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おっちゃんの世界史の栞 25 (4)新約聖書の改竄にまつわる話 1

2011-02-20 10:08:21 | HKT48 AKB48
(4)新約聖書の改竄にまつわる話 1
(ほぼ、バート・D・アーマン教授の著書からの引用)
 

★複製から改竄へ

・新約聖書のオリジナルは存在しない
・あるのは、ほとんどの場合、何百年も後に作られた複製であり、
しかも、それを写した書記たちは、時には不注意によって、時には意図的に元のテキストを改竄している

・古代世界においては、ほとんどの人が字を読めなかった
・初期のほとんどのキリスト教徒は教育のない下層階級の出身だった
・初期キリスト教において、書物は字の読める人が礼拝の場などで人々の前で声に出して読んで聞かせた

・キリスト教文書を広く普及させるためには、それを複製しなければならない
・古代世界において本を複製する方法は、人間の手で1冊ずつ書き写すしかなかった
・印刷機はなく、大量生産はできない
・初期キリスト教共同体の外では、テキストの複製作業は、書記か教養のある奴隷が行ったが、この複製作業には人為的なミスの可能性がつきまとう

・古代ギリシア語テキストの問題点のひとつは、複製される際に、句読点が全く使われないばかりか、大文字と小文字の区別もされず、単語と単語の間のスペースすら存在せず、だらだらと続いていく書き方(連続書法)をされた
・こんな書き方をされたテキストを読むのは非常に困難となる

・初期キリスト教テキストの複製は、最初の2~3世紀の間は、プロの書記ではなく、素人の写字生が従事していた
・ほとんどの改竄は書き損じ、不慮の省略、不注意による添加、綴りの間違いなどによる
・明らかに訂正の必要のある誤りに気づいたときに、元のテキストを改竄した方がいいと勝手に判断して改竄してしまうこともあった
・自らの教義に適合させるためにテキストを改竄することもあった
・初期の写本はお互いの間の異同がきわめて多い

★新約聖書のテキスト
・313年、コンスタンティヌス1世は「ミラノ」勅令を発し、キリスト教会を法的人格として公認した。他の諸宗教の信教の自由も確認するものだった。
・キリスト教徒への迫害もやみ、4世紀初頭には「写字室」(プロの写字生が写本の複製作業を行う場所)が造られ、4世紀以降、聖書の複製はプロの手で作られるようになった
・時間がたつうちに、15世紀にグーテンベルクによって活版印刷術が発明されるまで、ギリシア語聖書の複製は修道院で働く修道僧たちの仕事になった
・現存するギリシア語写本の大部分は、中世キリスト教書記の筆によって生み出されたものである
・彼らはビザンティン帝国に住んでいたので、7世紀以降のギリシア語写本は「ビザンティン写本」と呼ばれることがある
・ビザンティン写本はお互いの間の差異が少ないが、それが新約聖書のオリジナルテキストを復元するためのよりよい資料になるわけではない。
・中世の書記たちは、複製するテキストをより古いテキストから入手した

・オリジナルに最も近い形のテキストは、プロによる中世の複製ではなく、間違いが多い素人の初期の複製の方である

★ラテン語版聖書…ウルガタ

・複製作業は、主としてローマ帝国の東側で行われていた
 その地域の主要言語はギリシア語だった
・ローマ帝国の西側の大部分では、ラテン語を使っており、新約聖書の文書がラテン語に翻訳されるようになった
・多種多様なラテン語訳が作られ、しかもそれぞれがまったく違う代物だった
・4世紀の終わり、教皇ダマススはヒエロニムスに命じて、「公式」のラテン語版を作らせた
・このヒエロニムス訳のラテン語版は「ウルガタ」と呼ばれるようになり、西方教会のための聖書となり、何度も複製された

★最初に印刷されたギリシア語聖書

・グーテンベルクの機械が印刷した最初の主要な作品は、ラテン語版ウルガタ聖書の豪華版
・西方の学者の中でギリシア語新約聖書の製作を最初に思い立ったのは、スペインのヒメネス・デ・シスネロスで、ヘブライ語による旧約聖書とラテン語版ウルガタとギリシア語版セプトゥアギンタの3つを含んだもの
・ヒメネスの聖書がアルカラという街(ラテン名コンプルトゥム)で印刷されたので、「コンプルトゥム版多国語対照聖書」と呼ばれるようになった
・ヒメネスの聖書が刊行されたのは、ヒメネスが死んで5年ほど後の1522年のことだった

★エラスムスのやっつけ仕事

・ヒメネスの聖書が刊行される前に、オランダの学者のエラスムスがギリシア語新約聖書を印刷、刊行してしまった(1516年)
・エラスムスは中世の比較的後期の必ずしも信頼しうるとは言えないギリシア語写本を元にしている
・「ヨハネの黙示録」に関しては、友人のヨハネス・ロイヒリン所蔵の写本を借りねばならなかったが、黙示録の最後の6節が欠落していた。
・エラスムスはこの散逸部分に関しては、ラテン語版ウルガタからギリシア語に訳し直してしまった(でっち上げたものである)

・エラスムス版はその後300年以上にわたって西ヨーロッパの印刷業者が作るギリシア語テキストの標準となった
・このエラスムス版こそ、1世紀後に「欽定訳聖書」の翻訳家たちが底本として用いたものだった

・エラスムス版以後の版はすべて結局エラスムスの最初の刊本にさかのぼるのであり、オリジナルから1100年も後に作られた最高と言えるものでなかった写本に依るものである
・エラスムス版に基づいて作られ、以後300年以上にわたって印刷業者たちの間に受け継がれてきたギリシア語テキストを意味する「公認本文」という用語が生まれた
・欽定訳聖書を初めとする最初期の英訳聖書から、19世紀末の版に至るまで、英語版聖書の基盤となっていたのはこの「公認本文」という粗悪なテキストだった

★ミルの研究

・1707年にオクスフォードのクィーンズカレッジの理事であるジョン・ミルによるギリシア語新約聖書を発表した
・ミルは100種類にも及ぶ新約聖書のギリシア語写本の異文を調べあげただけではなく、初期教会教父たちの引用なども調べた
・ミルが入手したすべてのテキストにおける異同箇所は3万カ所を上回っていた

・現在、5700以上のギリシア語写本が発見され、目録化されている
・ラテン語ウルガタの写本が1万ほどあり、それ以外に他国語版もある
・今日知られている異文の数は、何十万あるか、その確かな数は判らない
 そのすべてを数えた人は誰もいない

・現存する異文の数は、新約聖書の単語の数よりも多い

★改竄の種類

〈偶然による改竄〉
・スペルミス
・単語や行をとばしてしまう
・口述によって複製している時、発音が同じ2つの単語があった場合、間違った方の単語を書き込んでしまうことがあるかも知れない

〈神学的な理由など意図的な改竄〉
・事実関係に関する明白な誤りがあると判断した場合、そのテキストを改竄する
・テキストが「異端者」に悪用されるのを避けるため
・教義を強調するため
・各福音書の相違点を削除して、各福音書の記述を調和させようとする
など