平和エッセイ

スピリチュアルな視点から平和について考える

フォトンベルト妄想(9)

2006年07月08日 | フォトンベルト妄想
最後に、ゲリー・ボーネルによるフォトンベルト妄想の利用について述べておきます。

フォトンベルトや聖書やエドガー・ケイシーなどを適当につなぎ合わせて、それをあたかも自分の霊視のように語ったのがゲリー・ボーネルというアメリカ人です。彼は自分にはアカシック・レコードを読む能力があると自称し、『光の十二日間』(Voice、1999年)という本の中で、地球は2001年に突如、12日間にわたって高エネルギー状態に突入する、と予言しました。

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 西暦2001年の半ばのある時点。私たちは1万3000年ごとに訪れることになる、巨大なエネルギーが引き起こすイベントのまっただ中に突入します。
 同時に、すべての人間がほとんど同じ状況で、このエネルギーを体験します。・・・
 それは新しい時代(ニューエイジ)の到来であり、この変換期をスムーズに乗り越えるために、私たち個人ができることは何もありません。
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そのあとボーネルは、人間と地球にどのような異変が起こるか、1日目から12日目まで詳しく書いています。それはケンプやスタンレーの説を想像力で具体的に膨らませたものです。なかなか小説家的な能力のある人のようです。

予言されていた年2001年には、そういうことは何も起こりませんでした。するとボーネルは「12日」を「12年」に変更しました。12年かけて徐々に変化が起こるのだというわけです。まったくいい加減な話です。

2001年に起こったのは911同時多発テロでした。するとボーネルは第3次世界大戦が起こる、ブッシュ大統領は暗殺される、日本の皇居もテロに遭う、東京を大地震が襲う、などと様々な物騒な予言をしました。ボーネルの予言はすべて見事なほど外れまくりましたが、センセーショナルな予言をばらまいたボーネルの本とビデオは相当に売れて、彼の講演会やワークショップにはたくさんの人が集まり、彼は日本で大儲けをしました(人づてに聞いたところでは、過去世を霊視してくれる彼の個人セッションは1回7万円だったそうです)。ある宗教団体の機関誌では、相当に偉い人のように持ち上げられました。ボーネルが日本人を「霊性の高い民族」とほめあげ、その団体を世界平和の中心とほめあげるのも、よく頷けます(笑)。でも、そういういかさま師にほめられるというのは恥ですね。

人間はどうしてこういういい加減な霊視や予言や妄想――フォトンベルト妄想もその一つです――を信じてしまうのでしょうか? その原因は、自分の力では自分と世界の惨めな状況を変えることができないので、何かしら外部からの巨大な力の介入によって、世界の根本的な変革を望む心性にあると思います。しかし、そういう外部からの変革を期待しているかぎり、人間は自分がいま置かれている現在の時点を真剣に生きることを忘れ、架空の未来の中に生きることになります。それは人生の空費です。

終末論にはそういう問題点があります。ノストラダムスの予言もフォトンベルトも、姿を変えた終末論です。

※このブログでは何度か終末論について触れていますので、検索してみてください。

自分の人生はもとより、地球も人類も、まず自分が真理につながった生き方をしないかぎり、いっこうによくなるはずがありません。次元上昇、アセンション、ニューエイジは、フォトンベルトへの突入や宇宙人の飛来によって起こるのではなく、自分の生き方が世界の未来に対して影響を及ぼすのだという責任を自覚し、日々、愛と感謝と祈りの生き方を実践することによって始まるのです。一人一人の内的覚醒以外に世界を変える道はありません。そういう意味で、次元上昇は2012年に起こるのではなく、今この瞬間に起こりつつあるとも言えるのです。


フォトンベルト(8)

2006年07月07日 | フォトンベルト妄想
フォトンベルト説の変化の続きです。

【1万3千年】
さて、ヘッセのそもそもの説では(それを受け売りしたケンプの説も)、太陽系は1万年の闇の時代と2千年の光の時代を出入りするはずでした。それがスタンレーのあたりから、1万1千年と2千年に変更されています。これは地球の歳差運動を考慮に入れたためでしょう。地球の首振り運動である歳差運動は、約2万6千年で1周します。1万1千年+2千年=1万3千年は、その半分です。

しかし、歳差運動とフォトンベルトへの出入りは元来、関係ないはずです。フォトンベルト信者の観念によれば、フォトンベルトへの出入りは、

(1)太陽がプレアデスの周囲をめぐっている
(2)銀河中心部からのエネルギーの放射による

のどちらかのはずです。前者は荒唐無稽であることは前に述べましたし、銀河中心部からの放射がなぜ地球の歳差運動と同じリズムになるのか、まったく説明されていません。要するに、関係のない観念を結びつけたのでしょう。

【2012年とマヤの暦】
フォトンベルト信者は、2012年に地球がフォトンベルトに突入すると信じているようです。これは、フォトンベルトが「マヤの暦」と結びついたところに生じた説であると思われます。

マヤ文明は独特の暦を使っていました。このマヤ暦を現代の甦らせたのはホゼ・アグエイアス夫妻です。

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 アステカ人は、マヤ人と同時に、天界を13層からなるものと考えて、「13」の数字で表わし、同様に冥界を「9」の数字で表わしたのです。
 アステカ帝国をも含め、「新世界」へのヨーロッパ人の侵略が始まった1519年、エルナン・コルテスが第3回の遠征隊の隊長となってベラクルスに上陸しました。この紀元1519年は、アステカ人のあいだで受け継がれてきた預言では、ちょうど「天国の13の周期」が終わり、「地獄の九つの周期」がはじまる年でした。そして、アステカ人はマヤの遺産を引き継ぎ、天国の周期も、地獄の周期も、52年を一単位として数える習慣があったのです。したがって、地獄の九つの周期とは、52年×9=468年間にわたるもので、1519年から数えて、468年経過すると、1519年+468年=1987年。まさに1987年が、この地獄の周期の終わりだったのです。
 このようなマヤの時間に関する周期的な解釈をもとに、アグエイアスは、1987年の8月16日と17日を<ハーモニック・コンバージェンスの日>として、新しい時代の夜明けを提唱しました。そして、それがアメリカの精神的なムーブメントを先導する人々を中心に、世界じゅうに広がったのです。
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http://www2.voice-system.com/voice/mayan1/user/mayandoc/maya03.html

