平和エッセイ

スピリチュアルな視点から平和について考える

宗教の正邪を見分ける法

2005年09月23日 | 最近読んだ本や雑誌から
小林一久著『ラブラブ思考で世界は変わる』(鳥影社)より

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〔宗教教育では〕現在信仰している宗教は正しいという前提をすてて虚心坦懐に平等に世界の各宗教を検証して教えるべきである。宗教の正邪を見分ける基本は、それが「人類全ての幸せを願ったものか」、「自分の教団や自民族のみの利益を願ったものか」で区別できる。難しい理屈や聖典があればいいというものではない。・・・

 繰り返すが宗教の正邪を判定する基準はただ一つしかない。「人類全てを幸せにするものかどうか」である。一部の民族や地域の人たちを幸せにするものであってはならない。それではそれから外れた民族や地域の人たちは当然反発するし、攻撃するかもしれない。またその宗教を信ずる者だけが選ばれた者だというのも間違った宗教である。それが信じられない者にはどう対処するのだ。信じられない人は神に背くものとして攻撃してもよいことになったり、不幸になってもかまわないと思ったりすることになる。

 正しい宗教は、まず信じた者を幸せにし、まわりの人も幸せにして、世界人類全てを幸せにして世界平和を目指すものでなければならない。今は世界の一人一人が、どれが本当の宗教なのかキチンと見極める目を持つことが絶対必要なのだ。
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きわめて健全な考えですね。
著者は山梨県在住のお医者様です。

温暖化の影響

2005年09月22日 | Weblog
アメリカ南部にまた次のハリケーン「リタ」が近づいているということです。強力なハリケーンや台風の発生は、やはり地球温暖化と無関係ではないようです。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050920-00000024-kyodo-soci
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台風発生減るが勢力強大に 気象研などが解明

 地球温暖化の進行が台風や集中豪雨の強さと発生頻度に影響を与える詳しいメカニズムが、気象庁気象研究所や国立環境研究所のスーパーコンピューターなどによる解析で20日、明らかになった。
 大気中に含まれる湿気が増えて、ひとたび台風や雨雲が発達すると今以上に勢力が強まり、台風14号や米南部を襲った「カトリーナ」のように大きな被害が頻発する恐れがある。
 一方で、大気の安定度が高まって台風の発生個数そのものは減少。亜熱帯の一部では、季節によって豪雨と渇水に交互に見舞われることも予想されるという。
 研究者は「温暖化に伴う地域ごとの気候変化を見越したきめの細かい防災対策が必要だ」と指摘している。
 気象研気候研究部の吉村純・主任研究官は高性能スパコン「地球シミュレーター」を使い、温暖化が進んだ100年後に台風などの熱帯低気圧がどう変化するか調べた。
(共同通信) - 9月20日9時35分更新
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民主党はどういう政党?

2005年09月17日 | Weblog
9月16日の毎日新聞で、千葉大学教授の広井良典教授(社会保障論、科学哲学)は、政治理念を保守主義、自由主義、社会民主主義の三つに分け、今回の選挙によって、自民党が保守主義から自由主義に変化した、と述べています。

これは、自民党の変質を見る私の見解と同じです。

ただし、今回の自民党の勝利は、利権誘導の保守主義と、古い利権構造の解体を望む自由主義的な無党派層の重なり合いによって起こったのです。自民党は完全に変化したのではありません。

「津波が来ている時は、高台に逃げておとなしくしているしかない。小泉首相の任期が終われば、必ず揺り戻しがあり、元の自民党に戻る」という本音を、ある建設族議員は述べています(毎日新聞9月15日)。

これでは困ります。小泉さんには、こういう古い利権体質を徹底的に「ぶっ壊し」てもらわなければなりません。小泉さんは自分を織田信長に擬しているということですが、信長の役割は破壊でした。小泉さんの破壊はいまだ道半ばです。

さて、民主党。民主党はいま絶好のチャンスを迎えています。なぜなら、これだけ大勝利した自民党にはブレーキをかけようという意識が、選挙民に働くからです。次の選挙では、自民党が議席減、民主党が議席増になるに違いありません。

しかし、民主党というのはどういう政党なのでしょうか。いっこうにイメージが湧きません。小沢さん(旧自民党)と横路さん(旧社会党)が、同じ政党にいること自体がおかしいのです。反自民というだけで一緒になっているようにしか見えません。

今回、小泉さんによって郵政民営化が実現されたことは、民主党にとっては非常にありがたいことでした。労組を支持基盤とする民主党は、官公労の不利益になる郵政民営化を言い出すことができなかったのです。そのため、郵政議論では民主党は曖昧な態度に終始し、その点を小泉さんに見透かされて、選挙で負けてしまいました。

しかし、小泉さんのおかげで、巨大官公労は消滅します。民主党は今後、労組の利益代表となるのではなく、国民全体の利益を追求することができるはずです。

広井教授の分類でいえば、民主党は社会民主主義に定位すべきでしょう。社会民主主義といっても、日本の社民党や共産党のような、マルクス主義の尻尾を引きずっている社会主義ではなく、ドイツのSPDのような社会民主主義です。それによって、国民には保守主義・自由主義の自民党に代わる選択肢が与えられます。民主党が、そういう理念を明確に打ち出し、ふさわしいリーダーを持ったとき、日本でも真の政権交代が可能となるでしょう。

戦後60年間、短い一時期を除き、一つの政党が政権を取り続けてきたということが異常で、それでは当然様々な腐敗が生まれます。政権交代が起こらなかったということは、野党の責任でもあります。


民意の尊重?

2005年09月14日 | Weblog
参議院で郵政法案に反対した議員が、続々と賛成に転じています。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050913-00000109-mai-pol
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<郵政法案>中曽根元文相、賛成表明 派内11人賛成転じる

 郵政民営化法案に反対票を投じた自民党の参院旧亀井派会長の中曽根弘文元文相は13日、東京都内の派閥事務所で記者会見し、特別国会に再提出される同法案に賛成する意向を表明した。同派では、中曽根氏を含む12人が通常国会で反対に回ったが、離党した荒井広幸氏を除く11人が賛成に転じることも明らかにした。

 中曽根氏は賛成に転じる理由について「衆院選での国民の明確な意思を重く受け止める」と説明。ただ、与党は衆院選で定数の3分の2を上回る議席を獲得しており、中曽根氏の動向にかかわらず法案成立は確定している。参院では鴻池祥肇元防災担当相も賛成に転じる意思を既に表明しており、中曽根氏の態度変更で参院での可決が一層確実になった。

 中曽根氏は、通常国会での法案否決の流れを作った中心者。小泉純一郎首相は13日、同氏の賛成転換について「いいと思う。民意を尊重するということだと思う」と記者団に語った。【谷川貴史】
(毎日新聞) - 9月13日23時32分更新
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「衆院選で民意が示されたので、民意を尊重する」というのでは、政治家としての見識が疑われます。

民意がいつも正しいわけではありません。民意が戦争を望めば、戦争に賛成するのでしょうか?

