ビタミンおっちゃんの歴史さくらブログ

STU48 音楽、歴史 などいろいろ

◎竹取物語の5つの難題

2016-01-03 16:40:01 | 物語
竹取物語の5つの難題

「竹取物語」の5つの難題(「竹取物語」室伏信助 訳注、角川ソフィア文庫、「竹取物語」上坂信男 全訳注、講談社学術文庫 より)

○世の中の男は、身分の高い者も低い者も、なんとかしてこのかぐや姫を手に入れたい、妻にしたいと心が乱れる
 その中で、あいも変わらず言い寄ったのは、色好みといわれる者だけ5人で夜も昼も通ってきた
 その名は、石作りの皇子(いしつくりのみこ)、庫持の皇子(くらもちのみこ)、右大臣阿部御主人(あべのみうし)、大納言大伴御行(おおとものみゆき)、中納言石上麻呂足(いそのかみまろたり)であった

「5人の中で、わたしが見たいと思っている物を見せてくださる方があれば、愛情がまさっているとして、お仕え申し上げましょう」

1 仏の御石の鉢

「石作の皇子には、仏の御石(みいし)の鉢という物があります。それを取ってきてください」
・釈尊が成道した時、四天王が石の鉢を奉ると重ねて1つの鉢にしたと伝える

○あの鉢を捨ててから、また言い寄ったことがもとで、あつかましいことを「はぢ(恥(鉢))を捨つ」と言うのである

2 蓬莱の珠の枝

「庫持の皇子には、東の海に蓬莱という山があります。そこに銀を根とし、金を茎とし、白い珠を実として立っている木があります。それを1枝折ってきてください」

○皇子が幾年もの間、姿を現されなかった。このことを「たまさかる」と言い始めたのである
・たまさかる
 魂離る(たまさかる) 魂が肉体から離れる。世を逃れて山中に入る
 珠悪なる(たまさがなる) たまさかにめぐり逢う

3 火鼠の皮衣

「右大臣阿部御主人には、唐土(もろこし)にある火鼠(ひねずみ)の皮衣(かわぎぬ)をください」
・火鼠の毛で織った衣で、火で焼いても燃えないという

○望みが達せられず張り合いを失ったことを「あえなし」と言ったのである
・あへなし
 阿部無し 敢えなし

4 竜の頸の珠

「大伴の大納言には、竜(たつ)の頸(くび)に五色に光る珠があります。それを取ってきてください」
・五色は青・黄・赤・白・黒

○「そんな李(すもも)はおかしくて食べにくい」と言ったことから、まったく思う通りにならないことを「あなたへがた(ああ、堪えられない)」と言い始めたのである
・たへがた
 食べにくい、堪えられない

5 燕の子安貝

「石上の中納言には、燕の持っている子安貝を取ってきてください」
・子安貝は生殖の神秘力をもつものとして、子安信仰にもとづいて貴重なものとされた

○「貝がない」とおっしゃったことから、期待に反することを「甲斐なし(かいなし)」と言った
○少しうれしいことを「かいあり」と言ったのである
・かいあり
 貝あり
 効(かい)あり

◎千一夜物語 その11 ヌレンナハール姫と美しい魔女の物語(8完)

2015-12-26 00:26:50 | 物語
千一夜物語 その11 ヌレンナハール姫と美しい魔女の物語(8完)

★ヌレンナハール姫と美しい魔女の物語(第807-814夜)(「完訳 千一夜物語10」、岩波文庫)


「ヌレンナハール姫と美しい魔女の物語」(第814夜)より

「我が女王よ、この憐れな老婆は、御覧のようにかわいそうなありさまで、アッラーによってわれわれの道の上に置かれたのです。われわれはこれを助け、救ってやらなければなりませぬ」
魔女王女はじっと老婆を見ておりましたが、やがて侍女たちに、老婆を別室に連れて行くよう、鄭重に取り扱いなさいと命じました
「あの婆さんについては、御心配御無用です。あの女は病気ではございませんから。あの女がここに来た理由(わけ)も、あれをよこしたのがどういう人たちかも、またあれがあなたの道に待ち伏せしてもくろんだ目的を、みんなわたくしは知っています。どんなことをたくらむことができようと、あなたに仕掛けるおとしあななど、わたくしがすべて無駄にして、どこまでも御身を守ってさしあげるということを、お信じになって下さいませ。では、お出かけ下さいまし」
フサイン王子は、彼女に別れを告げると、父君の都に向かって再び道をとりました