ニューエイジの人々は、いつからニューエイジが始まるかにいつも関心を持っています。それにはいろいろな説があり、1987年もその一つでした。特定の年を決めてそれに合わせてイベントを盛り上げるというのは、現実の世界でもよく行なわれることです。そういう意味で1987年のハーモニック・コンバージェンスは欧米ではほどほどの成功だったと思われますが、まだインターネットもなく、情報の遅かった日本ではハーモニック・コンバージェンスについては、ほどんど問題になりませんでした。

次に盛り上がったのが、例のノストラダムスの大予言の1999年です。この年をめがけて様々な予言解読本が出ましたが、そのすべてが外れました。

次に選ばれているのが2012年です。マヤ人の作った暦がたまたま2012年の冬至で終わっているので、この日に何かが起こるのではないか、という期待を集めているのです。

マヤの暦は、1カ月は28日で、1年は13カ月(28日×13カ月=364日)から成り立つとします。これは月の動きを元にした太陰暦の一種であると考えられます。月の動きは地球の海の干満や女性の生理に大きな影響を与えることが知られています。現在のグレゴリオ暦(太陽暦)よりも自然界や人間の生命の営みに即した暦であるということができます。ですから、私は13の月の暦に基本的に反対するものではありません。

しかしながら、それが何らかの「予言」と結びつくと、それには「?」をつけたくなります。

マヤ人がフォトンベルトを知っていて彼らの暦を作ったという証拠はどこにもありません。フォトンベルトと2012年は、フォトンベルトによる地球の大変動を期待する人々によって結びつけられたにすぎません。フォトンベルト妄想のそもそもの出発点であるヘッセやケンプは当初、1999年ないしは2000年に何事かが起こるはず、と期待していたことを思い出しましょう。1999年が空振りに終わったので、次に選ばれたのが2012年というわけです。

フォトンベルト妄想(7)

2006年07月05日 | フォトンベルト妄想
その後もフォトンベルト妄想は変転を遂げていきます。これについては、自分の説を無断使用されたラヴィオレット氏のサイトが、具体的例をあげて批判しています。
http://www.etheric.com/LaViolette/Disinformation.html

・1994年:B・H・クロウ(B. H. Clow)は、科学的に「銀河スーパーウェーブ」説を出したラヴィオレットの本を読んで、それを自分独自に改変し、ラヴィオレットに言及せず、ケンプとスタンレーのみを引用しつつ、アルシオーネに住む宇宙存在からのチャネリングという形で、『プレアデス 銀河の夜明け(The Pleiadian Agenda)』という本を1994年に出版した。

・ 1997年:ロバート・コックス(Robert Cox)は『天上の火柱(Pillar of Celestial Fire)』という著書で、ラヴィオレットの説とチャネリング情報を混ぜ合わせている。

・1998年:ジェームズ・ジリランド(James Gilliland)がEメールで、銀河の中心部からの意識の波がフォトンベルトを伴って押し寄せる、と広める。

・1998年:ドランヴァロ・メルキゼデク(Drunvalo Melchizedek)が自分のウェブサイトで、銀河の中心部から膨大なエネルギーが放出されている、と述べる。メルキゼデクはラヴィオレットのセミナーの出席して、その説を知っているのにラヴィオレットに相談もしていない。

ラヴィオレット氏は、自分のほうが理論の優先権がある、と言いたいようです。それは科学者としてもっともなことですが、以上の情報からは、色々な人が他人の情報を無断で利用し、それに適当な解釈(改変)を付け加えていることがよくわかります。

あと、ラヴィオレット氏があげていない影響力の大きいフォトンベルト教の教祖をあげておくと、ヴァージニア・エシーン(Virginia Essene)とシェルドン・ナイドル(Sheldon Nidle)です。両者は1994年に『あなたは銀河人になる(You Are Becoming a Galactic Human)』という本を書いて、その中でフォトンベルトについて触れています。ナイドルはシリウス星人からチャネリングを受けており、銀河連盟の地球代表なのだそうです。こうなると、完全にスターウォーズ的な誇大妄想としか言いようがありません。

また同じフォトンベルト論者の中でも対立があるようで、クロウはナイドルの本は読むなと言っているそうです。


フォトンベルト妄想(6)

2006年07月03日 | フォトンベルト妄想
太陽がプレアデスの周囲をめぐり、プレアデスから出ているフォトンベルトに出たり入ったりするという観念は、ドイツ人ヘッセ(Paul Otto Hesse)に端を発する妄想であることがおわかりになったと思いますが、ところがフォトンベルト妄想には様々な改変が付加されていくことになります。

【絵文録ことのは】によれば、

【3】1991/夏 ロバート・スタンレー(Robert Stanley)が「フォトン・ゾーン――地球の未来は輝く("The Photon Zone: Earth's Future Brightens")」という記事を「Unicus Magazine」で発表。

このロバート・スタンレーというのは、渡邊延朗氏がフォトンベルトの発見者として持ち上げる「アメリカの天文学者ロバート・スタンレー博士」のことのようです。しかし、Robert Stanley を astrophysics や astronomy という語と組み合わせて検索しても、インターネットにはその情報が出てきません。

当然です。ロバート・スタンレーは天文学者などではなく、現在「Unicus Magazine」という雑誌の編集長(editor)をしている人物なのです。スタンレーは子供のころからUFOに関心を持ち、様々な不思議な体験をしてきたといいます。
http://www.unicusmagazine.com/html/editor.htm

私はUFO現象にはそれなりの意味があると思っておりますので、妄想であるとして頭から否定しようとは思いません。しかし、どちらかというと矢追純一氏のような人物を、「天文学者」や「博士」と呼ぶことは、誤解を招くと思います。

スタンレーのような人物が編集長をしている「Unicus Magazine」も、やはり『ムー』と同じレベルの雑誌だということは確実です。

さて、このスタンレーの「フォトン・ゾーン」の記事には、ある人物から強い批判が寄せられました。その批判から、スタンレーのフォトン・ゾーン理論が読み取れます。

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 1991年の夏、ロバート・スタンレー(Robert Stanley)は「フォトン・ゾーン――地球の未来は輝く("The Photon Zone: Earth's Future Brightens")」という記事を「Unicus Magazine」に発表した。この記事は、フォトン・ベルト概念を銀河の中心からの噴出(アウトバースト)の概念と結びつけたものである。この概念はラヴィオレットの銀河スーパーウェーブの概念と驚くほど似ているが、科学的な基礎もなければ、観測上のデータもない。「フォトン・ゾーン」は、銀河の中心から放射されるベルト状またはトロイド(ドーナツ)状の過剰な光子(フォトン)であり、「太陽系の水平軌道に対して90度直角に回転している」とスタンレーは述べている。

