10年前の福島原発事故のときにもイソジンうがい薬が薬局から消えました。
事故により放出される放射性ヨウ素が甲状腺に集積すると甲状腺がんの原因になり、実際チェルノブイリの事故後に甲状腺がんが多発していますが、あらかじめヨウ素を摂取することで、甲状腺に放射性ヨウ素が取り込まれるのをブロックできるため、特に若年者には原発事故直後の安定ヨウ素剤投与が有効という意見があります。賛否はともあれ、結局10年前の事故の時には、国や自治体によるヨウ素剤の配布は行われなかったのですが、ヨウ素を含むイソジンうがい液が安定ヨウ素剤代用になるという噂が流れてしまったのです。もちろんイソジンうがい薬のヨウ素はポビドンヨードというポリビニルピロドリンという高分子との複合体なので、服用しても安定ヨウ素剤と同等にヨウ素が腸管から体内に吸収されるわけではないし、高濃度で服用すれば粘膜障害のリスクもあるので、この時は私もお勧めしませんでした。
さて、今回はイソジンうがい薬が新型コロナウイルス感染者の重症化を予防する、という説を、何と大阪府知事が実際に商品を目の前に並べて宣伝してしまったから、さあ大変。これで東西にトンデモ知事が揃い踏みの感があります。
イソジンうがいで軽症感染者の唾液中のウイルスが減り、重症化を予防するというのが根拠らしいのですが、そもそもわが国では今のところ重症化する人は極めて少ないですし、すでに身体に入ってしまったウイルスに、表面を洗うだけのうがいが影響を及ぼすともおもえません。
ヨウ素は水溶液中でH₂OI⁺となり、このイオンが細菌の細胞膜やウイルス構成タンパク質を酸化して不活化しますが、ヨウ素はアルコールにはとけるのですが、水に溶けにくいという性質があります。1956年にアメリカでヨウ素をポビドンヨードというポリビニルピロドリンという高分子との複合体にすることで、水に溶けやすくする方法が開発され、以来ポビドンヨード液はうがい薬や皮膚や傷口の消毒薬として広く使われています。ちなみにそれ以前はヨードのアルコール溶液が皮膚の消毒薬として使われていました。ヨードチンキ、いわゆる赤チンですが、うがい薬には使えませんでした。
というわけで、イソジンうがいは新型コロナウイルス感染者の重症化を予防、は無理だとおもうのですが、コロナウイルスだけでなく上気道の細菌、ウイルス感染の予防には有効、だと私はおもっていますし、私もこのコロナ騒動以前からポビドンヨードうがい薬は常用しています。
ウイルスは宿主の細胞のプログラムに入り込んで(この時点で感染が成立)はじめて増殖を開始します。のどや口腔、手指に付着しているだけでは増殖できないのです。よって、まだ感染を起こしていない付着の段階でウイルスを洗い流してしまえば、感染リスクは下がりますし、洗い流す水にウイルスの不活化作用があれば、効果は高まります。うがい、手洗いが推奨される所以です。
PCR検査は咽頭や口腔に付着しているウイルス(不活化した”死骸”も含めて)を感知する検査なので、いわゆるPCR検査陽性の無症状感染者と言われている人には、「付着(しているだけで、細胞内には取り込まれていない)者」が多く含まれています。感染者の周囲に付着者が多いのは当然ですが、のどや口腔、手指に付着しているだけでは感染ではありません。重症者の比率が極めて少ないのも、付着者を感染者にカウントしているため、と私はおもっています。
細胞内に取り込まれたウイルスには、いくらイソジンで表面をうがいしても効果がありませんが、咽頭や口腔に付着しているだけであれば、ウイルスを洗い流し、不活化するイソジンうがいは有効、というかそれがうがい薬の目的なので、当然です。軽症・無症状感染者と呼ばれている人には付着者が多く含まれているので、イソジンうがいで付着が感染に至るのを防げます。感染を防げば当然重症化もしないわけですから、付着者も感染者にカウントするという前提であれば、イソジンは軽症感染者の重症化予防に有効、と言えなくもないですね。「西のトンデモ知事」は取り下げましょうか。
さて、どうしてポビドンヨード「povidone iodine」液がイソジンと言われているかというと、ヨウ素「iodine」と、体液と浸透圧が等しい「isotnic」からの造語「iso-dine」を商品名にしたとのことです。浸透圧は濃度によるので、浸透圧が等しいとはいえないのですが、それまでのヨードのアルコール溶液、ヨードチンキと違って水溶性、ということなのだとおもいます。
さらに気になるのが、いつから人はうがいをしていたのか、ということ。うがいの語源は「鵜飼」で、鵜が魚をのどから吐き出す様子から人間ののどを洗う行為をうがいと呼んだ。鵜飼は古事記や日本書紀にも記載があるので少なくとも8世紀には日本人はゴロゴロ、ペッのうがいをしていたのでしょうか。
夏目漱石の漱石というペンネームは「漱石枕流」という晋の故事が由来です。「漱」は口をすすぐの意味で、3世紀の晋ではゴロゴロしていたかどうかはさておき、ガブガブ、ぺッはしていたはずです。因みに「漱石枕流」とは、西晋の孫楚が「石に枕し流れに漱ぐ」と言うべきところを、「石に漱ぎ流れに枕す」と言ってしまい、誤りを指摘されると、「石に漱ぐのは歯を磨くため、流れに枕するのは耳を洗うためだ」と言ってごまかした故事で、偏屈な態度で、自分の誤りを指摘されても直そうとせず、こじつけをして押し通すことが「漱石枕流」です。