 さて、魔術師の老婆のほうは、…
 魔女の侍女の1人が「獅子の泉」の水を満たした茶碗を差し出しながら
「これは獅子の泉の水で、これを1杯飲めばどんな頑固な病気も治り、瀕死の人たちも健康に返ります」
 そこで老婆はその1杯を飲みますと、2、3分後に
「すばらしい水ですこと、私はもう治りましたよ、まるでやっとこで私の病気を引きぬいたみたい」
 老婆は、実は痛み何もしなかったのに、病気が治ったみたいなふうをして、床の上に起き上がりました

 老婆はもう見たいものを見てしまった今となっては、退散するにしかずと思い、親切を謝して後、2人の若い女にその希望を告げました。するとその女たちは、旅の無事を祈りながら、老婆を石の扉から送り出しました。すぐに後を振り向いて、扉の場所をよく見届け、すぐにそれとわかるようにしておこうとしましたが、見えないのでいくら探しても無駄です。やむなく扉の道を見つけるのはついに成功しないで、戻らざるをえませんでした
 老婆は帝王の御前に着くと、自分のしたこと、見たことすべてと、その御殿の入口を見つけることができなかったことを御報告申し上げました

 王は王子をお呼びになって、
「こんど来るときには、何かわしを悦ばせるようなものを、持ってきてくれぬか、例えば、狩猟とか戦争の際、わしの役に立つ立派な天幕というような品じゃ」

 妻の魔女は、宝蔵係の女官を呼んで、言いつけました
「我が宝蔵にある1番大きな天幕を取っておいで。そして番人のシャイバールに、それをここに持ってくるようにお言いなさい」
 その番人というのは、特別な種類の魔神でした。身の丈4、50センチばかりで、10メートルもの髭をはやし、口髭は濃く両の耳まではね上がり、両眼は、身体と同じぐらい大きな頭のなかに、深く落ち凹んでいます。肩には、我が身よりも5倍も重い鉄棒をのせ、片手には畳んだ小さな包みを持っていました

「シャイバールよ、お前はすぐに我が夫フサイン王子のお供をして、王子の父君帝王のところまで行きなさい。そしてお前のするべきことをするのです」
シャイバールは庭に行って、手に持っている包みをほどきました。中から1つの天幕が出てきましたが、それはすっかり拡げれば、一軍の軍隊全部をもおおうことができるほどのもので、包むべきものにしたがって、大きくもなれば小さくもなるという特性を持ったものです

 2人が王宮にはいって、帝王の前にまかり出ますと、帝王は大臣と寵臣たちに囲まれて、あの魔術師の老婆を話をしているところでした。シャイバールは玉座の足もとまで進み、
「当代の王様、例の天幕を持ってまいりました」
そして大広間のまん中に、それを拡げ、大きくしたり小さくしたりしはじめました
次に突然、彼は鉄棒を振りあげて、総理大臣の頭上にくらわせ、いきなり叩き殺してしまいました
次に同じようにして、ほかの大臣と寵臣たち全部を叩き殺しましたが、彼らは恐怖に身動きもならず、腕をあげて身を守る力もないありさまでした
次に「瀕死の病人のまねの仕方を教えてやるぞ」と言いながら、魔術師の老婆を叩き殺しました
シャイバールは王に言いました
「俺はこれらの奴ばらの不届きな進言を罰するために、みんな懲らしめてやった。あなたは同じ運命に会わせるのは容赦しよう。しかし王位は罷免じゃ」

 ハサン王子とその妻ヌレンナハールについては、この陰謀に加わらなかったので、国王となったフサイン王子は、夫妻に王国の1番美しい地方を領地として与え、むつまじい交際を続けました
 フサイン王子は、妻の美しい魔女と、歓楽と繁栄のうちに暮らしました。そして2人はたくさんの子孫を残し、その子孫が、2人の死後にも、幾年も幾年も世を治めたのでございました


