6秒のドラマに感涙

2004年11月22日 | 日記・エッセイ・コラム
 土曜日に放送された小学生のドミノ倒しのテレビ番組に、おもわず涙を流してしまいました。
 学校対抗でドミノを倒すスピードを争う大会で、決められた距離の真ん中で向きを変えて戻ってくるように規定の数のドミノを並べること、設定されたいくつかの関門をクリアしなくてはならないこと以外はまったく自由で、何をドミノに使って、どのように並べても構わないのです。
 これまでの経験からドミノにはビデオテープを使うのが一番速いようで、今年は決勝進出の5校のうち4校がビデオテープのドミノでした。ただ各校ともテープをそのまま使うのではなく、縦長に2つビデオテープをつないで重心を高くしたり、おもりをつけて倒れやすくしたり、定規で作った爪をつけて前のドミノへの引っかかりをよくしたり、と工夫を凝らしています。
 今年の関門は、レールのついた流氷、位置のずれた3つの環くぐり、水槽のなかにジグザグに置かれた島越え、そして段差のある山越えの4か所で、これらをクリアするために子供たちは知恵を絞ります。
 流氷を押すにはドミノを倒す力を相当蓄えなくてはなりません。5校ともスタート点のすぐ近くに流氷を置いてはじめの勢いで突破します。ちなみに人力であればどのような手段で最初のドミノを倒し始めてもよく、5校とも大きな板を倒したり、ふいごを使ったりして、風力によるスタートです。
 予選順位の下からのスタートで、4校まで終わった時点で、旭川の小学校が10秒を切る過去最高の記録で暫定1位になっていました。
 最後は昨年2位の愛知県の半田小学校。
 真剣な表情でドミノを並べる児童たちからは、今年にかける並々ならぬ決意が伝わってきます。応援の教師や父母たちも固唾を呑んで決戦のときを見つめています。
 半田小学校のドミノは逆さにしたペットボトルを組み合わせてつくったもので、これまでにないアイディアで登場しました。中身は位置によって微妙に調整されていて、何度も試行錯誤を繰り返したあとが伺えます。
 パワーを出すために重くしたペットボトルを倒すために、いくつかの加速装置がつくられていました。その見事な工夫に私は頓首しました。ふくらました風船の上におもりが固定され、風船の手前には針をつけたドミノが置かれています。針付ドミノが倒れて風船を割り、おもりが落下する。その重力を利用して重いドミノを加速していくのです。風船を膨らます大きさも、何回も実験して決めたそうです。
 しかしどんなに優れた工夫をしても、本番ではうまく動かずに棄権する学校が去年もありました。今年の半田小もあまりによくできた装置だけに不安です。
 児童たちはセッティングに入りました。一度失敗しても30分のリセット時間が与えられるルールですが、半田小のシステムは30分で復旧できるものではありません。一発勝負です。
 無事セッティングは終わり、スターターの児童が力いっぱいふいごを押すと無事にドミノが倒れ始めました。
 最初の流氷は無事に流れて、次のドミノにつなぎます。
 その後はパン、パン、パン、パンと風船の割れる音がして、あっという間にゴールイン。どうやって関門を通過したのかもわからないまま、ゴールのドミノが倒れ、児童や親たちが狂喜乱舞する姿を映し出していました。
6秒台という驚異的な記録で優勝です。
 その後スローモーションによる解説。
 環くぐりは風船が割れると同時に飛び出したマジックハンドの腕が、勢いよく次々と輪を貫いていきました。
 島超えはアルコールランプのスタンドを水中部分の足にした幅の広いドミノを、手前で風船に加速された重いドミノが一気に押し倒しクリア。ジグザグの島にドミノを立てるのではなく、水中部分にも足をつけた幅広ドミノで直線化して、屏風を倒すように越えるという発想に脱帽です。
 山越えも風船の加速で勢いをつけたドミノが、頂上のやじろべえの型のドミノの腕を押す。そしてやじろべえのもう一本の腕は山の向こう側のドミノを押し倒す。一突きで山越えに成功していました。
 最後は軽いペットボトルがぐんぐん加速されてゴールイン。
 半田小の子供たちは去年2位に敗れてから1年間、明けても暮れてもドミノ倒しのことばかり考えて暮らしていたのでしょう。朝早く学校に行き、休み時間も、放課後も、土日も試行錯誤を繰り返したことでしょう。ペットボトルを提案した児童は、ビデオテープ派を説得するために苦労したのではないかしら。意見を戦わせ、ときには喧嘩になったでしょう。関門越えはそれぞれのパートに分かれて制作したということですので、パートごとの確執にも苦しんだはす。人は理屈では動かない、感情の生き物ということを知ったよね。男の子と女の子の共同作業を通じて、友情とはちょっと違った感覚を味わって、ドミノのことよりもそっちで胸がいっぱいの子も乱舞している中にきっといる。
 そして家族や教師が子供たちを支え、見守り続けた。
 半田小学校の児童たちは決して特別な子供ではないとおもいます。親も教師もふつうのお母さん、お父さん、そして先生だとおもいます。ドミノ倒しを通じて何かを学ぶために頑張ったのではなく、もちろんドミノのプロ?を目指しているわけでもない。0.01秒でもタイムを縮めて去年の雪辱を晴らす、ただそれだけの目先の目標のために、普通の彼らは一つになった。
 そんなすべてがこの6秒間に凝縮されていて、ドミノが加速されるように、ぐいぐいと見ている私に迫ってきました。
 悲惨な事件ばかりが報じられ、気が滅入ってしまう毎日ですが、たった6秒間だけ、いい涙を流すことができました。



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