山の頂から

やさしい風

不老不死

2012-01-10 15:19:17 | Weblog
 今から2200年ほど前、中国は秦の始皇帝の時代に徐福という学者がいた。
徐福はある時「遙か東の国にあるという不老不死の薬を求めに行きたい」と、
始皇帝に申し出て三千人もの人を伴い船出。東を目指すが一度は失敗。
二度目に辿りついた先が日本であったとされる。

 新春そうそう・・・
夫は夕方モモの散歩を日課としている。
昨夕、陽が落ちてすっかり暗くなってしまった道を、
いつも通り懐中電灯を片手に大曲駐車場まで出掛けて行った。
程なく夫が少し上気した顔つきで戻って来た。
なんでも駐車場の片隅で排ガスを車内に引き込んだ軽自動車を発見。
中にいた男に、「何をしているんだ!」と言いつつホースを引き抜いたという。
ドアーに手をかけると鍵は掛かっておらず開け放つと車内は酷く熱かった。
「寒いから・・・」と力のない声で男は言った。
しかし、ホースをテープで固定しているからには只事ではない。
「何言ってんだ、こんな事してたんじゃ死んじまうべ!!」
夫がきつく言い放つと男は押し黙ったまま俯いたという。
「つまらん真似はよせ!」と夫。「分かった・・・」と男は頷いたそうだ。
犬を連れたままでの押し問答では儘ならぬと家に戻って来た夫が、
様子を見てくると言って再び車で引き返していった。

 小一時間も経ったろうか夫は戻って来た。
果たして軽自動車は、そのままの位置にあった。
ドアーはロックされ男はシートを倒してあおになっていたという。
ノックすると男は顔を向けた。
「どんな事情があるのか知らんが警察を呼ぶか?」と問うと、
「俺は酒を飲んでいる。酒酔い運転になるから警察はごめんだ。
それともアンタが責任を取ってくれるのか?」さらに、
「俺の人生だ。自分でどうしようと勝手だろう。ほっといてくれ!!」
男は、そう口走った。しかし酒に酔っている風には見えなかったと夫は言った。
悲しそうな眼をしていたという。
「勝手だろう?!じゃぁ、言うがな、正月早々、神聖な公共の場で迷惑だ!」
人目につきやすい場所で自殺を図ろうとする人間は、
結局は早く発見して欲しいという心理が働いているといわれるが、
夫は何とかつまらない事を仕出かさずに済んで欲しいと思ったので、
しばらく様子を見ていたようだ。すると、男は小さく手を上げて車を発進。
テールランプをピコピコさせて行ってしまったという。
車を見送りながら、「折角の命がもったいないぞ・・」と言いたかったと・・・

 秦の始皇帝が求めて已まなかった≪不老不死≫
徐福が東国にあると信じた≪不老長寿≫の薬。
昔も今も権力者や独裁者が得ようとした未来永劫。
だがしかし、いまだ嘗て、この世に永久などはあろうはずがない。
いずれ金持ちも、悪党も、誰もかれも【お迎え】がくる。
その日まで何としても生きねばならない。
歯を喰いしばって生きねばならない。 
【お迎え】がくるその日まで・・・