 そしてシャハラザードは、この物語をかく語りおえて、口をつぐんだ。妹のドニアザードは言った「お姉様、お言葉はなんと楽しく、味わい深く、興味尽きないことでございましょう」
「けれども、もし王様のお許しあって、さらにあなた方にお聞かせ申すものに比べれば、これなど何でございましょう」
シャハリヤール王は思った、「この上、余の知らぬようなことを、いったい何を聞かせることができるのであろうか」
そしてシャハラザードに言った
「許してとらするぞよ」

◎千一夜物語 その10 ヌレンナハール姫と美しい魔女の物語(7)

2015-12-19 23:03:40 | 物語
◎千一夜物語 その10 ヌレンナハール姫と美しい魔女の物語(7)

★ヌレンナハール姫と美しい魔女の物語(第807-814夜)(「完訳 千一夜物語10」、岩波文庫)


「ヌレンナハール姫と美しい魔女の物語」(第813夜)より

 ところが、王子が出発すると、帝王のお気に入りの重臣たちは、王に王子に対する疑念を起こさせ、王子に異心があるように思わせずにはおきませんでした。少なくとも隠れ家のある場所ぐらいは突きとめておかなければならないと、そして、王子が人民の人気を博して、臣民を君主に叛かせ、王座を奪ってその座につくのではないか、はなはだ案じられる次第だ、と

 フサイン王子は、楽しい生活の1か月が終ると、約束に従ってやって参りました
 翌日、王は1人の老婆をお呼びになりました
 それは魔術と奸智で王宮中に名高い女でした
 王はおっしゃいました
「余は我が子フサインと再会して以来、いかなる場所に居を定めているか、ついに教えてもらうことができなかった
 王子は明朝、未明に出発するであろう。それとも今日直ちに、王子が矢を見つけた場所という、岩山のほとりに出向いたほうがよいかも知れぬ」
 すると魔術師の老婆は、岩山のほとりに行って、見られずに全部が見えるように隠れていようと、外に出ました

 翌朝、夜が明けると早々、フサイン王子は王宮を立ちました。そして石の扉のある窪みの前に着くと、従う者とともに、その中に姿を消してしまいました。魔術師の老婆はこうしたすべてを見てとって、まことに驚きました
 さきほど人馬が姿を消した窪みに行き、何度も行きつ戻りつしてあらゆる方面を見てみましたけれども、どんな隙間もどんな入口も見当たりません
 それというのは、その石の扉は美しい魔女にとってその姿が心にかなうような人々だけにしか見えないので、この扉は、見るもおぞましい老婆などには、断じて見えないのでございました。そこで老婆は腹立ちまぎれに、砂煙をまき上げるようなおならを1発ぶっ放して、気を晴らすよりしかたがありませんでした
 老婆は帰ってきて、見たところをすべて報告しながら言い添えました
「当代の王様、こんどこそは、もっと首尾よくやるあてが十分ございます」

 さて、ひと月たつと、フサイン王子は石の扉から出ました。そして岩山に沿ってゆくと、1人の憐れな老婆が横たわって、何か激しい痛みを起した人のように、みじめにうなっているのに気がつきました。老婆は、身にぼろをまとって、泣いています
 フサイン王子は憐れみを覚えて、馬を停め、老婆に優しくどこが痛いのか、どうすれば痛みを軽くしてあげられるのかを訊ねました
「お殿様、私は町に行こうと村を出たのですけど、途中で猩紅熱にかかって、人里離れ、助けられる望みもなく、ここに力なく放り出されてしまったのでございます」
「おばさんよ、失礼ながら、私の家来2人に抱き起させて、私自身これから戻ってゆく場所に運ばせておくれ、そこで看病させてあげるから」
 2人の家来はそのとおりにして、1人が老婆を自分の馬の後ろに乗せました
 王子は道を引き返して、騎兵と一緒に石の扉に着くと、扉は開いて彼らを通しました…

…ここまで話した時、シャハラザードは朝の光が射してくるのを見て、慎ましく、口をつぐんだ

◎千一夜物語 その9 ヌレンナハール姫と美しい魔女の物語(6)

