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春を愛する人は、心優しい人。

湿気っぽい日々

2009年03月14日 12時34分39秒 | 民風民俗
 
 どんよりした日々。湿気っぽい日々。壁や床に水玉がたくさん付いている。泣き声が聞こえないけど、壁が泣いているようである。

 陋屋の古い壁、新築の光るタイル。どの壁でも泣いているようである。しかし、泣き声はつゆ聞こえないものである。何かの協力があるのであろうかと思われるほど、同じ時間、同じ表情―――壁たちは静かに泣いている。

 「その子は壁のような者」と、或る先生の比喩を耳にしたことがある。なんといっても新奇な比喩と発想であろう。まさかどの壁も元々春のような女子だったのであるまい?春の悲しい物語に惹かれて、泣いているのであろうか。

 馬鹿馬鹿しい考え方!

 作家蘇童(中国)の小説・「碧奴」は日本語に翻訳された折、訳者はその題の後ろに、説明的あるいは補助的な小見出しを付けた。「涙の女」である(実は万里の長城の工事で夫を亡くした孟姜女の物語を基にして書かれた神話的小説)。
 
 どの国でも神様が住んでいる。中国でカマドや厠まで神様が宿る。但し、「涙神」を耳にしたこと一度もない。資料を調べたが、見つけなかった。ある時に「その子は涙神だ」という揶揄的な表現を使うこともあるが、ここでの「涙神」は「ややもすれば泣き出した」という意味、涙がちだといってよかろう。

 神話や伝説に仙女の涙が人の世に落ちて綺麗な湖になったのは屡ある。その中で仙女の涙でなく壊れた鏡を使う用例もあまたある。まさかチベットや雲貴高原にいまもある湖水信仰は原始的な「涙神?」への崇拝であるまい。さあ~~!?

 その孟姜女も多分「涙神」の始祖になれるかも。原因は簡単である。世界で有名なある壁―――万里の長城の前で号泣すると、正面の壁が崩れ落ちて無数の骨片が散乱したので、その中から夫の骨を捜し出した彼女は持ち帰って葬ったという。

 多分「涙神」は塀や壁に宿っているかも。


 注:孟姜女(もうきょうじょ)は中国古代の説話に登場する女性。秦(しん)の始皇帝が万里の長城を築いたとき、労役に駆り出された杞梁(きりょう)という男は、過酷な労働に耐えかねて工事現場から逃亡した。その途中、富家の庭園に入り込み、そこの娘孟姜女と知り合って相愛の仲となり、やがて2人は結婚した。その後彼は長城の建築現場に戻るが、逃亡を怒った監督は彼を殺して長城の中に築き込んだ。それを聞いて駆けつけた孟姜女が長城の前で号泣すると、正面の壁が崩れ落ちて無数の骨片が散乱したので、その中から夫の骨を捜し出した彼女は持ち帰って葬ったという。こうした孟姜女の物語は唐代に初めて文献に現れるが、この悲恋譚(たん)は民話、語り物、演劇などの形で広く民衆の間に流行した。(yahoo百科事典より)