造反議員は、郵政法案には問題があると考えたからこそ、反対したのでしょう。この法案が日本にとってマイナスであると信じるならば、日本を救うために、断固としてその問題点を明らかにして国民に訴えつづけるべきです。その結果、自民党を除名されても、次の選挙で落選しても、誰が正しかったかは歴史が審判します。

それとも、反対した自分の考えが誤りだったと気づいたのでしょうか? それならば、自分の不明を国民にはっきりと謝罪すべきです。

法案の問題点が解決されていないのに、数日でコロッと態度を変えるというのでは、「寄らば大樹の陰」以外の何ものでもないということです。

こういう政治家は、政治家に値しません。ただの「数」です。

小泉自民党の中に、小泉さんの過ちをきちんと指摘し、間違った政策に反対できる気骨のある政治家はいるのでしょうか? 全員「寄らば大樹の陰」ならば、小泉さんはまさに独裁者と化します。


自民あっての建設業界

2005年09月13日 | Weblog
9月10日の【自民党の変質】について書いたことを、少し補足します。

今回の自民党の大勝の原因の一つは、自民党の支持基盤である「地方の中小企業(とくに土建業)」が、小泉自民党の「変質」をよくわかっていなかった、ということにあります。

以下は、福岡10区(小倉)で、郵政法案に反対した、もと郵政大臣の自見庄三郎氏が落選した記事です。

http://mytown.asahi.com/fukuoka/news01.asp?kiji=8815
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 「郵政大臣経験者として、国民のため国家のためになる真の郵政改革を唱えたが議席をとれず、心からおわびします」。自見氏は声を詰まらせ、支持者に深く頭を下げた。

 「小倉生まれの小倉育ち。北九州市民党。裸のショーちゃんを助けて下さい」。地元住民の情に訴えた。台風14号の中、傘もささずに交差点で手を振り続けた。「死に装束。決死の覚悟」という意味を込めた白いスーツはびしょぬれだった。

 だが、足もとの崩れは止まらなかった。前回、自見氏を推した市建設業協会は公示直前、「自民あっての建設業界」と、西川氏を推薦。地元商工会議所の幹部は「応援したのは自民の自見だったから。無所属なら『まあ頑張って』としか言いようがない」。

 選挙戦中盤、公明の支援を得ようと「比例は公明」と陣営は訴え始めたが、それも裏目に出た。公明に批判的だった自見氏を支えてきた宗教団体は「もう自主投票にさせてもらう」と言うと、事務所の電話ブースから引き揚げた。
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「自民あっての建設業界」「応援したのは自民の自見だったから」という言葉がすべてを語っています。地方土建業界は、相変わらず自民党に公共事業を期待しているわけです。そこには、郵政改革は是か非か、という議論さえありません。

地方にとっては、あいかわらず公共事業が命綱です。地方にとって「改革」とは、公共事業によって景気がよくなることです。公共事業を持ってきてくれるのは自民党です。自民党に抵抗したら、仕事をもらえません。

ですから、自民党という看板さえ背負っていれば、地元出身でない、どこから来たかわからない刺客でも落下傘候補でも支持するのです。その議員が自民党から離れれば、それまで地元にどれほど利益誘導してきた候補でも、あっさりと見捨てるわけです。

見事なまでの実利主義です。

最初は郵政改革反対の造反議員を支持していた地方の自民党県連も、時間がたつにつれ、どんどん自民党本部公認の落下傘候補に乗り換えていきました。まさに寄らば大樹の陰、「自民あっての建設業界」です。

小泉さんは、「自民党公認」という看板がどれほどありがたいかということ、したがって、自分に反対した議員を自民党から除名することが、即、彼らの政治生命の抹殺につながることを、見抜いていました。

郵政造反議員の中でも、新党に入らず、無所属で立候補し、当選したら自民党に戻りたい、という議員が大勢いたのも、「寄らば大樹の陰」を知っているからです。

しかし、「自民あっての建設業界」のための公共事業の積み重ねが、膨大な財政赤字を累積させてきたのです。小泉「改革」が目指しているのは、まさにそうした地元利益誘導型の政治の改革のはずです。

今回の自民大勝は、「改革」に期待をかけた都市無党派層と、「改革」が実は公共事業をやめ、地元利益の切り捨てになるということがまだよくわかっていない古い自民党支持層の重なり合いで生じたものと思われます。

もし小泉さんが本気で「改革」するつもりであるのならば、「自民あっての建設業界」を断固として切り捨てなければなりません。そして、郵政改革に反対した議員の復党は絶対に認めないことです。

有象無象が集まる296名という大所帯をまとめるためには、そのような断固とした姿勢を見せる必要があります。

そしてさらに、郵便局員という労働者から公務員の身分を剥奪する以上、高級官僚たちの特権構造を解体しなければなりません。

それができるかどうかで、小泉「改革」の真価が問われます。それができれば、小泉「改革」は、よりよい日本をつくるために、どうしても通らなければならないプロセスとして肯定されるでしょう。


選挙のあとに考えたこと

2005年09月12日 | Weblog
総選挙ではやはり自民党が大勝しました。

小泉さんのメディア戦略は見事なものでした。選挙にかけては、まさに天才的な才能の持ち主です。

政治・経済・外交・社会のあらゆる面で閉塞感を感じている国民は、「改革」という言葉に期待をかけたのだと思います。その小泉「改革」が日本をどのような方向に導いていくかは、これからの4年間ではっきりするでしょう。それがよりよい日本をつくり出せば日本にとっては幸福なことです。

悲観的すぎるかもしれませんが、私は、政官財の利権トライアングルが今後も存続し、抜本的な改革は難しく、すべてが中途半端に終わる可能性が高いと見ています。そのトライアングル構造を破るためには、小泉さんは、官僚に代わる政策ブレインをそろえ、それこそ「殺されてもかまわない」という蛮勇をふるうしかありません。

小泉さんはもう3年も「改革」をやってきているのです。あと4年たっても日本の状況が目に見えて改善しなければ、次は自民党の地滑り的な敗北になるかもしれません。それが小選挙区制という選挙制度です。

陽きわまれば陰となる、です。

ただし、その時に、自民党に代われるだけの政党があればの話です。様々なイデオロギーの寄せ集めである今の民主党では明らかに力不足です。

小泉さんは、「郵政改革、賛成か反対か、国民に直接聞いてみたい」と言っていました。ということは、選挙結果は郵政改革への国民の意思表示ということになりますが、結果的には911選挙は小泉さんに独裁的な力を与えました。911同時多発テロがブッシュ大統領に独裁的な権力を与えたのと似ています。