2015-12-15 00:18:56 | 物語
千一夜物語 その9 ヌレンナハール姫と美しい魔女の物語(6)

★ヌレンナハール姫と美しい魔女の物語(第807-814夜)(「完訳 千一夜物語10」、岩波文庫)


「ヌレンナハール姫と美しい魔女の物語」(第812夜)より

 この幸福な生活が6か月続くと、フサイン王子は心配しているにちがいない父君にお目にかかりたい激しい望みを覚えました。妻の魔女に心中を打ち明けますと、妻ははじめは、それは自分を棄てる口実ではないかと恐れたのでした。
「けれども今はわたくしは、あなたの愛情を深く信じ、あなたの愛情の揺るぎなさとお言葉の真実を固く信用しますので、父君の帝王にお目にかかりにいらっしゃるのを、お断りしたくはございません。けれどもそれには、お留守があまり長い間にわたらないようにしていただきたいのです」
「私は留守が長くないことを、我が頭にかけて誓います。私はいつもあなたのことを思っていますから」
「それでは、いとしい方よ、行っていらっしゃいませ。ちょっと御注意申し上げるのを、どうぞ悪くお思いにならないで下さい。第一に、わたくしたちの結婚のこと、わたくしの魔神の王女という身分のこと、わたくしたちの住んでいる場所、ここに来る道、そういうことはいっさい、父君の帝王にも、ご兄弟にも、お話しになることをお慎みにならなければいけないと思います」

 魔女は夫に、立派な武装をし、立派な馬に乗り、立派な装備をした20人の魔神の騎兵を与え、王国の誰も持っていないほどの見事な馬を、曳いて来させました。王子はその馬に乗り出発しました。やがて王宮に着きますと、父王は、涙を流して、両腕のなかに王子をお迎えになりました

「…私は矢を探しはじめました。そして地平線をことごとく塞いでいる一列の岩山に行き着いたのを見て、もう自分の計画を放棄しようと覚悟しますと、突然、岩山の1つのちょうど麓に、自分の矢を認めたのでした。この発見は、非常な困惑に投じました。私は道理として、こんなに遠くまで矢を射ることができようとは、到底思えなかったからです。
 私はこの不可思議と、サマルカンド旅行の際我が身に起こった一切とが、釈然とわかったのでございます。けれども、これは我が誓いを破ることなくしては、お打ち明けできない秘密です。…。私の消息を得ることのできる場所については、なにとぞ明かすのをご容赦下さいませ」

「お前は好きなときに、お前の住んでいる歓びの住居に戻るがよい。ただ、わしにも、同様にひとつの約束をしてもらいたい。それは、毎月1度はわしに会いに帰ってきてくれるということじゃ」

 フサイン王子は、お言葉承りかしこまった旨お答え申し、仰せの誓いを立てて、まる3日のあいだ王宮に止まり、その上で父君にお暇を乞い、4日目の朝、来たときと同じように、魔神の子らの騎兵の先頭に立って、出発いたしました…

…ここまで話した時、シャハラザードは朝の光が射してくるのを見て、慎ましく、口をつぐんだ

◎千一夜物語 その8 ヌレンナハール姫と美しい魔女の物語(5)

2015-12-10 21:29:16 | 物語
千一夜物語 その8 ヌレンナハール姫と美しい魔女の物語(5)

★ヌレンナハール姫と美しい魔女の物語(第807-814夜)(「完訳 千一夜物語10」、岩波文庫)


「ヌレンナハール姫と美しい魔女の物語」(第811夜)より

 フサイン王子も、ハサン王子とヌレンナハール姫との結婚式には参列しませんでした

 フサイン王子は、消え失せてしまった矢を探しに、腕試しの行われた馬場の場所に出かけて行きました。矢の飛んでいった方向に、まっすぐに歩きはじめましたが、見つからず、どこまでも歩きつづけて、とうとう岩山に達しました

 矢はこの岩山を貫き通すわけはないから、もし矢がどこかにあるものならば、ここよりほかにはないはずだ、と思いました
 と、王子は地上に、矢尻を先にして横たわっている矢を認めました
「おお、不思議なことだ。自分自身の力で、こんなに遠くまで矢を射ることはできるわけがない。矢はこんな前代未聞の距離に達しているばかりか、岩に激しくぶつかって跳ね返されている」

