平和エッセイ

スピリチュアルな視点から平和について考える

狂牛病(BSE)と狂鹿病(CWD) (9)

2006年01月23日 | 食の安全
(9)「20ヶ月以下」と全頭検査

2005年12月、日本は、特定危険部位の除去を前提に、アメリカから20ヶ月以下の牛の肉を輸入再開することにしました。

日本は全頭検査を行なっていますが、日本で今までプリオンが発見された中で最も若い牛は月齢21ヶ月だそうです。20ヶ月以下の牛の検査をしても、プリオンの蓄積量が少なく、検出は困難だと考えられています。

※ただし、それはこれまでのことであって、検査方法が改善されれば、これからはもっと若い牛からもプリオンが見つかるかもしれません。

アメリカのBSE検査態勢が杜撰なことは、これまでの記述でもおわかりのことと思いますが、それでは、全頭検査という日本のやり方が正しいのかというと、これもかなり奇妙なものなのです。

日本でBSEの発生が見つかったとき、日本では全頭検査という方法が導入されました。年齢に関係なく、すべての牛でプリオンの検査をするのです。

しかし、20ヶ月以下の牛は、たとえBSEにかかっていても、プリオンの検出ができません。したがって、20ヶ月以下の牛に対しては、プリオン検査は無意味なのです。にもかかわらず、日本政府が全頭検査にこだわったのは、日本産牛肉に対する消費者の不安が高まり、売れ行きが落ち込んだからです。

それが起こったのは、現在、自民党の幹事長をしている武部勤氏が農水大臣だったころですが、武部大臣は、日本産牛肉は安全だとして、テレビで日本産牛肉を食べるパフォーマンスをしました。武部氏は北海道の畜産業者を支持基盤としています。今回、武部氏はアメリカに対して強硬発言をしていますが、それは、日本産牛肉を米国産牛肉と差別化し、日本産牛肉の売り上げを落とさないための言動であると思います。

日本産牛肉への不安を取り除くためには、政府は本来、日本におけるBSEの感染ルートを徹底的に解明し、その予防措置を講ずるべきでしたが、それをせずに、全頭検査という方法を導入しました。そして、全頭検査によってBSE牛をすべて発見できるという、偽りの安心感を日本の消費者に与えたのです。

それがなぜ偽りの安心感かというと、何度も言うように、20ヶ月以下の牛では、たとえその牛が潜在的にBSEにかかっていても、プリオンは検出できず、20ヶ月以下の牛には検査は無意味だからです。日本では不必要な検査のために、膨大な費用が無駄に使われています(全頭検査の費用は100億円とのことです)。しかし、誰もそれをやめようと言い出しません。その理由は、

・政府は国民に対して、万全な対策をしているという言い訳ができる。
・食肉業者は日本産牛肉の販売を増やすことができる。
・検査業者は検査で儲けることができる。
・消費者は何となく安心できる。

検査が意味をもつのは、あくまでも20ヶ月以上の牛だけなのです。

全頭検査という過剰検査によって、消費者は無駄な検査費用を負担させられています。これを「愚民政策」と批判する人がいます。
http://square.umin.ac.jp/massie-tmd/bse.html

全頭検査によってBSEが防御できると信じ込めば、日本の消費者が米国産牛肉に対しても同じ処置を求めるのは当然です。しかし、日本よりはるかに多くの牛を飼育し、多くの牛肉を消費しているアメリカでは、全頭検査をすれば超膨大な費用がかかります。その上、BSE牛が続々と発見されて、アメリカ政府と食肉業界の嘘がばれ、パニックが起こります。日本向け牛肉に対してだけ全頭検査をして、アメリカ国内向けには全頭検査しないというのであれば、今度はアメリカの消費者が納得しません。アメリカも全頭検査をせよ、という要求は、米国産牛肉輸入の妨害するための貿易障壁だとアメリカは受け取りました。(そういう要素もなかったわけではないでしょう)