郵政改革以外に、小泉さんが自分に与えられた力をどのような方向に使うのか、まだはっきりしません。自民党がこれだけ大勝したので、当然、憲法改変の動きが加速するでしょう。私は、9条に示される現在の平和主義は変えるべきではない、と考えていますが、小泉さんがどういう方向に進むのか、注視したいと思っています。

五井先生は、平和憲法は、世界平和の中心国としての日本の天命を果たすために、神から与えられた憲法である、と明言しています。

911選挙の前に考えたこと

2005年09月10日 | Weblog
911の投票日も近づいてきました。最近の新聞の世論調査では、「改革」を掲げた小泉自民党が圧勝するとの予測です。

「ハリケーン・カトリーナの影響」は、もう少し書きたいことがあるのですが、まず今回の選挙について、考えるところを書いておきます。

今回の選挙の中心はいわゆる郵政改革問題とされています。年金問題、財政赤字、自衛隊のイラク派兵問題、憲法改正問題、少子高齢化問題、自殺者の急増、中韓などとの外交問題、拉致問題など、山ほど重要な問題がある中で、郵政問題だけが突出しています。

これは、8月15日に靖国神社に参拝する、という公約を破って(※)、靖国参拝をとりやめ、選挙を「郵政改革、賛成か、反対か」にポイントを絞った(※※)、小泉さんの作戦勝ちであり、また、それに乗せられたマスコミの非力さの証明でもあります(※※※)。

※小泉さんは、選挙で負ければ退陣する、と言っているのですから、首相として靖国神社に確実に参拝できるのは、今年しかなかったわけです。結果として、来年も首相を続けたとしても、それは最初に首相になったときの公約とは別物です。小泉さんが8月15日に靖国参拝をしていたら、この問題が大きくクローズアップされて、郵政問題がかすんでいたでしょう。小泉さんは「殺されても郵政改革をやる」気はあっても、「殺されても靖国参拝をする」気はなかったわけです。票にならなければ、公約をあっさり忘れることができるのが小泉さんです。

※※ここには、「テロとの戦いに賛成か、反対か」の二者択一で問題を単純化するブッシュ氏との類似性が認められます。

※※※「マスコミの非力さ」と書きましたが、あるいは、例の「刺客、マドンナ」騒動を面白おかしく報道することに見られるように、マスコミははじめから小泉さんに肩入れしているのではないかとさえ思えます。そのことは、小泉さんの選挙区から立候補した「逆刺客」、自衛隊のイラク派兵に反対してレバノン大使をやめた天木直人さんについて、マスコミがいっさい報道しなかったことに現われています。
 また、小泉さんが「国債発行を30兆円以下にする」という公約を毎年破っても、それをまったく問題視しないマスコミは、小泉支持なのでしょう。

【郵貯の問題点】
郵政「改革」の問題点は、すでに多くの識者が指摘しております。問題は、郵便事業を民間にまかせるということではありません。そのことだけなら、過疎地でのネットワークが公的な形で維持されれば、国民の多くは賛成するでしょう。ですから、小泉さんもそのことだけしか言わないのです。

しかし、郵政「改革」の本当の問題点は、350兆円という、郵貯の資金をどうするか、という問題です。ここでは、西尾幹二氏の批判を紹介しておきます。
http://nitiroku-nishio.jp/blog/

私は西尾氏の政治的見解にすべて賛同するものではありませんが、郵政民営化によって、日本の金融資産がアメリカ金融資本の食い物にされる危険性がある、という氏の指摘は重大だと思います。

具体的には、アメリカが2009年からの自国民の年金の支払いのために、日本の郵貯資金をあてにしているということがあります。アメリカはその金を郵貯銀行から借りたいのです。しかし、赤字垂れ流しで戦争をし、財政破綻しているアメリカが、どうやってそれを返すというのでしょう?

政府案では、民営化される郵貯会社の政府持ち株比率が51%ではなく、3分の1になっています。そのことは、郵貯の資金が外国の金融機関に自由に操られ、「金融賭博」に「活用」される、ということを意味しております。その先に待っているのは、日本がアメリカの国債を大量に買い、ドル安によって国富を無にした、あの「いつか来た道」の再現でしょう。郵貯のお金は、ドルでは変わらなくても、いずれはドルの暴落によって、円での実質的価値を目減りさせられることになるでしょう。目減りした分は、アメリカとアメリカの金融資本に吸い取られるわけです。

政府持ち株比率を51%にすれば最悪の事態は避けられるのに、小泉さんも竹中さんも、なぜ51%にしないのか、合理的な説明を一切していません。アメリカ側の圧力としか考えられません。

あなたは、贅沢三昧の生活をしてまともに稼ぐ気がないので、お金をはじめから返せないとわかっている人に、お金を貸しますか? はじめからドブに捨てるつもりなら別ですが。小泉さんはそうするつもりのようです。でも、それは私たちの貯金なんですよ。

郵政には様々な既得権益が絡まり合っていることはたしかです。その最たるものは、親子代々、公務員の身分を世襲できる「特定郵便局」の制度です。こういう点を改めなければならないことは当然です。

しかし、そういう旧弊を改めても、もっと大きな国益を国外に売り渡しては、何にもなりません。

【トライアングル】
小泉「改革」の中途半端さは、道路公団の「改革」によく現われています。道路公団がかつてのままの公団でよかったはずはありません。「改革」は、たしかに前進に見えます。しかし、その見せかけによって、真の問題が隠されてしまいます。道路公団「改革」によって民営化(※)される会社の社長は、道路公団の幹部、高級官僚、関連企業の社長です。みな、おいしいポストが増えて幸せです。公団の作った40兆円という借金は誰が返すのか。国民です。郵政の「民営化」によっても、現在の郵政省の幹部、財務省の幹部、金融機関の幹部などが、たくさんのおいしいポストを手にするでしょう。

※星川淳氏は、privatization は「私営化・私有化」と訳すべきで、「民」の意味などない、と指摘しています。
http://blog.melma.com/00067106/

「政官財のトライアングル」という言葉があります。「官」というのは、国家公務員である郵便局員のことではありません。そういう現場で働く「公務員」を減らしても、「官」の力が減るわけではありません。問題は、日本を陰で操っている財務省(旧大蔵省)を中心とする高級官僚の権力があまりに強いことです。

そもそも、無駄な支出で日本の財政をここまで悪化させたのは、自民党の族議員と大蔵官僚、公共工事に群がった財界であり、郵貯を集めた郵便局員ではありません。その高級官僚たちは、責任を取るどころか、各所に天下りして甘い蜜を吸い続けています。郵政「改革」だけでは、無駄遣い構造は変わりません。

