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◎千一夜物語 その10 ヌレンナハール姫と美しい魔女の物語(7)

2015-12-19 23:03:40 | 物語
◎千一夜物語 その10 ヌレンナハール姫と美しい魔女の物語(7)

★ヌレンナハール姫と美しい魔女の物語(第807-814夜)(「完訳 千一夜物語10」、岩波文庫)


「ヌレンナハール姫と美しい魔女の物語」(第813夜)より

 ところが、王子が出発すると、帝王のお気に入りの重臣たちは、王に王子に対する疑念を起こさせ、王子に異心があるように思わせずにはおきませんでした。少なくとも隠れ家のある場所ぐらいは突きとめておかなければならないと、そして、王子が人民の人気を博して、臣民を君主に叛かせ、王座を奪ってその座につくのではないか、はなはだ案じられる次第だ、と

 フサイン王子は、楽しい生活の1か月が終ると、約束に従ってやって参りました
 翌日、王は1人の老婆をお呼びになりました
 それは魔術と奸智で王宮中に名高い女でした
 王はおっしゃいました
「余は我が子フサインと再会して以来、いかなる場所に居を定めているか、ついに教えてもらうことができなかった
 王子は明朝、未明に出発するであろう。それとも今日直ちに、王子が矢を見つけた場所という、岩山のほとりに出向いたほうがよいかも知れぬ」
 すると魔術師の老婆は、岩山のほとりに行って、見られずに全部が見えるように隠れていようと、外に出ました

 翌朝、夜が明けると早々、フサイン王子は王宮を立ちました。そして石の扉のある窪みの前に着くと、従う者とともに、その中に姿を消してしまいました。魔術師の老婆はこうしたすべてを見てとって、まことに驚きました
 さきほど人馬が姿を消した窪みに行き、何度も行きつ戻りつしてあらゆる方面を見てみましたけれども、どんな隙間もどんな入口も見当たりません
 それというのは、その石の扉は美しい魔女にとってその姿が心にかなうような人々だけにしか見えないので、この扉は、見るもおぞましい老婆などには、断じて見えないのでございました。そこで老婆は腹立ちまぎれに、砂煙をまき上げるようなおならを1発ぶっ放して、気を晴らすよりしかたがありませんでした
 老婆は帰ってきて、見たところをすべて報告しながら言い添えました
「当代の王様、こんどこそは、もっと首尾よくやるあてが十分ございます」

 さて、ひと月たつと、フサイン王子は石の扉から出ました。そして岩山に沿ってゆくと、1人の憐れな老婆が横たわって、何か激しい痛みを起した人のように、みじめにうなっているのに気がつきました。老婆は、身にぼろをまとって、泣いています
 フサイン王子は憐れみを覚えて、馬を停め、老婆に優しくどこが痛いのか、どうすれば痛みを軽くしてあげられるのかを訊ねました
「お殿様、私は町に行こうと村を出たのですけど、途中で猩紅熱にかかって、人里離れ、助けられる望みもなく、ここに力なく放り出されてしまったのでございます」
「おばさんよ、失礼ながら、私の家来2人に抱き起させて、私自身これから戻ってゆく場所に運ばせておくれ、そこで看病させてあげるから」
 2人の家来はそのとおりにして、1人が老婆を自分の馬の後ろに乗せました
 王子は道を引き返して、騎兵と一緒に石の扉に着くと、扉は開いて彼らを通しました…

…ここまで話した時、シャハラザードは朝の光が射してくるのを見て、慎ましく、口をつぐんだ