 スタンレーはどうやらラヴィオレットの科学論文を参照していないようである。ラヴィオレットの論文では、銀河の宇宙線スーパーウェーブが銀河の中心から放出されている証拠について述べている。そして、外に向かって動いているスーパーウェーブの各々の殻は、銀河中心部を中心とする同心円状の電磁放射のリングを形成するが、これは銀河の平面上にある。スーパーウェーブが外に向かって広がっていくのに伴って、この殻は外に広がっていく。この放射ゾーンを「フォトン・バンド」とか「フォトン・ベルト」と呼ぶことはできるかもしれない。このスーパーウェーブ放射のリングの一番近いリングからやってくる放射は、私たちにとって一番近い地点としては、7000光年離れたおうし座の領域で発生しているように見えるだろう、ということをラヴィオレットは示した(したがって、プレアデスからさらに6500光年遠方)。そして、その放射は反対方向、つまり3万光年先にある銀河の中心部(さそり座の領域)に向かって、われわれからはるかに離れてのびている。つまり、観測上の証拠がないフォトン・バンド理論は、スーパーウェーブの概念に興味を持つ人たちを混乱させているのである。

 スタンレーは、このフォトン・バンドは銀河の中心から放射されたものだとするが、それは静的な領域であるという矛盾した観念も示している。シャーリー・ケンプの説の多くを採用して、スタンレーは、フォトン・バンドが太陽系の近くにあり、太陽系が2万6000年の周天円軌道(epicycle)を進行することにより、太陽系がそれを定期的に通過していると述べている。B・H・クロウ(B. H. Clow)は彼女の著書『プレアデス 銀河の夜明け(The Pleiadian Agenda)』で、スタンレーが次のように述べたと引用している。恒星アルシオーネを巡る「2万6000年の銀河軌道上で、わが太陽系は、銀河のこの地帯[フォトン・ゾーン]に1万1000年ごとに入り、それを2000年間通過する」。しかし、太陽系がアルシオーネを巡る2万6000年の軌道上にあるという天文学上の証拠は何もない。銀河系の中心(いて座 A*)を巡る太陽系の軌道は1周約2億年であり、銀河の中心はプレアデスとは反対側のいて座・さそり座の方向にある、という証拠が存在する。
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http://www.etheric.com/LaViolette/Disinformation.html

これは、ラヴィオレットという天文学者がスタンレーを批判している文章です。ラヴィエットの批判をまとめると、

(1)スタンレーはフォトンベルトを、銀河の中心部から発するフォトンの領域としているが、それはラヴィオレットが考え出した「銀河スーパーウェーブ」の概念と似ている。
(2)にもかかわらず、スタンレーの考えには、おかしな観念が多数含まれている。
 ・「銀河スーパーウェーブ」はおうし座の方角から来ると観測されるはずなのに、プレアデスの方向から来るとしている。
 ・「銀河スーパーウェーブ」は元来、水面に広がる波紋のように動的なものであるのに、スタンレーはそれを静的な領域と考えている。
 ・太陽系がアルシオーネの周囲を周天円軌道で回転しているということはない。
(3)このおかしな観念はシャーリー・ケンプに由来するものだろう。

※周天円軌道(epicycle)というのは、プトレマイオスの天動説の説明のために導入された概念です。地球から見ると太陽や月や惑星は実に複雑な運動を示しますが、それを説明するために、それらの天体が天球上で様々な円軌道の組み合わせ=周天円軌道を描いている、と考えられました。ここではこの言葉は、大きな軌道の上で行なっている小さな円運動の軌道という意味で使われています。つまり、太陽は銀河中心に対して円運動をしていると考えられますが、地球はその太陽の周りを円運動しており、そして地球の周りを月が円運動しています。地球や月の運動はそれぞれが周天円運動をしていることになります。パウル・オットー・ヘッセは、太陽がプレアデスのまわりを周天円運動していると考えたわけです。しかし、太陽のこのような周天円運動を可能にするためには、プレアデスが銀河1万倍の質量を持たねばならないことは、先に述べたとおりです。

スタンレーはフォトンベルトを銀河中心部からのフォトンとすることによって、フォトンベルトの観念に混乱を持ち込みました。すなわち、ヘッセとケンプが、フォトンベルトは

(1)アルシオーネから発している

としたのに、スタンレーは、それは

(2)銀河中心部から発している

と考えたのです。そしてこのフォトンベルトはたまたま太陽系の近くにあり、太陽系がアルシオーネの周囲を回転することによって、フォトンベルトに入ったり出たりするというのです。これはヘッセとケンプの説の修正です。

しかもスタンレーは、フォトンベルトは

(3)太陽系の水平軌道に対して90度直角に回転している

と述べています。太陽系はほぼ銀河の水平面上で回転していると考えられますから、フォトンベルトは銀河平面上にあるのではなく、それと垂直に直交していることになります。

この3つの混乱した観念が、渡邊氏をはじめ、現在のフォトンベルト信者には併存しています。

フォトンベルト妄想(5)

2006年06月30日 | フォトンベルト妄想
【0】ヘッセ(といっても、あの有名なヘルマン・ヘッセではありません)はドイツでは長らく忘れられた作家でしたが、英語圏で広がったフォトンベルト妄想のおかげで、ドイツでも再発見されたようです。

ヘッセ(Paul Otto Hesse)は、地球が高エネルギーの場に突入することによって、すべての状態が劇的に変化するというアイデアを思いつき、1959年に『最後の審判の日』(Der juengste Tag)という題の本として出版しました。以下のサイトではヘッセのアイデアが説明されています。

http://www.holoenergetic.com/TX-trafomat.htm

私はヘッセの本は読んでいませんし、読む気も暇もありませんので、このサイトの情報だけでヘッセの説を紹介してみます。多くの読者の皆さんはドイツ語は読めないかもしれませんが、図だけでもご覧下さい。