そこでアメリカは、全頭検査という日本の措置は「科学的でない」という反論を加えてきました。実際、20ヶ月以下の牛に対してはプリオンは検出できないのですから、全頭検査はたしかに科学的にはおかしい部分があるのです。アメリカの批判はそれ自体としては正しく、日本政府もそれに反論できませんでした。日本政府の「愚民政策」のために、アメリカにツッコミを許す余地が生まれ、20ヶ月以下の牛を無検査で輸入再開することになったのです。

しかし、アメリカが狙っているのは、20ヶ月以下の牛ではなく、30ヶ月の牛の無検査輸出です。20ヶ月でするよりも、30ヶ月でしたほうが利益が大きいからです。

30ヶ月の牛になると、プリオン検査でBSEが発見できますが、検査をすると費用がかさみます。もし検査の結果、やたらにBSE牛が発見されたら、米国産牛肉への信頼が地に落ちますから、アメリカとしてはそれもやりたくありません。30ヶ月牛を無検査で輸出できれば、利益を最大化できますし、米国産牛肉への不信も避けることができます。

アメリカでは、牛を1頭ごとに管理していませんので、その牛の年齢は見た目で判断することになっています。20ヶ月の牛肉と30ヶ月の牛肉を区別するするのは、客観的基準があるわけではなく、アメリカ側の自主申告しかありません。そうすると当然、日本向けに20ヶ月以上の牛も紛れ込んでくることは避けられません。

日本政府がアメリカに対して行なうべきだったのは、全頭検査の要求ではなく、まさに「早期輸入再開を求める会」が掲げていた、

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I.人がBSEに感染しないために、SRM(特定危険部位)を人にたべさせない=牛肉として流通する前にSRMを除去する
II.牛がBSEにならないために、牛の肉骨粉を牛にたべさせない
III.IIの対策の効果測定のための、病牛や死亡牛のBSE検査
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という処置をアメリカが本当に行なっているかどうかの検証であったはずです。しかし、実際に検証してみれば、アメリカでは、

Iがまともに行なわれていないことは、今回の事件ではっきりしました。
IIも抜け穴だらけであることは、すでに見ました。
IIIもきちんと行なわれていないのです。

日本政府はまともにアメリカの状況を検証せず、アメリカの言い分をそのまま受け入れ、上記3条件が満たされているとして、輸入再開を認めました。これは日本政府の失態です。今回の事件は、アメリカのいい加減さと日本政府の場当たり的な対応を二つながらに暴露しました。

小泉首相が1月20日の第164回国会の施政方針演説で、

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 昨年12月、科学的知見を踏まえ、アメリカ産牛肉の輸入を再開しました。消費者の視点に立って、食の安全と安心を確保してまいります。
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http://www.kantei.go.jp/jp/koizumispeech/2006/01/20sisei.html

と述べた数時間後にアメリカの違犯が判明するというのは、あまりにもできすぎています。

※最近、ヒューザーの小嶋氏の清和会(森・小泉派)との癒着が判明したり、「改革」の目玉、亀井静香氏への「刺客」として擁立したホリエモンが捜査を受けたり、シャロン首相との会談がキャンセルされたり、明らかに小泉政権への逆風が吹き始めています。昨年9月12日のブログにも書きましたが、「陽きわまれば陰となる」で、総選挙で大勝した小泉氏の(悪?)運も終わりつつあるようです。

もう一度繰り返しますが、プリオンが検出されないということと、その牛がBSEでないということとは別のことです。20ヶ月以下のBSE牛は、プリオンが微量なために検出できないだけです。20ヶ月以下の牛だから安全ということにはなりません。

現在、徹底しなければならないのは、全頭検査ではなく、20ヶ月以下の牛も含めて、特定危険部位の完全な除去なのです。今回の事件は、アメリカがそれを行なっていないということを証明したわけで、きわめて深刻な事態です。