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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

ヘリウム危機と尖閣諸島南シナ海危機,シェールガス革命が意図せず煽る日中間海洋緊張の再燃

2019-11-05 20:11:30 | 国際・政治
■天然ガス副産物のヘリウム
 ヘリウム危機、身近には風船ガス程度にしか実感のない物質の世界的不足を背景に日中間の緊張が今後、再燃するかもしれません。

 ヘリウム危機により尖閣諸島や東シナ海を巡る日中の緊張が再燃する、こう表現しますと首を傾げる方が多いでしょう。再燃しようにもヘリウムは燃えない、その通り。しかし燃えない安定した物質であるヘリウムの特性、そして現在、“ヘリウム危機”というべき世界的なヘリウム不足という状況が南西諸島へ軍事圧力を複雑化させる可能性があるのです。

 ヘリウム危機とは、世界的なヘリウム供給量の不足です。その背景としまして、天然ガスの代替物質であるシェールガス開発により天然ガス掘削が減少しており、結果的に天然ガス掘削の副産物であるヘリウムの産出量も減少している、という状況です。ヘリウム生産量はアメリカ合衆国が世界の60%、続いてカタールが天然ガスと併せて産出しています。

 アメリカが世界の60%を生産し、この他に中東のカタールが世界供給量の30%を天然ガスと共に産出しています。しかし、カタールでは地域大国サウジアラビアとの対立により、天然ガス掘削安定性が担保出来ません。そしてサウジアラビアにはカタールに代わるヘリウム産出への天然ガス田が無く、原油に代わる新しい問題が中東で生じつつあるのですね。

 日本物理学会が、この“ヘリウム危機”に対して政府へヘリウムの国家備蓄を含める確保を呼び掛けるとしており、半導体生産や医療機器整備と運用、そして科学基礎研究分野へ既に生じている影響に警鐘を鳴らしています。実際、ヘリウム輸入価格は2019年時点で十年前の2009年の三倍となっており、加えて市場への供給量にも影響が生じているとのこと。

 ヘリウムの需要は急速に増大しており、特に光ファイバーや半導体製造に用いられる事から先進国であるほど影響は大きい事となる。しかし問題は、天然ガス掘削の副産物であるという点が、尖閣諸島問題に直結するという点です。ヘリウム危機が尖閣諸島危機に繋がる背景には、ヘリウム不足は世界的であり、日本だけが不足しているのではない構図が。

 半導体生産や先端医療機器の需要は、寧ろ日本よりも半導体生産に注力する中国こと深刻な問題であり、中国国内には有望なヘリウム産出地域がありません。しかし、我が国沖縄県に視線を写しますと、南西諸島南部の尖閣諸島周辺には有望な天然ガス田があり、此処を掘削開発するならば、燃料である天然ガスと同時にヘリウムが産出する事となるのです。

 東シナ海天然ガス田は、白樺/春暁ガス田、楠/断橋ガス田、樫/天外天ガス田、平湖ガス田、桔梗/冷泉ガス田、翌檜/龍井ガス田等が存在しており、これらの天然ガスは国連海洋法条約に基づく等距離中間線、日中等距離中間線付近に所在しています。しかし、中国は国連海洋法条約に批准しつつ、このでは大陸棚条約に基づく権利を主張し問題化し、今日に至る。

 東シナ海天然ガス田問題が日中間で生じたのは1981年、天然ガス田の日中共同開発などが模索されましたが、1999年に中国側が我が国との合意なしに一方的に掘削施設建設を開始した事が海上自衛隊P-3C哨戒機等による情報収集により判明、我が国は国連海洋法条約に基づき国際司法裁判所や国際海洋法裁判所に付託を提案していますが、中国が応じません。

 ヘリウム不足であるから即座に日中が東シナ海や尖閣諸島周辺にて護衛艦と駆逐艦がにらみ合う状況、という事とはなりません。しかし問題の深刻さは、シェールガス開発の加速と共に今後もヘリウム不足が常態化する可能性が高いのです。当面はヘリウムリサイクル等の施策が検討されるでしょうが、抜本的解決策となれば新規のガス掘削しかありません。

 日本では当面、ヘリウムリサイクルを進め、加えて使用総量も局限する事で当面の影響を局限化する方針のようですが、これには限度は無いのでしょうか。先端工業としての半導体生産は我が国にも不可欠であると共に光ファイバー製造も更に進む情報化を前に需要が低下する見通しはありません。我が国としても南シナ海ガス田開発を進める必要は高まる。

 また、代替技術を我が国が開発できた、若しくは抜本的な回収技術を開発できたとしても、周辺国でのヘリウム代替物質実用化が実現しなければ、結局のところ天然ガスとその副産物ヘリウムに関して尖閣諸島や東シナ海での緊張が高まります。アメリカでの天然ガス開発増進への日米交渉はじめ、ヘリウム供給安定化は突沸した新しい関心事と云えましょう。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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1 コメント

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Unknown (北京亭すぶた)
2019-11-06 06:05:28
医療や半導体など大規模用途ですと回収→再利用や装置自体の改良(回収システム内蔵、蒸発量抑制など)で消費量が抑えられて来ましたが、分析装置(ガスクロマトグラフィーや元素分析など)のように少量利用だと価格以前に入手の手筈がつかない状況です。感度低下を覚悟でアルゴンとか他のガスに移行するのもやむなしな情勢です。ロシア→欧州のガス輸出がパイプラインでなくLNGだったらな…
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