ヘッセによりますと、太陽系はプレアデス星団の中心星アルシオーネ(Alcyone)という星を中心に2万4千年周期で回転しています。この星からは上下に(左右にと言っても同じですが)光の帯が出ています(図の白い帯です)。ヘッセはこの帯を「マナのリング」(der manasische Ring)と呼びますが、「マナ」というのは、旧約聖書で、エジプトから脱出したユダヤ人が砂漠で食べた、天から降ってきたという神秘的な食べ物です。この名称には、ヘッセの宗教的観念がよく出ています。

リングというので、これは帯ではなく、円盤状のリングだとヘッセはイメージしているようです。アルシオーネから何らかのエネルギーが出るとしても、なぜ球状ではなく、リング状になるのかよくわかりませんが、そういうことを詮索してみてもしかたがないのでしょう。

太陽系はアルシオーネの周囲の回転運動のために、「マナのリング」にかからない「闇の時代」と「マナのリング」に入る「光の時代」を定期的に迎えます。「闇の時代」は1万年続き、「光の時代」は2千年続きます。そのあとまた1万年の「闇の時代」に入ります。「闇の時代」は聖書でいう堕罪の時代です。「光の時代」に入ると、夜はなくなり、すべてのものが高エネルギーによって変容します。想念や感情も死者の霊魂も目で見えるようになります。そして、キリストと一体になった者たちだけが光の中で生きることができます。これが聖書でいう「最後の審判」だとヘッセは言います。そうすると、2千年続くという光の時代は、まさにヨハネ黙示録が語る至福千年王国に対応することになります。

ケンプさんの「物語」がヘッセの焼き直しであることは明白です。

ヘッセが『最後の審判の日』を出版したのは、1959年でした。人類最初の人工衛星は1957年に打ち上げられた、ソ連のスプートニク1号で、翌1958年にアメリカのエクスプローラ1号が打ち上げられました。しかし、初期の人工衛星は、ただ打ち上げたというだけで、高度な観測機器は積んでいませんでした。そんな時代に、「マナのリング」をヘッセがどうやって「発見」できたのでしょう? できるはずはありません。「マナのリング」はそもそも観測されない帯なのです。これはキリスト教の「最後の審判」を宇宙的な出来事として説明しようとする、まったくの思弁的なアイデア以外の何ものでもありませんでした。今ならさしずめ「宇宙存在からのチャネリング」と銘打っていたことでしょうが、ヘッセの時代にはそういう便利な言い方はありませんでした。

1万年+2千年=1万2千年という周期も、おそらくキリスト教から由来するでしょう。というのは、イスラエルの12部族やイエスの12弟子などというように、キリスト教においては12というのは重要な数字であるからです。

※この数字は別の論者たちによってのちに1万1千年+2千年=1万3千年に変更されますが、これについてはあとで説明します。

あと、ヘッセの図で印象的なのは、円周の一番外側にある黄道12宮です。黄道というのは、天球上で太陽が見かけ上1年かけて動く道です。西洋占星術ではここに12の星座を配置しています。

なぜ太陽が黄道を動くように見えるかというと、それは地球が太陽の周りを公転しているからです。地球が動くので、地球からは太陽が動くように見えるわけです。

さて問題は、春分における太陽の黄道上の位置です。これが少しずつ移動するのです。これが今までは魚座にあったのに、最近は水瓶座(アクウェリアス)に入ったと言われています。そこで、現代はアクウェリアスの時代である、などと言われるわけです。「入ったと言われています」という漠然とした言い方をするは、黄道上でどこからどこまでが水瓶座か明確にするのが難しいからです。

春分における太陽の黄道上の位置が変化するのは、地球の歳差運動のためです。地球はちょうどコマの首振り運動のような運動をしており、これを歳差運動といいます。そのため、太陽の見かけの位置が少しずつずれるのです。

ところが、ヘッセの観念(妄想)では、太陽はアルシオーネの周囲を回転しているので、その回転によって、太陽の黄道上の位置が移動するのだそうです。これは地球の歳差運動を、太陽のアルシオーネの周囲への回転にすり替える、まさにトンデモ理論です。そして、ヘッセの「マナのリング」は太陽が魚座(Fische)から水瓶座(Wassermann)に移行する場所にかかっています。まさに「マナのリング」がアクウェリアスの時代を告げるというわけです。

ヘッセの本は、普通ならばトンデモ本として、とっくに人々の記憶から失われていたことでしょう。ところが、それをオーストラリアの女学生が読んで、自分の「物語」にしたて上げ、それに「フォトンベルト」というもっともらしい名称を与えたのです。

【絵文録ことのは】によれば、この女学生の「物語」はその10年後、

【2】1991/02 オーストラリアの神秘系雑紙『Nexus Magazine』に上記「The Photon Belt Story」の内容が掲載される(ここからフォトン・ベルト伝説が広まる)。

ということになりました。この『Nexus Magazine』というのは、日本の『ムー』に相当する雑誌だといいますから、そのレベルがわかろうというものです。

太陽系がアルシオーネの周囲を2万4千年で1周するということは、科学的にまったくありえないことなのです。太陽系とアルシオーネの距離400光年を半径とする円軌道の長さを計算し、それを2万4千年で割ると、太陽は何と秒速3万キロ、光速の10%の速度で運動していることになります。これだけの速度で動くと、地球から見た星座の形が短期間で変形するはずですが、そういうことは起こっていません。

※ちなみに、地球が太陽の周りを回る公転速度は秒速30キロですから、秒速3万キロというのが、いかにべらぼうなスピードであるかがわかるでしょう。

太陽がプレアデスの周囲をこれだけの速度で回転するには、両者の間に強力な重力が働かなければなりません。紐に分銅をつけて振り回しますと、遠心力で紐が引っぱられます。分銅の速度が速くなると、遠心力はそれだけ強くなります。紐が弱いと、切れて、分銅がどこかへ飛んでいってしまいます。プレアデスと太陽の間の紐は重力です。太陽がプレアデスの周囲を光速の10%という超高速で運動するためには、強力な紐=重力が必要です。重力は例のニュートンの方程式で出せますが、それによればプレアデスには銀河1万個くらいの質量がなければなりません。