このトライアングル構造は、小泉「改革」によって、少しも変わっていませんし、郵政「改革」によっても変わりません。郵政改革によって変わる点といえば、このトライアングル構造自体が、アメリカ金融資本の言いなりになるという点だけでしょう。霞ヶ関の高級官僚の大部分が小泉「改革」に賛同していることは、この「改革」がお役人にとっては痛くもかゆくもないことを示しています。

「改革」の「痛み」が一般国民にだけ押しつけられてきたことを、トライアングルは隠しています。選挙後には、トライアングルの利権構造は保持したまま、大増税が待ちかまえているでしょう。

【自民党の変質】
自民党はもともと、矛盾する利益階層を代表するヌエ的性格を持っていました。それが自民党の「強さ」の秘密でした。これまでの自民党は、地方農民、中小企業(とくに土建業)、大企業の利益を代表していました。地元の郵便局は、前2者の利益と結びついています。しかし今回、小泉政権は、前2者を切り捨て、大企業の利益中心の政党になろうとしています。「民間でできることは民間で」という「民間」は、大企業のことです。

農民や地元利益を代弁していた、これまでの古い体質の自民党議員が郵政「改革」に反対した結果、小泉さんに「刺客」を送り込まれ、自民党から切り捨てられたのは、小泉自民党の変質と軌を一にしています。農業は衰退の一途ですし、不景気な地方には経済的魅力はありません。自民党は、そういう階層を支持基盤とすることをやめたのです。

これまでの自民党が温存してきた古い利権体質は、今回の選挙で小泉自民党が勝利すれば、解体されるでしょう。それ自体はよいことです。しかし、それは別の新しい利権構造に移行するでしょう。

【どんな社会が待っているのか】
小泉さんが目指している社会、模範としている社会はアメリカです。熾烈な競争、弱肉強食、大が小を呑みこむ社会、金がすべてのホリエモン的社会を、「小さな政府」「活力ある社会」と称しているのです。今回、ホリエモンが小泉改革を支持したことは、この改革の実質をよく示しています。

しかし、小泉さんが模範とするアメリカ社会が最終的にはどのような状況に行き着くか、今回のカトリーナ被害がはっきりと示したはずです。私たちはこういう社会を望んでいるのでしょうか。

古きを破るという点に小泉さんの役割は認めますが、彼には、より公正な新しい社会へのビジョンはありません。小泉「改革」が日本を破壊しつくさないうちに、次の真の【改革】のビジョンを提起する人(政党)が登場することを切に望むものです。

ハリケーン・カトリーナの影響(4)

2005年09月08日 | Weblog
〇地球環境問題

米ワシントン大学の研究グループによると、1950年から50年間で、世界の海水の表面温度が平均で0.5度上昇したそうです。0.5度といいますと、大したことがないように思うかもしれませんが、地球全体の海の平均温度ですから、これは膨大な熱量が海に吸収されたことを示しています。その熱量は、大気なら40度も上昇させるほどのものだそうです。40度も気温が上がったら、地球上の生命は死滅してしまいます。比熱の高い海水のおかげで、地球の温度はかろうじて一定に保たれているわけです。

しかし、海水温が上昇すれば、それは当然、大気を暖めます。

ハリケーンはカリブ海やメキシコ湾で発生し、高い温度の海からエネルギーを吸収して成長します。このメカニズムは台風の場合も同じです。近年、台風やハリケーンが巨大化しているのは、海水温の上昇と無関係ではないでしょう。

不気味な予測があります。

http://members.jcom.home.ne.jp/mikedo/news_Global_warming03.htm
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 このまま温室効果ガスの排出が続くと、今世紀末には地球温暖化によって日本付近の黒潮の流れが現在より約30%も速くなり、海水温も最大で約3度上昇するとの予測を、独立行政法人・海洋研究開発機構が21日、発表した。泳ぐ力の弱い稚魚が遠方に流されてしまう可能性があるなど、水産資源に影響する恐れがある。近く、米地球物理学速報誌に掲載される。

 同機構の江守正多グループリーダーらは、世界トップクラスのスーパーコンピューター「地球シミュレータ」を使い、二酸化炭素(CO2)が21世紀末に現在の約2倍の濃度になった場合の黒潮の流れを計算した。これは温暖化対策をほとんどとらない場合にあたる。

 その結果、温暖化で偏西風が強まるため、黒潮の流速も現在の3割増の秒速約1.3メートルになることが分かった。

 さらに、日本付近の海水の表面温度は、多くの海域で2度以上も上昇し、関東近海など一部では約3度も上がることも判明した。黒潮の流速が増すことで、南方の暖かい海水がより多く日本近海に流れ込むためという。
(毎日新聞、2005年7月22日)
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海水温の上昇は、いわゆる地球温暖化の結果だと言われています。地球温暖化の最大の原因と目されているのが、温室効果ガスの一つである二酸化炭素です。19世紀から人類は、石炭や石油という化石燃料を大量に燃焼させ、短期間に膨大な量の二酸化炭素を大気中に放出してきました。それに対して、二酸化炭素を吸収する働きをする樹木を大量に伐採してきました。

このまま二酸化炭素を無制限に排出し続けては、地球温暖化が加速する、それをストップさせねば――という目的で作成されたのが、京都議定書(1997年)です。この議定書では、温室効果ガスの排出量を先進国全体で、1990年を基準にして、2012年までに5%削減することが約束されました。各国別では、

http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kankyo/kiko/cop3/k_koshi.html
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・日本:-6% 米国:-7% EU:-8% カナダ:-6% ロシア:0% 豪州:+8%  NZ:0% ノルウェー:+1%
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です。

この議定書が発効するためには、以下の条件が満たされる必要がありました。

1 55ヶ国以上の締結
2 先進国の中で議定書を締結した国の二酸化炭素排出量(1990年)の合計が、先進国全体の55%以上
3 以上の条件を満たしてから90日後に発効

いくつかの大排出国が議定書を批准しなかったので、なかなか発効しなかったのですが、2004年11月にロシアが批准し、2005年2月16日についに発効しました。

ところが、世界最大の石油消費国=二酸化炭素排出国であるアメリカが、京都議定書に反対して、いまだに批准しないばかりではなく、今後も批准する気もありません。石油の消費を抑えると、アメリカ経済に悪影響を与える、という理由からです。

地球温暖化に最大の責任を有しているアメリカが、今後も環境問題よりも石油(経済、金)を重視するというわけです。あまりにも身勝手と言わざるをえません。

ハリケーンの巨大化は、石油の大量消費によって地球温暖化を悪化させているアメリカ自身に責任の一端があります。今回の被害は、いわばアメリカの自業自得かもしれません。

アメリカが今後も環境問題を無視して石油づけの生活を続けるならば、ますます海水温が上昇し、これからも毎年、(もっと)巨大なハリケーンに襲われ続けることになるかもしれません。それは、アメリカの石油産業基地を破壊し、石油なしの生活を否応なしに強制するかもしれません。今回の災害は、アメリカ人よ早く目を覚ませ、という地球からの警告なのでしょう。