 王子は矢を拾い上げて、矢のぶつかった岩を眺めたりしていますと、その岩に、扉の形に刻まれたくぼみがあるのに気づきました。近づいてみると、それは実際に隠れた扉で、わずかにわかるような入口でした。王子は開くだろうなどとは思わずに、その扉を押してみますと、動き出し、ぐるっと廻るのを見て、たいそう驚きました。
 王子は、その扉の先にあるゆるい勾配の廊下に入っていきました。ところが、扉はもとにもどって、廊下の入口をぴったりと閉ざしてしまい、あたりはまっ暗闇になりました。扉をまた開けようとしても、どうにもなりません

 そこで、王子は、暗闇のなかを前に進むことにしました。やがて、一条の光が射すのを見たので急ぎますと、廊下のはずれに出ました。すると突然、空の下に出て、前には青々とした野原があり、そのまん中に壮麗な御殿がそびえております

 そこから一人の驚くばかりの美しさの貴婦人が出てきて、こちらに進み寄ってまいりました。その婦人は、まごころにあふれた身振りで手を延ばしながら言いました
「ようこそおいであそばしました、フサイン王子様」
 王子は、いまだ会ったこともなく、これまで噂も聞いたことのない国に住んでいる貴婦人に、我が名を呼ばれるのを聞くと、驚きの極に達しました。すると
「何もお尋ねにならないで下さい。わたくしの館にお入りになった時に、あなた様の御不審をお晴らし申し上げましょう」

 乙女は王子の手をとって、並木道を通って案内し、応接の間のほうに連れてゆきました。まん中の長椅子の上に、自分の傍らに王子を坐らせ、王子の手を両手に包んで言いました

「フサイン王子様、わたくしはあなたがお生れになった時から存じ上げています
 実は、わたくしは魔神の王女の魔女(ジンニーア)でございます。サマルカンドであなたのお求めになった不思議な林檎も、ビスシャンガールでアリ様のお持ち帰りになった祈祷用の絨毯も、シーラーズでハサン様のお見つけになった象牙の筒も、みなこのわたくしが、売らせたのでございます。あなたの御身について、わたくしの知らないことは何ひとつないのです。あなたは従妹ヌレンナハールの夫におなりになる仕合せよりも、もっと大きな仕合せにふさわしいかただと、そう思いました。それゆえわたくしはあなたの矢を行方不明にして、ここまであなたを誘い、あなたご自身にここに来ていただこうとしむけたのでございます。今となっては、お指から仕合せをのがれさせるもさせないも、ただお心次第でございます」
 この最後の言葉を、非常に愛情のこもった調子で口にすると、美しい魔女の姫君は、すっかりあかくなって、眼を伏せました

 魔女の姫君のほうが、美しさも、魅力も、色香も、才智も、富も、どんなにかヌレンナハール姫よりもまさっているかを見て、我が運命を、ただ祝福するばかりでした

……

「あなたはわたくしの夫になって、わたくしを深く愛して下さいますか」
「あなたの夫としてどころか、あなたの奴隷の末席としてでも、1日を過ごすことができれば、私は一生涯をささげても苦しゅうございません」
「そういう次第ならば、わたくしはあなたを夫として迎え、今後わたくしはあなたの妻でございます。これからご一緒に、わたくしたちの最初の食事をとることにいたしましょう」
 姫は王子を第二の広間に案内しました

 さて食事が終ると、美しい魔女王女とその夫は、さらに美しい第三の広間に行って坐りました。すぐに多数の魔人の娘の舞姫がはいってきて、うっとりするような舞いを踊りました。同時に、音楽が上から下って、聞えてきました。舞姫たちは、なだらかな舞いの拍子に合わせて、広間を出て、婚姻の寝床のしたくがしてある部屋の戸口まで、新夫婦の前を進んでゆき、新夫婦を部屋にはいらせ、引き取りました
 2人の若い夫妻は、かぐわしい寝床に寝ましたが、それは決して眠るためではなく、楽しむためでございました…

…ここまで話した時、シャハラザードは朝の光が射してくるのを見て、慎ましく、口をつぐんだ