そんなことはありえません。プレアデスは銀河の中の一星団にすぎないからです。詳しくは:
http://kotonoha.main.jp/2004/09/24infamous-photon-belt.html

フォトンベルト妄想(4)

2006年06月26日 | フォトンベルト妄想
海外でのフォトンベルト妄想の発生の経緯については、Wikipediaでもリンクが貼られている【絵文録ことのは】というサイトが詳しく検証しています。

http://kotonoha.main.jp/2004/09/24photon-belt.html など

このサイトによると、フォトンベルト妄想は以下のように発生したといいます。

【1】1981/08 オーストラリア国際UFO空飛ぶ円盤研究誌(Australian International UFO Flying Saucer Research Magazine)12号に「フォトン・ベルト物語(The Photon Belt Story)」が掲載される。

これはシャーリー・ケンプ(Shirley Kemp)という女子大学生が書いた「物語」であって、ちゃんとした科学的レポートではありません。しかも、掲載紙が「オーストラリア国際UFO空飛ぶ円盤研究誌」というのですから、そのレベルと性格がわかろうというものです。

この「物語」の邦訳:
http://kotonoha.main.jp/2004/09/24photon-belt-story.html

ケンプさんの「物語」を読んでみましょう。

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 1932年、カール・デヴィッド・アンダーソンは反電子を発見し、陽電子と名づけました。1956年、反陽子と反中性子が発見されました。
 反粒子が形成されるとき、通常の粒子の世界に存在するようになりますが、普通の粒子と出会ってぶつかるまで、何分の一秒という時間にすぎません。粒子は消え、2つの粒子の質量の合計がフォトン(光子)という形のエネルギーに変換されます。これは、新しく前例のない強力なエネルギー源となります。フォトンはまさに近い将来、あなたの生き方となろうとしています。
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ここには、渡邊氏の説明に出ていた粒子と反粒子の衝突によるフォトンの生成という観念が見られます。このこと自体は真実です。しかし、前にも書いたように、フォトンは光=電磁波の一種であって、ごくありふれたものです。ですから、「これは、新しく前例のない強力なエネルギー源となります。フォトンはまさに近い将来、あなたの生き方となろうとしています」というのは、まったくのナンセンスです。粒子と反粒子の衝突によるフォトンが、太陽や電灯から出るフォトンと違う、新しい生き方の基礎になる性質を持っている、などという説を唱えている科学者はどこにもいません。

ケンプさんは続けます。

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フォトン・バンドは、1961年、人工衛星に搭載された機器によって外宇宙に発見されました。では、ここから400光年先にあるプレアデス――7姉妹――へと移りましょう。この星団はたくさんの国々の神話になっています。ギリシア神話、オーストラリア神話の「夢の時代」、中国の神話……・。少し天文学者の記述から引用してみましょう……。
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「フォトン・バンドは、1961年、人工衛星に搭載された機器によって外宇宙に発見されました」というのは事実ではありません。写真がありますか? 天文学の専門誌にその記事がありますか? それを事実だと主張なさりたい方は、どこにそういう事実が掲載されているか、その証拠を挙げる必要があります。しかし、探しても見つかるはずはありません。なぜなら、その当時の人工衛星はきわめて幼稚なもので、ハッブル宇宙望遠鏡のような撮影や測定はできなかったからです。

さて奇妙なことに、ケンプさんの話は「外宇宙」からいきなり「プレアデス」へとワープいたします。フォトン・バンドは外宇宙=銀河宇宙の外に発見されたのではないでしょうか? どうしてここで銀河系内の星団であるプレアデスが出てくるのか、まったく理解できません。

しかし、そういう文句を言ってもしかたがないのでしょう。これは科学論文ではなく、「物語」、一種の「おとぎ話」であるからです。真実性などは問題外で、なんとなくそれらしき雰囲気を楽しめばよい文章であるからです。

次にケンプさんは、「少し天文学者の記述から引用してみましょう」と言って、ホセ・コマス・ソラ(Jose Comas Sola)、フリードリヒ・ヴィルヘルム・ベッセル(Friedrich Wilhelm Bessel)、アイザック・アシモフ、エドムンド・ハレーという実在の天文学者の名前をあげますが、いずれも古い人物で、フォトンベルト問題とは何の関係もありません。ただプレアデスについて何事かを語っている、というだけです。こういう名前を出すことによって、物語に一定の学問的雰囲気を与える、という効果をねらったものと思われます。

※これらのわりあいレアな名前(とくに前2者)がケンプさんの科学史の勉強によるものであるならば、その勉強ぶりをほめてあげてもいいと思いますが、私はこれは、次に出てくるヘッセの本の受け売りではないかと見ています。

ただし、これまでは「物語」の枕です。ケンプさんが言いたいのは次の段からです。

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ポール・オットー・ヘッセ(Paul Otto Hesse)も太陽が含まれるこの星系〔=プレアデス星団〕について特別な研究をおこない、太陽の軌道とちょうど直角に「フォトン・ベルト」あるいは「マナシック・リング」があることを発見しました。これは、科学者たちが研究室の実験では再現できていない現象です。
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ここでついに、主要テーマである「フォトン・ベルト」が出てきましたが、ケンプさんは、自分の文章に含まれる矛盾にさえ気づかない、相当にできの悪い学生さんであったようです。「科学者たちが研究室の実験では再現できない」現象を、ヘッセがどうやって発見できたのでしょうか? 「発見」というからには、写真とか電波とか何かのデータが必要なはずです。そんなデータがあるはずはありません。あれば、ほかの天文学者が再検証しているはずですが、そういう話は聞いたことがありません。

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 太陽がこの星系の軌道を一周するには2万4000年かかります。図に示したように、それはいくつかの部分に分かれています。1万年の闇の時代は、わたしたしたちが今いる昼と夜の時代です。それから2000年の光の時代、それからまた1万年の闇と2000年の光の時代となります。

 わたしたちは今、このフォトン・ベルトに入ろうとしているのです。それは避けられない……今から今世紀の終わりまで――しかしそれは避けられないのです! 一周回ってきて、最初に戻ったのです。これは聖書、あらゆる神話の本、ノストラダムス、現代の科学者によって記されています。