ハリケーン・カトリーナの影響(3)

2005年09月07日 | Weblog
〇石油問題

 ルイジアナ州やミシシッピ州はメキシコ湾岸に面していますが、ここはアメリカの石油産業の中心地でもあります。現在でも原油が採掘されているばかりではなく、ここには製油施設も集中し、ガソリンなどの石油製品も生産しています。ハリケーンはこれら石油関連施設を直撃し、米国内の石油製品生産が大幅に減少しています。

 そのため、年初からの原油高も加わって、原油は一時バーレル70ドルを超え、ガソリンも高騰しました。カトリーナは、南部諸州だけではなく、ハリケーンに無関係な全米各地の国民の生活も直撃しました。

 現在は、世界各国の備蓄石油が放出され、石油高も少しは落ち着いてきているようです。

 ハリケーン・カトリーナは、アメリカがどれほど石油に依存した文明を築いているか、ということをあらためて示しました(日本も同じですが)。

 そもそも、今回の災害は、石油に起因する人災の面が大きいのです。

http://www.asahi.com/international/update/0903/018.html?ref=rss
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冠水と洪水、地盤沈下追い打ち 石油採掘・都市化に起因

 ハリケーン「カトリーナ」が直撃した米ルイジアナ州ニューオーリンズについて、都市化に伴う地盤沈下が冠水や洪水を起こしやすくし、被災を深刻にする危険性を地元メディアが指摘していた。政府の災害予測が生かされなかったことも批判を呼んでいるが、都市化の面から鳴らされた警鐘も防災対策に反映されなかった可能性がある。

 米南部の地元紙タイムズ・ピカユンが02年、ハリケーン対策の特集記事を連載。防災上の大きな問題として地盤沈下を指摘した。同市内の約7割は海面より低い。堤防で水害を防いできたが、過去100年間に市内の地面は1メートル近くも沈下したという。

 都市化に伴う巨大なビル群の重さ、地下水のくみ上げ、沖合での石油や天然ガスの採掘などが原因らしい。地盤沈下で洪水が起きる地域も広がった。水の勢いも増す可能性があり「避難する時に道が使えなくなる恐れがある」とした。

 「大型ハリケーンが引き起こす高潮に対し、まったく無防備」とも指摘。カトリーナの中心気圧は902ヘクトパスカルまで下がり、最大風速は秒速80メートル近くにのぼった。激しい低気圧で海面は吸い上げられて潮位は上昇。潮位の上昇は最高8.7メートルに達した、とフロリダ国際大はみる。

 市内では多くの道路が水没し、市民の行く手を阻んだ。高潮に詳しい岩垣雄一・京都大名誉教授(土木工学)は「逃げ遅れた人が多かったことが、被害拡大の最大の要因」とみている。
2005年09月03日22時42分(asahi.com)
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私は、海抜下の危険な場所にどうしてニューオーリンズの町が築かれたのか、最初は理解できませんでした。

ニューオーリンズは元来、ミシシッピ川の河口のデルタ地帯に造られた町でした。「1718年,フランス人によって建設され,植民のパトロンでもあったオルレアン公の名をとって,フランス語でヌーベル・オルレアン Nouvelle Orleans と命名された」(平凡社世界大百科事典)。「アメリカ第1の大河とメキシコ湾の接点にあって交通の中心地として栄え,現在でも合衆国第2の貿易港」です(同)。

建設の当初は、町は低地ではあったでしょうが、海抜下というようなことはなかったはずです。アメリカ大陸は、オランダと違って、広大な土地なのですから、わざわざ海抜下の低地を干拓して町を造る必要などなかったでしょう。

ニューオーリンズは何よりも交通の要衝として発展した土地だったのです。しかし、20世紀の初めに石油が発見されました。

デルタ地帯というのはもともと地盤が軟弱です。そんなところで石油や天然ガスを採掘し、高層ビルを建て、地下水をくみ上げたのですから、大規模な地盤沈下が起こったのです。

ニューオーリンズが海抜下の低地でなければ、たとえミシシッピ川が氾濫しても、高波が押し寄せても、これほど大規模な災害にはなっていなかったはずですし、水のくみ出しに3ヶ月もかかるなどということはありえません。

石油採掘と、石油に依存した都市文明による自然破壊が大規模に進んでいたのが、ニューオーリンズの町であったのです。

ハリケーン・カトリーナの影響(2)

2005年09月05日 | Weblog
〇イラク問題

ハリケーン・カトリーナははからずも、アメリカ国民の目をあらためてイラク問題に向けさせることになりました。

自国がこんな大災害に見舞われているのに、イラクに軍隊を派遣している場合か、という意見が出てきています。とくに、ハリケーンの直撃を受けたルイジアナ州とミシシッピ州から多数の州兵がイラクに派遣されているから、よけいです。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050903-00000042-mai-int
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<米大統領>ハリケーンで高まる批判 初動遅れ深刻
 【ワシントン及川正也】米史上最悪ともいわれる大型ハリケーン「カトリーナ」の被害拡大をめぐり、ブッシュ米大統領への風当たりが強まっている。連邦政府の初動の遅れに批判が出ているのに加え、ガソリン価格も大統領の便乗値上げへの警告をよそに上昇しているためだ。支持率低迷を招いているイラク戦争とガソリン高騰への批判にハリケーン災害が追い打ちをかけた形だ。ブッシュ政権は「三重苦」を抱え、01年の同時多発テロ以降、最大の正念場を迎えている。

 大統領は2日、視察先のミシシッピ州で、イラクに投入している州兵や資金を国内に振り替えるべきだとの意見がある、との記者団の質問にこう答えた。「賛成できない。テロとの戦いも被災者支援も両方やる。それだけの能力がある」

 国防総省や米メディアによると、イラクには、最大の被災地となったルイジアナ州から3000人、ミシシッピ州から3800人の州兵を派遣。復旧や後方支援、治安確保が主な仕事だけに「災害救援に欠かせない集団」とされる。

 十分な州兵が残っていれば(1)ハリケーン襲来前の住民避難に動員できた(2)被災直後に迅速に対応できた――が専門家の指摘だ。「無法状態化」したルイジアナ州ニューオーリンズの避難所に州兵の姿が見えず、初動の遅れだと問題になった。

 2日になって避難所での州兵の活動が活発化したが、避難者は「海外に軍隊を派遣できても、ここには来ない」と不満を強め、ハリケーン被害拡大が、不透明感を増すブッシュ政権のイラク政策への批判に飛び火する可能性もある。

 昨年来のガソリン価格上昇への批判も一段と強まっている。ハリケーン襲来でメキシコ湾岸の石油施設はほとんどが生産を停止し、高騰に拍車がかかった。価格抑制策として大統領は戦略石油備蓄の放出に踏み切ったが、1日付の米ギャラップ社などの調査では、米国民の7割が痛手を被ったと感じ、政権のガソリン高騰対策への支持も2割にとどまっている。

