平和エッセイ

スピリチュアルな視点から平和について考える

パッチ・アダムスと笑いの医療

2006年01月09日 | Weblog
娘が借りてきたDVDで『パッチ・アダムス』(1998年制作)という映画を観ました。

これは、人間性を失ったアメリカの現代医学のあり方に疑問を持ち、笑いと愛と思いやりによって患者の生活の質を高めようとする医師の生き方を描いた映画です。

主人公のパッチ・アダムスの医療(ケア)において、もっとも重要なのは「笑い」です。そのため、パッチは道化の格好をして、患者を笑わせます。このような行為は、アカデミズムの牙城としての医科大学や権威主義的な医師の世界と衝突しますが、彼は、自分が理想とする医療が行なえる施設(Gesundheit Institute)の建設を目指します。

※Gesundheitというのは、「健康」という意味のドイツ語で、日常生活では、相手がセキやクシャミをしたときに、「お大事に」という意味で「ゲスントハイト!」といいます。

▼ストーリー
http://www.sankei.co.jp/mov/review/99/patchadams/

この映画には実在のモデルがいます。ハンター・アダムス(1943年生まれ)さんです。「パッチ」は「絆創膏」という意味ですが、ハンターさん自身が自殺未遂で精神病院に入っていたときのエピソードによって付けられたあだ名です。

そもそもアダムスさんは、自分が精神病院に入院中に他の患者を助けた体験から、医科大学に入学し、この映画で描かれたような医療を行なえる施設の建設を目指していましたが、なかなか資金が集まらず、資金集めのために本を書きました。その本が元になってこの映画が作られたのです。(施設はまだ建設されていません。今も資金を募集中です)

ただし、映画はアダムスさんの実際とは少し違っているようです。アダムスさんのホームページは、「多くの場面や出来事は誇張されています。多くが芝居がかり、実際の出来事のいくつかはまったく言及されていません」と述べています。
http://www.patchadams.org/about/faq.html

日本語のインタビュー記事の中でアダムスさんは、「僕は、黒澤監督の『赤ひげ』が好きです。アメリカの赤ひげ・・・のように描かれることを希望していました」と述べています。
http://www.rsk.co.jp/attochannel/report_adams/

ロビン・ウィリアムズ主演の映画は、たしかに笑いをねらった誇張した場面も多いですが、アダムスさんが伝えたかった大切なメッセージは失われていません。それは、医療は、「病気」を治療する冷たい科学ではなく、苦しみをかかえた「人間」の温かな癒やしであるべきだ、というメッセージです。

「笑い」を医療に取り入れようというアダムスさんは、医学界の異端児、変人と見られました。パイオニアとしての困難に直面しましたが、彼の考えに賛同する医師も徐々に増えているようです。「笑い」が健康を増進するということは、経験的に認められる事実であるからです。

最近では、村上和雄先生の笑いと遺伝子の研究によって、「笑い」が健康促進に効果があることが科学的にも証明されつつあります。村上先生には、吉本興業とだけではなく、ぜひアダムスさんとも最強タッグを組んでいただきたいものです。

※村上先生についてはこのブログで時々書いていますので、「村上和雄」で検索してみてください。

実際に、日本の医療現場でも、「笑い」を取り入れる試みが始まっているようです。

アダムスさんは2004年に神戸を訪問し、それがきっかけになって、医療現場に「笑い」を届ける「ケアリング・クラウン」という集まりができました。
http://www.geocities.jp/we_love_patch/index.html

アダムスさんの目的は、理想の医療が行なえる病院の建設だけではありません。アダムスさんは、一人一人の人間が尊重される世界を作るために、諸外国を訪れる「民間外交官」(citizen diplomat)でもあるのです。
http://en.wikipedia.org/wiki/Patch_Adams

インタビューの中でアダムスさんは、

「みなさん! 世の中の問題を解決する決意をして欲しいのです。普遍の友情を周りの人に向けて欲しい。他の人を思いやることに大きな人生の意味があると考えて欲しいのです。そして、笑いというのは、私たちの生命にとって、水や空気と同じくらい必要です。愛、笑い、思いやりを他の人に届けてください。」

とおっしゃっています。アダムスさんは、医者というカテゴリーさえも超え、人々の心の変革を通して世界の平和のために働く人なのでしょう。