 地球が最初にフォトン・ベルトにはいったら、空は炎のように見えますが、確かなことは、これは冷たい光であり、そのために熱がありません。太陽が最初に入ったら、ただちに闇が訪れるでしょう。それは宇宙を進むスピードから計算して、110時間続きます。太陽放射とフォトンベルトの相互作用で、空は流星だらけのように見えるでしょう。地球がこの放射ベルトに入るとすぐ、すべての分子は励起し、すべての原子は変化し、物質は発光性となるでしょう。絶えず光があるのです。最も奥深い洞窟にも、人間の体の中にも、闇はなくなります。聖書をご覧なさい……「すべての星は空から落ち、空はもうない……」

・・・・・

 この宇宙には3種類の人たちがいます……わたしたちのように物質的な存在(corporeal)の固体の人類……気体状の存在(atmospherean)は部分的には固体ですが、分子構造はまるで異なっている……・エーテル的存在(etherean)はもはや物質を有していません。地球がフォトン・ベルトに入ったとき、通常の健康な人は自分の指を電気の通じたソケットに突っ込んだかのような衝撃を感じ、変成が完了します……あなたは物質的な人間から気体状の人間となったのです……(「そして汝は瞬く間に死から切り離された不死者へと変わるであろう」

 神学者は聖書の文字の中に深い意味を込めて書いてきました。彼らはこの光の時代に生きていたに違いありません。空と大気は違っており、決して雨は降りませんでした……ノストラダムスは4行詩の中で、わたしたちの知っている世界が1999年に終わると書いています……「もはや雨が降ることはないが、40年間、それが普通になる」

 アボリジニー神話ではこう言われています……「人は今とはまるで違っていた……星々への架け橋があった……」 その神話では、長老や年長者と争ったならば、空に逃げました。ギリシア人もそうでした。宇宙旅行は、フォトン・ベルトの中では簡単なように思われます。
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ここには、プレアデス、1万年の闇の時代と2000年の光の時代、フォトンベルトへの突入による地球の大変化と人類の変容など、のちのフォトンベルト妄想のすべての種が出そろっています。

この「物語」を読んでみると、著者のケンプさんが、うろ覚えの科学的知識を適当につなぎ合わせて、一種の終末幻想を語っていることがよくわかります。そしてよく注意していただきたいのですが、ケンプさんはこの終末幻想を1999年、つまり例のノストラダムスの予言と結びつけています。ケンプさんは、フォトンベルトへの突入が1999年と関係しているとほのめかしているように思われます。それは、この「物語」が書かれたのが、1981年、つまり1999年以前であることに起因しているでしょう。

しかし、ご存知のように、1999年には「恐怖の大王」が空から降ってくるどころか、大きな異変は何も起こりませんでした。五島勉氏をはじめとする終末論者の期待もむなしく、1999年は空振りに終わってしまいました。

そこで、今日のフォトンベルト妄想は、終末を1999年ではなく、2012年に移していますが、これについてはあとで述べます。

ところが、この終末幻想は、ケンプさん独自の創作ではなく、パウル・オットー・ヘッセというドイツ人の説の焼き直しなのでした。

つまり【1】の前に【0】があるのです。それがヘッセなのです。


フォトンベルト妄想(3)

2006年06月25日 | フォトンベルト妄想
渡邊氏はさらにこう述べています。

「1991年、アメリカの天文学者ロバート・スタンレー博士は人工衛星の観測データから、プレアデス星団付近にあるフォトン・ベルトの存在を科学的に突き止めている。」

渡邊氏は先に、「1996年宇宙空間に浮かぶハップル宇宙望遠鏡は、宇宙の遥かかなたに存在する<フォトン・ベルト>の撮影に成功した」と書いていました。ところが、それ以前の1991年に「アメリカの天文学者ロバート・スタンレー博士」が「プレアデス星団付近にあるフォトン・ベルトの存在を科学的に突き止めて」いたのだそうです。

変ではありませんか?

1991年にフォトンベルトの存在が科学的に突き止められていたのであれば、その時にその科学的証拠があがっていたはずです。ところが、その証拠が1996年(1999年?)の写真だというのであれば、つじつまが合いません。

渡邊氏の文を善意に解釈すれば、これは「ロバート・スタンレー博士はフォトン・ベルトの仮説を出した」ということなのでしょう。

ところが、それにしてもやっぱり変です。なぜなら、証拠写真の極リングは銀河規模で存在します。ところが、スタンレーの説はフォトンベルトはプレアデス星団付近にあるというのです。

プレアデス星団というのは、日本では「すばる」と呼ばれる星の集まりです。谷村新司の名曲「昴(すばる)」をひくまでもなく、その明るさの故に、古来より日本でも非常に有名な星です。

Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%97%E3%83%AC%E3%82%A2%E3%83%87%E3%82%B9%E6%98%9F%E5%9B%A3

プレアデス星団は、地球から約400光年という、宇宙的規模では比較的近いところにある星団で、もちろんわが銀河系の内部の星団です。そんな小さな星団の周囲にできるフォトンベルトは、銀河NGC 4650Aの周囲に観測された円盤とはまったく違う性質のものに違いありません。

上記Wikipediaの写真を見てみると、星々の周囲に青い霞のようなものが見えますが、これは「星々とは元々関係のない星間ガスが、星団の光を反射しているため」です。星の周囲にガスが広がっているケースは非常に多くありますが、それは決していわゆるフォトンベルトではありません。

前にも述べたように、星や銀河の周囲に何かが光っていたとするならば、それはガスやチリです。フォトンそのものが星の周囲に浮かぶなどいうことはありえません。

しかもプレアデス星団は非常に有名ですから、その周囲に浮かぶ星間ガスの存在は、1991年以前から知られていました。それをロバート・スタンレー博士がフォトンベルトだと言うのであれば、この博士は相当なトンデモ博士です。博士号を持っている人の中にもおかしな人はたくさんいます。

ここでもう一度Wikipediaの「フォトンベルト」を参照下さい。

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・太陽系はプレアデス星団のアルシオーネを中心として約26,000年周期で回っている。地球はまもなくフォトンベルトに突入し、2000年間続く。
・フォトンベルトは銀河系に垂直に分布しており、NASAが観測に成功している。地球は約26,000年周期で銀河の中を進行しており、まもなくフォトンベルトに突入する。
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フォトンベルトには少なくとも2つの説があるのです。1つはプレアデス星団と関連づける説、もう一つは「銀河系に垂直に分布している」という説。後者の説が、NGC 4650Aの印象的な写真をもとにして作られていることは明白です。しかし、この二つは両立しません。そのスケールがあまりにも違うからです。