 大統領は以前、地元テキサス州で石油発掘会社を興すなど石油業界と縁が深い。民主党のハワード・ディーン全国委員長は「国民に協力を求める前に、大手石油会社の友人に、便乗値上げをやめるよう求めるべきだ」と皮肉った。

 大統領は2日の視察では、荒廃ぶりに時に涙を浮かべ、被災者の女性2人を抱きしめ励ます光景も見られた。初動の不手際を批判された同時多発テロでは、後に被災地視察を成功させ空前の支持率を記録、米メディアには「大統領が勝負に出た」との見方もある。

 米政府は4日までに被災地に州兵3万人を送り込み、原子力空母「ハリー・トルーマン」まで動員する救援作戦を実施する予定だ。連邦緊急事態管理局(FEMA)のブラウン局長は2日、「状況は数日中にめざましく改善するだろう」と指摘した。

 ブッシュ大統領は救援活動をうまくこなし、これを支持率回復の踏み台にしたい考えだが、議会などは初動の遅れや甚大な被害に及んだ連邦政府の結果責任を追及する構えも見せており、大統領の思惑通りに運ぶ見通しはついていない。
(毎日新聞) - 9月3日12時58分更新
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州兵が州に残っていたら、救援活動はもっと迅速に行なえたかもしれません。

ハリケーンは予見できなかった、というのは言い訳になりません。このところ毎年のように、南部諸州は巨大なハリケーンに襲われていたので、いつ大災害が起こっても不思議ではなかったからです。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050903-00000059-kyodo-int
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「とてつもない災害」警告 6年前に米専門家
 【ニューヨーク2日共同】1969年に米南部を襲い、256人の死者を出した超大型ハリケーン「カミル」の研究グループが6年前に報告書をまとめ、同じクラスのハリケーンに再び襲われた場合、大半が海抜ゼロメートル以下のルイジアナ州ニューオーリンズは「とてつもない水害」に見舞われ、多数の人命が失われる可能性があると警告していたことが2日分かった。

 専門家の警鐘にもかかわらず、連邦や州、市当局が対策を怠ったため超大型ハリケーン「カトリーナ」の被害を防げなかったことになり、政府や地元当局への批判がさらに高まりそうだ。

 カミルは米気象当局の5段階の分類で最も強烈な「レベル5」のハリケーン。「カミルから30年」と題した19ページの報告書は99年、被災30年を機にコロラド大の研究者がまとめた。
(共同通信) - 9月3日11時31分更新
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連邦政府は軍事費はどんどん使っても、防災のための金を出し惜しんだのでしょう。

アメリカはついに、アフガニスタンやイラクから軍隊の一部を被災州に引き上げることになりました。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050903-00000094-mai-int
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<米ハリケーン>被災州からイラク、アフガン派遣米兵帰国へ
 AP通信によると、カタールに駐留する米中東軍の空軍報道官は3日、米南部を襲った大型ハリケーン「カトリーナ」の被災州からイラク、アフガニスタンに派遣されている空軍兵士300人を米国に戻すと発表した。対象は、米ミシシッピ州ビロクシ郊外の空軍基地から両国に派遣された兵士たち。2週間以内に帰国を始める。
(毎日新聞) - 9月3日22時55分更新
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この兵士たちは「撃ち方も殺し方も知っている」わけです。

しかし、これは全体からすればごく一部です。ブッシュ大統領はいまだにイラクから全面撤兵することは考えていません。

イラク戦争にアメリカはこれまで膨大なお金をつぎ込んでいます。立花隆氏のブログより――

http://nikkeibp.jp/style/biz/topic/tachibana/media/050822_trillion/
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ニューヨーク・タイムス紙を少し丹念に読んでいたら、Aセクションの後ろの方に、「3兆ドル戦争(Three Trillion Dollar War)」という特設欄があって、イラク戦争(アフガニスタン戦争を含む)にどれだけ費用がかかっているか(いまなお、それがどれだけ拡大しつつあるか)を数字できちんとわかりやすく示している(その数字は毎日更新されている)ことに気づいた。

年々膨れ上がるイラク戦争のコスト
その主な数字をここに示しておく(以下わかりやすくするため、1ドル=100円で換算、つまり100億ドル=1兆円)。

■すでに使った戦費…25兆8000億円

■これからの5年間にかかる戦費…46兆円
<その内訳>
・作戦費(武器弾薬、燃料等消耗品の調達費を含む)…34兆5000億円
・新兵補充費…5000億円
・戦争周辺国家(パキスタン、ヨルダン、トルコなど)への援助…1兆円
・装備の更新費用(航空機、ヘリコプター、車両、船舶、武器など)…10兆円

■退役兵にかかるコスト…31兆5000億円
<その内訳>
・医療費と退役兵に与えられる特別手当、給付金(教育ローン、住宅ローンなど)の後年負担分…9兆円
・兵ならびに軍属で戦場で傷害者となった者への長期支払い年金、手当など…22兆5000億円

■戦費の赤字分の繰延べ償却費用(利息のみ)…22兆円
(戦費赤字は自動的に5年単位で何度も繰延べ償却される)

■戦争によって原油価格が5ドル上昇したことでもたらされた米経済全体へのマイナス効果(IMFの試算による)…11兆9000億円
(その後、原油価格はそれどころでなく高騰している)

総計…137兆2000億円

まだ3兆ドル(300兆円)戦争というにはちょっと遠いが、このままいけば確実に近未来にそのラインまで届くことは確実である。
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ハリケーンによる被害総額は11兆円にのぼると試算されています。イラク戦の出費ともあいまって、この被害はボディーブローのようにアメリカ経済に打撃を与えることでしょう。

イラクの治安はいまだ回復していません。イラクが新しい憲法を採択して、安定した政治が行なわれる見通しは立っていません。内戦と分裂の恐れさえあります。しかし、ここでイラクを見捨てたら、イラクを民主化するという開戦の大義名分が立たなくなります(もともといかがわしい大義名分だったわけですが)。ブッシュ大統領としては、イラクが安定するまでは、意地でも撤兵できないわけです。しかし、米軍が駐留するかぎり、反米テロはやみそうもありません。まさにジレンマです。

まもなく、イラクにおける米兵死者数は2000名になるでしょう。イラクから軍を引きあげるように、ブッシュ大統領にはますます強い圧力がかかるでしょう。経済の悪化とも重なって、アメリカは近い将来、否応なしにイラクから撤兵せざるをえない時が来るものと思われます。イラク問題は、国連にまかせるしかなくなるでしょう。

それは、国連安保理の決議なしにイラク戦争を始めたアメリカが、国連に頭を下げ、冷戦終結後の唯一の超大国の座から滑り落ちるということを意味します。

ハリケーン・カトリーナの影響(1)

