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【日曜特集】海上自衛隊60周年観艦式【25】自衛隊とアメリカ軍マルチドメイン戦略(4)(2012-10-08)

2024-06-30 20:24:23 | 海上自衛隊 催事
■台湾有事は日本有事
 自衛隊とアメリカ軍マルチドメイン戦略、この視座に関する重要な部分は抑止力を構築する事で軍事力による現状変更を試みる周辺国に対して堪えがたいリスクを突き付けるところにあります。

 台湾有事は日本有事、という言葉がありましたが日本の防衛について認識しなければならないのはこの点で、過去の戦争を反省し、とか、太平洋戦争の反省、という言葉を安穏と使うならば、まさに、台湾が権威主義国家の圏内に収まるリスクを直視すべきだ。

 太平洋戦争の反省、というならばなぜ日本は本土決戦で敗北したわけでもないにも係わらず無条件降伏というポツダム宣言受諾を強いられたのかという理由を考えねばなりません、それは沖縄陥落によりシーレーンが完全に途絶され、戦争継続が不可能となった。

 海洋自由原則を堅持するのか海洋閉塞主義をとるのか、要するにマハン的ドクトリンかテルピッツ的アプローチか、ということになるのですけれども接近拒否領域阻止というものはどのように解釈しても海洋自由原則と理解することはできません。

 超限戦ドクトリンという、中国は過去に非対称型戦争モデルに関する研究論文を発表しまして、これは別に人民解放軍が採用していると確実に発表されたものではないのですが認知戦の専門部隊が存在するなど、超限戦ドクトリンは少なくとも具現化している。

 シーレーンの視点から考えますと、超限戦ドクトリンでは民間船はもちろん、なにしろ海上民兵を制度化している国なのですから民間船こそがソフトターゲットとして攻撃を受けるため、船団護衛、というわけではありませんが何らかの防衛措置は必要で。

 船団護衛は、これも日本の場合はアデン湾海賊対処任務において痛感したことなのでしょうが、船団を組むための待機期間を商船が待つことは少なく、結局海上自衛隊の護衛船団への参加を要望する国よりも哨戒海域だけをとおる商船が続出しています。

 紅海危機では、これはまだ自衛隊が参加していない任務ですが、フーシ派によるミサイル攻撃や武装ボート攻撃にヘリボーン強襲という事態が発生しますと、まだ運行している船会社は多いことたしかなのですけれども、大手海運の中には航路閉鎖も。

 スエズ運河経由ではなく喜望峰経由として、輸送運賃の値上げを要請するという。日本の場合は、マラッカ海峡ではなくオーストラリア南方航路を航行しマリアナ諸島以東を航行することでかなりミサイル危険海域を回避する事は可能となりますが。

 北太平洋航路、現実的には安全な航路はここだけとなるのかもしれません、中東からのタンカー経路はインド洋から喜望峰とマゼラン海峡を経由する航路、というところでしょうか。しかしそれでいても本州主要港が結局はミサイル圏内に入っている。

 シーレーン防衛、接近拒否領域阻止のミサイル圏外となりますと消去法で選択肢を考えれば北極海航路となりますが、一年間の半分近くを流氷に封じ込められ、しかもロシアのすぐとなりを航行する航路というものにすべてをかけるにはリスクが大きすぎます。

 米中全面戦争となった場合でも、日本が中立を宣言した場合はシーレーンを維持できるのではないか、という視点は少々同盟関係というものを忘れているうっかりさん意見といわざるを得ず、日本運行船がバベルマンデブ海峡でフーシ派に攻撃されたのと同じ。

 シーレーン防衛は北太平洋航路のみに集中する、こうした選択肢しかなくなるのでしょうか。ただ、東南アジアと日本本土を結ぶサプライチェーンを北米経由とするのはあきらかに無理があるもので、京都から大阪に行く際に舞鶴豊岡経由とするようなもの。

 すると、中国側の長距離打撃力を破壊してシーレーンを航行できるような体制を構築するべきか、と問われますとこれも無理があるよう思えます、なにしろ感情に搭載できる装備には限界がありますので、昔話のアーセナルシップを出さねばならない。

 アーセナルシップというのは1990年代から2000年代初頭に構想されたアメリカ海軍の研究で、VLSしか積まないステルス艦を建造して、いわばミサイルの補給艦のように、その艦は運行しているだけですが、ほかの艦艇から発射の管制を受けるという。

 VLSだけしか搭載しない構想で、一応自衛用に艦砲だけは積もう的な案もありましたが、そのぶんVLSは500セルを搭載する計画でした。艦長はミサイル発射を直接命令できないだけにずいぶんとやりがいのない艦になるとはいわれていたものですけれど。

 ミサイルの不足というものは紅海でのフーシ派ミサイル攻撃などで問題が顕在化しているところで、冷戦時代にはソ連軍のミサイル飽和攻撃を警戒してイージス艦などはVLSに折りたたみ式クレーンを内蔵するなど再装填という作業をそうていしていましたが。

 ソ連軍によるミサイル飽和攻撃という脅威が過去のものとなりますとそうした必要性は低下し、いや、船団護衛にあたるミサイルフリゲイトであったOHペリー級からMk13発射装置が取り除かれスタンダードミサイルが撤去されるなど軽武装化がすすみました。

 冷戦後、平和の配当、という言葉がありましたが欧州各国はもう欧州正面での第三次世界大戦はおきないだろうという楽観論、2022年以降は楽観論は消えつつあるが、こうしたなかでの大規模軍縮を進めていて、アメリカもその流れに載ったという構図で。

 アメリカが防衛力を立て直すならば、こうした危惧も過去のものとなるのかもしれませんが、それには、ロッキードマーティンはペトリオットミサイルの生産数を2021年では350発まで縮小していた、2025年までに650発まで増強する計画といい、時間はかかる。

 縮小された防衛産業を再活性するには、ノウハウなども喪失しているものがあります、そして冷戦終結の恩恵を考えず軍事力近代化を進めていたのが中国であるわけですので、もちろん、戦いの主導権を握るドクトリン研究などではアメリカは先行しているが。

 アメリカ軍の増援まで耐えしのぐという発想は、もちろんアメリカの戦力は巨大であるし、なによりアメリカに対抗しようとしている中国の戦力を日本が通常兵器だけで互角の水準まで上ることは次元が異なるほどの難しさがあるのですけれども、一考の時代か。

 独自のドクトリンは、しかし必要であろうという。独自のドクトリンと入ってもアメリカの同盟国であり、アメリカと距離を置くような隔離乖離した防衛力整備ではあってはならないといいますか、逆に非効率ではありますが、右に倣えという時代ではない。

 シーレーン防衛はその一つの検討事例なのですが、すくなくともシーレーン護衛はミサイル防衛と画一化しなければ今日の紅海船団護衛のようにミサイルによる船団攻撃は対応できない時代です、そして本当にミサイルの雨のなかを盾を掲げて進めるのか。

 もっとも、船会社と船舶保険会社は海戦となれば運航停止と保険料大幅値上げを勧告し、輸送航路はそれだけで大打撃を受けるでしょうから、従来型の防衛力を十分整備し、そもそも戦争を封じ込めるような抑止力を構築することこそ、王道なのでしょう。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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