しかも渡邊氏はロバート・スタンレー博士の次の言葉を引用しています。

 “この濃密なフォトンは、われわれの銀河の中心から放射されている。わが太陽系は、1万1千年ごとに銀河系のこの部分に進入し、それから2000年かけて通過し、そして2万6千年の銀河の軌道を完結させる”

これによると、「フォトンは、われわれの銀河の中心から放射されている」のだそうです。そうすると、このフォトンベルトは、

(1)プレアデス星団とは直接関係はない
(2)フォトンベルトはわれわれの銀河(それはアンドロメダ星雲のように円盤状であることがわかっています)の水平面に位置しているのであって、垂直に直交しているのではない。

ということになります。

渡邊氏の叙述には、フォトンベルトについて3つの観念がごちゃ混ぜに出ています。しかし実は、これは渡邊氏の混乱であるばかりではなく、フォトンベルト説が生まれた海外の混乱がそのまま反映しているのです。



フォトンベルト妄想(2)

2006年06月24日 | フォトンベルト妄想
これだけでも、渡邊氏がいかに「トンデモ」であるかがおわかりのことと思いますが、フォトンベルト信者のために、渡邊氏のデタラメぶりを以下で詳しく説明いたしましょう。

まずNASAや国立天文台は、フォトンベルトなるものは存在しない、と明言しています。しかし、フォトンベルト信者は、そういう公的組織は情報を隠蔽しているのだ、と主張します。これは、アメリカ政府がUFOや宇宙人についての情報を持っているのにそれを隠蔽している、というのと同じ性質の議論です。隠蔽しているという主張は、そう主張している側が、その証拠を明らかにする必要があります。しかし、隠蔽されているものは調べようがないので、結局、言いっぱなしになります。隠蔽している、という議論は、論理的には反証できない議論で、そうかもしれないし、そうでないかもしれない、としか言いようがありません。しかし、トンデモ論者が自分に都合の悪い時は隠蔽説に持っていく傾向があることは、わきまえておいたほうがよいでしょう。

ここでは、隠蔽説にされがちなNASAや国立天文台の発表によらず、世間に流布しているフォトンベルト論の真偽を検証していくことにします。

渡邊氏はこう述べています。

「1996年宇宙空間に浮かぶハップル宇宙望遠鏡は、宇宙の遥かかなたに存在する<フォトン・ベルト>の撮影に成功した」

これは本当でしょうか?

まず細かなことを言いますと、「ハップル宇宙望遠鏡」ではなく、「ハッブル」です。渡邊氏は有名なハッブルの名も知らない方のようですね。そのハッブル宇宙望遠鏡のサイトはここです。

http://hubblesite.org/

ここで「photon belt」で検索(search)してみてください。該当情報はありません。つまり、ハッブルはフォトンベルトなるものを撮影していないのです。

渡邊氏のいう「宇宙の遥かかなたに存在する<フォトン・ベルト>」とは、どうやらこの写真のことを言っているようです。

http://www.geocities.com/lightworkers2012/j.html

この写真では、たしかに銀河を円盤状の光が垂直の方向に取り巻いているように見えます。これはNGC 4650Aという銀河です。ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した写真の中でも最も有名なものの一つで、ハッブルはこれを全然隠してなどいません。

この銀河は上記ハッブルのサイトでも紹介されています。ただし、この写真が撮影されたのは、1996年ではなく、1999年です。

http://hubblesite.org/newscenter/newsdesk/archive/releases/1999/16/image/a

その説明を邦訳してみましょう。

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約1億3千万光年のかなたにあるNGC 4650Aは、わずか100しか知られていない極リング銀河の一つです。その珍しい円盤状の構造はまだ十分に解明されていません。一つの可能性は、極リングは、はるかな過去に起こった二つの銀河の大規模な衝突の残滓であるということです。それは少なくとも10億年前のことでしょう。一つの銀河の残りは、中心部の古い赤い星々からなる内側の回転する円盤になりました。他方、あまりに近づきすぎたもう一つの小さいほうの銀河は、ひどいダメージを受けたか破壊されました。衝突中に、小さいほうの銀河から出たガスは、はぎ取られ、大きいほうの銀河に捕まり、チリ、ガス、星からなる新しいリングを形成したのでしょう。それは、内側の銀河の周囲を古い円盤に対してほぼ垂直の角度で回っているのです。

Located about 130 million light-years away, NGC 4650A is one of only 100 known polar-ring galaxies. Their unusual disk-ring structure is not yet understood fully. One possibility is that polar rings are the remnants of colossal collisions between two galaxies sometime in the distant past, probably at least 1 billion years ago. What is left of one galaxy has become the rotating inner disk of old red stars in the center. Meanwhile, another smaller galaxy which ventured too close was probably severely damaged or destroyed. During the collision the gas from the smaller galaxy would have been stripped off and captured by the larger galaxy, forming a new ring of dust, gas, and stars, which orbit around the inner galaxy almost at right angles to the old disk.
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ここからわかることは、

(1)このような「極リング」を持つ銀河は非常に珍しい
(2)極リングは「チリ、ガス、星」から構成されている

ということです。

太陽系が属するわれわれの銀河がこのような極リングを持っているかどうかわかりませんが、おそらくその可能性はないと思われます。なぜなら、そういうリングがあれば、ちょうど銀河中心部が天の川として見えるように、地球の夜空にそれが観測できるはずだからです。

たとえ私たちの銀河がそのような極リングを持っていたとしても、それは「チリ、ガス、星」であって、フォトンベルトなどではありません。

そもそもNGC 4650Aに極リングが見えるということは、光子が何かにぶつかって、地球にまで届いていることを示しています。光子が光子のままドーナツ状にぷかぷか浮かんでいるなどということはありえません。円盤状の「チリ、ガス、星」があるからこそ、それが光って見えるのです。

なお、写真の赤い小さい部分が本来の銀河であり、細長い部分が極リングです。しかし、フォトンベルト信者たちのサイトでは、写真を90度回転させ、細長い部分を銀河に、赤い部分をフォトンベルトに見せかけているように思われます。


フォトンベルト妄想(1)