2005年09月04日 | Weblog
今回のハリケーン・カトリーナによる被害は甚大のようです。被害にあったアメリカの皆さんが一日も早く立ち直れるよう、心からお祈りするものです。日本も近年、たびたび台風や地震に襲われていて、この災害は決して他人事ではありません。

今回の災害は、おそらくアメリカの、そして世界人類の動きの大きな転機になるでしょう。

まず、ハリケーン・カトリーナはアメリカの暗部を大きく暴露することになりました。

〇黒人差別問題

新聞報道は以下のように伝えています。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050902-00000015-yom-int
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米ハリケーン、絶望の黒人貧困層…ニューオーリンズ

 【バトンルージュ(米ルイジアナ州)=白川義和】ハリケーン「カトリーナ」に襲われた米ルイジアナ州ニューオーリンズが略奪の横行や救援の遅れで混乱を深めている。「まるで市街戦」「途上国の難民キャンプ並み」と表現される第二波の嵐は、米国の貧困と人種間格差の問題を表面化させた。

 州都バトンルージュの郊外に設けられた赤十字の救援施設で、ニューオーリンズから夫と逃れてきた福祉団体職員リリアン・フラビンさん(65)は「打撃を受けているのは貧しい人ばかり。彼らは家を失い、絶望している」と顔を曇らせた。

 フラビンさんの仕事は近所の貧しい人たちの支援。大半は黒人で、脱出する車もなく、市の避難命令を無視したという。毎月1日支給の生活保護をあてにしていたという見方もある。

 他の施設と同様、ここに身を寄せたのも大半が貧しい黒人たちだ。白人のフラビンさんは「見れば分かるでしょう。私たちは浮いている」とこっそり漏らした。

 ジャズ発祥の地ニューオーリンズは、黒人と貧困の街でもある。19世紀には米国最大の黒人奴隷市場があり、今も46万人の人口の3分の2が黒人だ。貧困層の割合は全米平均の約2倍で、両者は密接に重なる。貧困層は市内でも水害に最も脆弱(ぜいじゃく)な地域に暮らしていた。

 一方、白人の多くは事前に退避した。ニューオーリンズ郊外で会った1人は、大破した自宅を前に「これで寝室が造り直せる」と語った。白人の中間層は、保険をかけているから住宅損壊も黒人ほどにはこたえない。「災害は人を差別する」という言葉は今回のハリケーンに最も悲惨な形で当てはまってしまった。
(読売新聞) - 9月3日3時1分更新
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アメリカは、アフリカから大量の黒人を「拉致」してきて、彼らを奴隷として使い、その労働力で富を築いた国です。(インディアンからの土地略奪についてはここでは触れません)

日本の明治維新の少し前に起こった南北戦争で、北軍が勝ち、奴隷制は一応は法律上ではなくなりました。しかし、その後も社会的・経済的な差別は厳然として残りました。キング牧師が公民権運動を起こして、黒人差別と戦い、徐々に差別も少なくなってはいますが、いまだに白人との間に歴然たる格差が残っていることは紛れもない事実です。

今回のハリケーンによって最も大きな打撃を受けたのは明らかに黒人貧困層で、アメリカ南部がいまだに事実上の黒人差別から抜け出せていないことを暴露しました。

ニューオーリンズは「19世紀には米国最大の黒人奴隷市場」があった場所です。ハリケーンはこのトラウマをあらためて呼び覚ましたようです。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050903-00000311-yom-int
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米議会黒人議員グループ、ハリケーン救援の遅れを批判

 【ワシントン=坂元隆】ハリケーン「カトリーナ」の被災者に対する支援活動をめぐり、米議会の黒人議員で作るグループが2日記者会見し、被災者の大半を貧しい黒人住民が占めていることに不満を表明、支援活動をいっそう加速するよう政府に求めた。

 メリーランド州選出のイライジャ・カミングズ下院議員(民主)は、「(被災地で)生き残ろうと格闘している米国人の多くは有色人種だ」と述べたうえで、「歴史のなかで、2005年の大嵐と洪水で生死を分けたのは、貧困や年齢、または肌の色だけだったと言われるようになるのを許すわけにはいかない」と訴えた。

 その他の議員も、黒人の被災者を念頭に、ニューオーリンズ市内の避難場所になっていた競技場「スーパードーム」での生活環境が「奴隷のようだ」と指摘するなど、政府の救援活動が後手に回っていると激しい口調で批判した。

 一方、ブッシュ政権の黒人閣僚の一人で、アラバマ州出身のライス国務長官は2日、国務省内での記者会見で、黒人に甚大な被害が出たことを認めつつ、「今は皆感情的になっている」と話し、ハリケーンと人種問題を結びつけるべきではないとの考えを示唆した。
(読売新聞) - 9月3日19時35分更新
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アメリカ政府が、黒人が被害者だから救助に手を抜いているということはないでしょう。しかし、黒人がそのように受け止めるというところに、いまだに差別の構造がアメリカ社会に存続していると黒人が感じていることが示されています。

「スーパードーム」に収容された黒人たちの様子は、黒人にも白人にも、まさに19世紀の「奴隷市場」を思い起こさせました。

テレビに映るのは、ほとんど黒人難民ばかりです。これを見て、「まるでアフリカのようだ」と言うアメリカ人もいます。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050903-00000060-mai-int
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 発言の背景には、ハリケーンが接近した先月28日、同市が市民に避難命令を出したが、車を持てずレンタカー代金も払えない黒人を中心とした貧困層の多くが脱出できなかったことがある。これに連邦政府の対応の遅れが重なった形だ。テレビで報道される映像に出てくる避難民のほとんどが黒人で、キャスターが「まるでアフリカのようだ」コメントする場面もあった。
(毎日新聞) - 9月3日19時11分更新
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「まるでアフリカのようだ」には、黒人を同胞と見ることができない白人の差別意識が現われている、と言っては言いすぎでしょうか?

