。
そのなかで「ライドシェア」に道路運送法4条の許可を不要とすることを求める。
(7)2016.3.13 内閣IT総合戦略本部
「シェアリングエコノミーは1億総活躍社会の実現等に資するものであり、シェアリングエコノミーサービスの振興を政府として支援」と表明。
(8)2016.5.27 自家用自動車による観光客等の有償運送を認める「道路運送法の特例」を含む改正国家戦略特区法が成立。
(9)2016.6.2 「日本再興戦略2016」を閣議決定
「重点的に取り組むべき分野」として、「『シェアリングエコノミー』の推進」を掲げる。
(10)2016.7.8 「シェアリングエコノミー検討会議」を設置
5 「道路運送法の特例」の制定
(1)「道路運送法の特例」(国家戦略特区法改正法16条の2)の成立により、道路運送法78条2号に基づいて、例外的に認められていた「自家用有償旅客運送」の範囲が「自家用有償観光旅客運送」に拡大
※自家用自動車を使用した有償の旅客運送は原則禁止され(78条)、交通空白地の住民を対象にNPO等が行う「公共交通空白地有償運送」と、介助なしに移動が困難な者を対象にNPO等が行う「福祉有償」が例外的に認められていた(78条2号)。
(2)拡大が認められたのは、①外国人観光旅客その他観光旅客の移動を目的として、②一般旅客自動車運送事業者(バス・タクシー事業者)によることが困難である場合である。
(3)NPO等が「事業者」として運送責任を負うものであり、「ライドシェア」とは異なる。
(4)附帯決議
「公共交通であるバス・タクシー等が極端に不足している地域における観光客等の移動の利便性の確保が目的であることから、既存の一般旅客自動車運送事業で対応可能な場合はこれを認めないこと」「同制度の全国での実施や、いわゆる「ライドシェア」の導入は認めないこと」
6 「ライドシェア」をめぐる今後の動向「合法化」への警戒と反対の取り組み
(1)事業者団体も反対、国土交通省も現在導入に慎重な姿勢であるが、導入の方向性がなくなったわけではなく、今後導入圧力が強まる可能性あり。
※「シェアリングエコノミー検討会議」では、ライドシェア合法化への検討が続いている。
(2)労働法制規制緩和の歴史から学ぶ(「歴史の教訓」)
「いちど認めた例外は次からは権利となる」(マーフィーの法則)
※労働者派遣法の歴史(原則禁止から自由化へ)
(3)働く者の雇用・権利・団結を守る視点と運送の安全や利便性を確保する視点
※「交通の安全と労働を考える市民会議」の結成(2016年8月5日)
2016年9月29日公開シンポ(東京)、2016年11月24日公開シンポ(大阪)
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