2006年06月23日 | フォトンベルト妄想
いまニューエイジ系の人々の中で、「フォトンベルト」なる言葉がはやっているようです。

「フォトンベルト」とは文字通りフォトン=光子のベルトのことです。フォトンベルトについては、インターネット上の無料百科事典のWikipediaが簡潔に説明しています。この言葉を知っている方も知らない方も、一度お読み下さい。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%88%E3%83%B3%E3%83%99%E3%83%AB%E3%83%88

海外ではフォトンベルトについては1981年から語られるようになったのですが、日本でこの言葉を広めたのは、『フォトン・ベルトの謎』(2002年5月・三五館発行)の著者、渡邊延朗氏でしょう。

※渡邊氏はエハン・デラヴィ氏からこの情報を入手したものと思われます。

渡邊氏はホームページでこう述べています。

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 1996年宇宙空間に浮かぶハップル宇宙望遠鏡は、宇宙の遥かかなたに存在する<フォトン・ベルト>の撮影に成功した。
 このフォトン・ベルトは光エネルギーに満ちており、そこを通過するのに2000年という気が遠くなる時間を要する。確かなことはその領域は人類にとって全くの未知の空間だという事である。
 1991年、アメリカの天文学者ロバート・スタンレー博士は人工衛星の観測データから、プレアデス星団付近にあるフォトン・ベルトの存在を科学的に突き止めている。博士は報告書に次のようにしたためた。

 “この濃密なフォトンは、われわれの銀河の中心から放射されている。わが太陽系は、1万1千年ごとに銀河系のこの部分に進入し、それから2000年かけて通過し、そして2万6千年の銀河の軌道を完結させる”と。

フォトンとは光エネルギーのことで日本語には「光子」と訳されている。
フォトンは太陽からも発生している。物理学的に解説すると、いわゆる光は光の粒々としては光子(フォトン)であり、波としては電磁波と呼ばれる。
そして、この光子が電磁気的な力を媒介しており、そういう力の働いているところが<電磁場>と呼ばれている。

フォトンとは、反電子(陽電子)と電子との衝突の結果生ずるもので、二つの粒子は、この一瞬の衝突によって互いに破壊し合い、この衝突の結果生じるものが、フォトンとか光の粒子とか呼ばれるエネルギーに完全に変換される。  
それは素粒子の物理的崩壊によって得られる光以上のものとされ、多次元の振動数を持つ次元間エネルギーであるとされる。

さらにフォトンはきわめて高次元の電磁波エネルギーであり、そのエネルギーは全ての生命体を原子レベルから変成させ、遺伝子レベルの変容も行い進化させるといわれる程である。 しかも寿命は無限大とされる。

 最近、太陽活動に大きな異変がみられ、極めて憂慮すべき事態にあるのだと報告されている。
 1999年イギリスのラザフォード・アップルトン研究所のグループは、“太陽の磁場に異変がみられる”と発表した。研究グループの発表では、太陽の磁場が過去100年間でなんと2倍以上になっていることが分かったというのである。太陽の磁場の長期的な変化が分かったのはこの時が初めてだった。
 さらに過去100年間で0.5度気温が上昇した地球温暖化の原因との関係も、原因は太陽磁場の変化にあると研究チームのリーダーであるM.ロックウッド博士らはみているとも重ねて見解が発表された。

 このようにいま地球的規模、いやそれ以上に宇宙的規模で大異変が起こり始めている。
たとえばいま国際的に大問題となっている地球温暖化現象も、実は原因はCo2ではなく、このフォトン・ベルトによる影響と考えられる。
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http://www.net-g.com/photon/reset0.html

一読して、渡邊氏が科学についてはまったく無知であることがよくわかります。

「フォトンとは、反電子(陽電子)と電子との衝突の結果生ずるもので、二つの粒子は、この一瞬の衝突によって互いに破壊し合い、この衝突の結果生じるものが、フォトンとか光の粒子とか呼ばれるエネルギーに完全に変換される。  
それは素粒子の物理的崩壊によって得られる光以上のものとされ、多次元の振動数を持つ次元間エネルギーであるとされる。」

皆さんが今ご覧になっているコンピュータのモニターからはフォトンが放射され、それを目がキャッチして、この文字を読んでいます。しかし、このフォトンは「反電子(陽電子)と電子との衝突の結果生じたもの」ではありません。フォトンは「反電子(陽電子)と電子との衝突」からも生じますが、それが唯一ではありません。電球や蛍光灯からもフォトンは生じます。フォトンなどというから何か特別なものだと錯覚しますが、要するに光です。

光は電磁波の一種です。電磁波のうち、目に見える範囲の波長のものを光というのです。光には粒子としての性質と波動としての性質の両面があると言われています。

「素粒子の物理的崩壊によって得られる光以上のもの」とは何でしょうか? 原子が崩壊するときにはα線、β線、γ線という3種類の放射線が放射されます。α線の正体はヘリウム原子核、β線は電子、γ線は電磁波=光子、すなわちフォトンです。γ線は可視光よりも波長の短い電磁波です。「光以上のもの」とは、α線かβ線のことでしょうか? そうではなさそうです。

また、陽子や中性子などの素粒子の崩壊の際には、光子以外に、中間子(湯川秀樹博士は中間子を理論的に予言してノーベル物理学賞を受賞なさいました)やニュートリノ(東京大学名誉教授の小柴先生はニュートリノの研究でノーベル物理学賞を受賞なさいました)などが放出されます。「素粒子の物理的崩壊によって得られる光以上のもの」とは中間子やニュートリノのことをいうのでしょうか? いいえ、どうもそうでもないようです。

※細かいことを言うと、ベータ崩壊の際にニュートリノも放出されます。

渡邊氏が言うフォトンとは、「多次元の振動数を持つ次元間エネルギー」なのだそうです。しかし、そういうものは現在の物理学では検出されていません。検出できないものは観測もできません。

観測できないものがどうして、「宇宙の遥かかなたに撮影」できるのでしょうか? 撮影できたのであれば、それは通常のフォトン、つまり光以外のものではありません。

それとも、すべてのフォトンは「多次元の振動数を持つ次元間エネルギー」だと言いたいのでしょうか? すると、私たちはわざわざフォトンベルトなどに入らなくても、毎日、太陽や電灯から「多次元の振動数を持つ次元間エネルギー」を浴びていることになります。