東西の知事さん、くれぐれも「漱石枕流」をなさらぬように。
事故により放出される放射性ヨウ素が甲状腺に集積すると甲状腺がんの原因になり、実際チェルノブイリの事故後に甲状腺がんが多発していますが、あらかじめヨウ素を摂取することで、甲状腺に放射性ヨウ素が取り込まれるのをブロックできるため、特に若年者には原発事故直後の安定ヨウ素剤投与が有効という意見があります。賛否はともあれ、結局10年前の事故の時には、国や自治体によるヨウ素剤の配布は行われなかったのですが、ヨウ素を含むイソジンうがい液が安定ヨウ素剤代用になるという噂が流れてしまったのです。もちろんイソジンうがい薬のヨウ素はポビドンヨードというポリビニルピロドリンという高分子との複合体なので、服用しても安定ヨウ素剤と同等にヨウ素が腸管から体内に吸収されるわけではないし、高濃度で服用すれば粘膜障害のリスクもあるので、この時は私もお勧めしませんでした。
さて、今回はイソジンうがい薬が新型コロナウイルス感染者の重症化を予防する、という説を、何と大阪府知事が実際に商品を目の前に並べて宣伝してしまったから、さあ大変。これで東西にトンデモ知事が揃い踏みの感があります。
イソジンうがいで軽症感染者の唾液中のウイルスが減り、重症化を予防するというのが根拠らしいのですが、そもそもわが国では今のところ重症化する人は極めて少ないですし、すでに身体に入ってしまったウイルスに、表面を洗うだけのうがいが影響を及ぼすともおもえません。
ヨウ素は水溶液中でH₂OI⁺となり、このイオンが細菌の細胞膜やウイルス構成タンパク質を酸化して不活化しますが、ヨウ素はアルコールにはとけるのですが、水に溶けにくいという性質があります。1956年にアメリカでヨウ素をポビドンヨードというポリビニルピロドリンという高分子との複合体にすることで、水に溶けやすくする方法が開発され、以来ポビドンヨード液はうがい薬や皮膚や傷口の消毒薬として広く使われています。ちなみにそれ以前はヨードのアルコール溶液が皮膚の消毒薬として使われていました。ヨードチンキ、いわゆる赤チンですが、うがい薬には使えませんでした。
というわけで、イソジンうがいは新型コロナウイルス感染者の重症化を予防、は無理だとおもうのですが、コロナウイルスだけでなく上気道の細菌、ウイルス感染の予防には有効、だと私はおもっていますし、私もこのコロナ騒動以前からポビドンヨードうがい薬は常用しています。
ウイルスは宿主の細胞のプログラムに入り込んで(この時点で感染が成立)はじめて増殖を開始します。のどや口腔、手指に付着しているだけでは増殖できないのです。よって、まだ感染を起こしていない付着の段階でウイルスを洗い流してしまえば、感染リスクは下がりますし、洗い流す水にウイルスの不活化作用があれば、効果は高まります。うがい、手洗いが推奨される所以です。
PCR検査は咽頭や口腔に付着しているウイルス(不活化した”死骸”も含めて)を感知する検査なので、いわゆるPCR検査陽性の無症状感染者と言われている人には、「付着(しているだけで、細胞内には取り込まれていない)者」が多く含まれています。感染者の周囲に付着者が多いのは当然ですが、のどや口腔、手指に付着しているだけでは感染ではありません。重症者の比率が極めて少ないのも、付着者を感染者にカウントしているため、と私はおもっています。
細胞内に取り込まれたウイルスには、いくらイソジンで表面をうがいしても効果がありませんが、咽頭や口腔に付着しているだけであれば、ウイルスを洗い流し、不活化するイソジンうがいは有効、というかそれがうがい薬の目的なので、当然です。軽症・無症状感染者と呼ばれている人には付着者が多く含まれているので、イソジンうがいで付着が感染に至るのを防げます。感染を防げば当然重症化もしないわけですから、付着者も感染者にカウントするという前提であれば、イソジンは軽症感染者の重症化予防に有効、と言えなくもないですね。「西のトンデモ知事」は取り下げましょうか。
さて、どうしてポビドンヨード「povidone iodine」液がイソジンと言われているかというと、ヨウ素「iodine」と、体液と浸透圧が等しい「isotnic」からの造語「iso-dine」を商品名にしたとのことです。浸透圧は濃度によるので、浸透圧が等しいとはいえないのですが、それまでのヨードのアルコール溶液、ヨードチンキと違って水溶性、ということなのだとおもいます。
さらに気になるのが、いつから人はうがいをしていたのか、ということ。うがいの語源は「鵜飼」で、鵜が魚をのどから吐き出す様子から人間ののどを洗う行為をうがいと呼んだ。鵜飼は古事記や日本書紀にも記載があるので少なくとも8世紀には日本人はゴロゴロ、ペッのうがいをしていたのでしょうか。
夏目漱石の漱石というペンネームは「漱石枕流」という晋の故事が由来です。「漱」は口をすすぐの意味で、3世紀の晋ではゴロゴロしていたかどうかはさておき、ガブガブ、ぺッはしていたはずです。因みに「漱石枕流」とは、西晋の孫楚が「石に枕し流れに漱ぐ」と言うべきところを、「石に漱ぎ流れに枕す」と言ってしまい、誤りを指摘されると、「石に漱ぐのは歯を磨くため、流れに枕するのは耳を洗うためだ」と言ってごまかした故事で、偏屈な態度で、自分の誤りを指摘されても直そうとせず、こじつけをして押し通すことが「漱石枕流」です。
東西の知事さん、くれぐれも「漱石枕流」をなさらぬように。