ニューオーリンズでは治安が悪化し、略奪が横行しているとのことです。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050903-00000002-jij-int
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救援遅れ、混沌深まる=無法集団封じ込めへ「戦闘開始」-ハリケーン被災地

 【ニューヨーク2日時事】米南部を襲ったハリケーン「カトリーナ」の被災地ルイジアナ州ニューオーリンズでは2日朝(日本時間同日夜)までに、州兵が続々と到着、ブランコ州知事は無法集団に対する「戦闘開始」を宣言した。しかし、住民の避難活動や救援物資の搬入は進まず、被災地の混沌(こんとん)は深まるばかりだ。ネーギン市長は「物資は一体どこだ」と連邦政府の対応にいら立ちをあらわにした。
 一方、市内では同日朝、化学工場で爆発があった。死傷者の情報はないが、工場は炎上、黒煙が上がっている。
 連邦緊急事態管理庁(FEMA)のブラウン長官は、略奪や銃撃に阻まれている救援活動の状況を「市街戦の様相」と形容した。一方、被災者が搬送されたテキサス州ヒューストンのアストロドームは、被災者の受け入れを打ち切り。後から到着した被災者が「たらい回し」にされる事態も発生している。 
(時事通信) - 9月3日1時2分更新
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「火事場泥棒」という言葉がありますから、災害時に盗みをはたらく不心得者が日本にもいることはたしかでしょう。しかし、阪神大震災以来の近年の大災害で、大規模な略奪行為が起こったということは、聞いたことがありません。

アメリカでは、地震などの災害の時だけではなく、時々略奪が起こりました。しかし、その背後には、貧困や差別による黒人の日頃の鬱憤があると考えられます。人種的な不満が、非日常の状況で爆発するわけです。

今回のハリケーンもまさにそういう状況を作りだしているわけです。

テレビで、スーパーを襲った黒人が、「俺たちには水も食べ物もない。ここには水も食べ物もある。なぜ奪ってはいけないのか」と叫んでいましたが、生きるか死ぬかという状況では、その気持ちもわかります。

もちろん、盗みはいけないことです。しかし、実際に外部からの救援物資が届かないのですから、市内にある商品の水や食べ物を被災者に開放し、所有者にはあとから費用を弁済する、という方法もとれたと思うのです。洪水につかった商品や冷凍のきかなくなった商品は、どうせ売り物にはならないのですし、いずれ腐るだけですから。

「市街戦の様相」とは、軍隊が同じ国民に対して銃を向けている状況です。イラクでやっていることを、米軍は自国内でもやらざるをえなくなっているというわけです。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050902-00000113-yom-int
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収まらぬ略奪、「暴動怖い」恐怖増幅…米ルイジアナ
 【バトンルージュ=白川義和】ハリケーン襲来から4日たった2日も、ルイジアナ州ニューオーリンズ市内の繁華街などで略奪行為が収まらず、治安の悪化に歯止めがかからない。

 同州のキャサリン・ブランコ知事は1日、「ニューオーリンズに到着した州兵300人はイラクから戻ったばかり。彼らは撃ち方も殺し方も知っている」と治安を乱す者に“宣戦布告”した。

 手口も大胆になる一方で、あるドラッグストアでは、フォークリフトでシャッターが壊され、略奪に遭った。AP通信記者が目撃したところでは、この店から出てきた初老の男性は、「私はキリスト教徒だから、こんなことはしたくないが」と言いながら尿漏れ防止パッドが必要なのだと言った。ある女性は「私は糖尿病だから」と言って、自転車で去っていった。歯磨き粉などを盗んだ男は、「これはみんな暮らしに必要なものだろう?」と語った。

 治安を担当するはずの警察も、被災した多くの警官が離職。「地区によっては20%減」と、CNNは伝えた。当局は当初、「生活必需品だから」と緩やかな対応だったが、略奪行為がさらに過激化し、盗んだ銃で武装した者らが、力ずくで水や食糧を略奪するに至って、凶悪犯罪として対処せざるを得なくなった。

 市内のキャナル通りでは、略奪者らが店舗の鉄のシャッターを壊し、衣類や宝石なども奪い始めた。大型スーパーのウォルマートでは、ショッピングカートに電子レンジやクーラー、包丁のセットなど、必需品とは思えない物品を満載して盗む光景も見られたとAP通信が伝えている。

 こうした無法状態に、カナダ人旅行者は「暴動が怖い。地元民が怖い。銃撃戦に巻き込まれるのではないか」と同通信に語った。子供はもちろん、一般市民も互いに疑心暗鬼になって、恐怖を増幅させている。

 ニューオーリンズ市のレイ・ネーギン市長は生存者捜索チームから警官約1500人を治安維持に振り向けたが、治安回復には到底間に合わない状態だ。
(読売新聞) - 9月3日0時16分更新
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「彼らは撃ち方も殺し方も知っている」とは恐ろしい言葉です。まるで、西部劇の時代に戻ったようです。



サイパン(2005年8月)

2005年09月03日 | バックナンバー
 天皇・皇后両陛下は、六月二七日、二八日、サイパン島をご訪問なさった。

 サイパンはグアムと同じくマリアナ諸島に属する島で、今日では美しい自然を売り物にする観光地であるが、第一次世界大戦後、国際連盟の下で日本の委任統治領になり、沖縄県民をはじめとする日本人が入植し、現地島民とともにサトウキビ栽培などを行なった。しかし、軍事上の要衝の地であったため、第二次世界大戦中は日米の間で激しい戦闘が行なわれ、五万五千人の日本人(軍人、民間人)だけでなく、多数の現地住民、米兵、朝鮮人も死んだ。悲惨なのは、「生きて虜囚の辱めを受けず」という戦陣訓に呪縛され、多くの日本人が「天皇陛下万歳!」と叫びながら、みずからの命を絶ったことである。

 昭和天皇は常に国民一人ひとりの幸せを願い、世界の平和を望む心がひときわ強いお方だった。日米開戦のときにも、「四方の海みなはらからと思う世になど波風のたちさわぐらん」という明治天皇の御製を読み上げ、戦争は決して自分の本意ではないことを示した。しかし、明治開国以降の日本の対外進出は、否応なしに戦争への道を突き歩んできた。それは、天皇お一人の力で止めることができるような、なまなかの歴史の奔流ではなかった。

 自分の望まなかった戦争であったとはいえ、その中で大勢の日本人が、天皇のために、天皇の名において、人を殺し、また殺されていったことは、陛下にとって生涯の十字架となったことであろう。昭和天皇も激戦の地におもむき、斃れていった多くの人びとのために慰霊の祈りを捧げたかったに違いないが、それは実現できなかった。この度の今上陛下ご夫妻のサイパン訪問は、昭和天皇の遺志を引き継いだものであったろう。

 出発にあたり、陛下はこうおっしゃっている。

 「私どもは十年前、終戦五十年に当たり先の大戦で特に大きな災禍を受けた東京、広島、長崎、沖縄の慰霊の施設を巡拝し、戦没者をしのび、尽きることのない悲しみと共に過ごしてきた遺族に思いを致しました。また、その前年には小笠原を訪れ、硫黄島において厳しい戦闘の果てに玉砕した人々をしのびました。

 この度、海外の地において、改めて、先の大戦によって命を失ったすべての人々を追悼し、遺族の歩んできた苦難の道をしのび、世界の平和を祈りたいと思います。

 私ども皆が、今日の我が国が、このような多くの人々の犠牲の上に築かれていることを、これからも常に心して歩んでいきたいものと思います。」

 日本の皇室は祈りの皇室であることをあらためて深く思った。


天皇陛下のおことば全文