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戦闘機国産技術存続の道③ ハリアー、ライセンス生産の可能性と需要

2009-08-12 21:41:04 | 防衛・安全保障

◆ハリアーという選択肢

 ハリアーという意外な名前を出してみたのだが、F-4後継機までの時間の空白を。F-2の需要模索で数年間時間を稼ぎ、続いてハリアーをライセンス生産し、国内用とともに輸出用とする案。F-35が開発されている中でハリアーの需要があるかの議論を最初に行いたい。

Img_9188  F-35は、ステルス機であることに加えて、多国間国際共同開発という背景もあり、様々な機能が盛り込まれており、特に開発費負担の割合に応じて発言力が定められている訳であるので、この結果、より多用途性を求めた代償というべきか、自重が計画値を上回り、軽量化と仕様変更の必要性が浮上、必然的に開発計画と量産計画は遅延を重ねている。

Img_9776  7月30日にF-35Cの量産初号機がテキサス州にあるロッキード社のフォートワース工場にてロールアウトを果たしたが、もともと90年代末期の段階では2008年に量産機の引き渡し開始を目指し開発されているので、量産初号機の技術試験が終了し、初度作戦能力を獲得するのはいつになるのか、という問題がある。

Img_0224  加えて、F-35はステルス機であるという関係上、米国国内では、この機体がオビー条項に抵触するのでは、という議論もあり、特にこれから軽空母を建造しようという国が、F-35Bを導入できるかと問われたならば、確証は無い。また、F-35は開発計画が遅延するとともに、開発に要するコストも増大しており、これは必然的に機体単価に跳ね返る。

Img_8208  また、機体単価が上昇し、生産数の減少につながれば、調達数の減少につながり、これが量産効果の低減に伴う機体単価上昇に、という悪循環を招く可能性も無視できない。もちろん、ここまで開発されたF-35は、普及型第五世代戦闘機として、実戦配備には至るであろうが、構造が複雑なF-35Bについて、特にハリアーほど敷居が、もちろん、ハリアーの導入コストも高いのだけれども、ハリアーよりも割高になる可能性が無視できない。

Img_9963  そこで、日本国内でハリアーをライセンス生産し、各国に供給する、という選択肢が生まれる。イギリスやアメリカで生産終了となったハリアーであるが、日本でライセンス生産というかたちであれば、これは、日本国内でラインを整備する訳だから、生産再開は可能である。販路などは、イギリスのBAEシステムズ社が契約を行い、BAEとの互恵を強調する。

Img_4919  その契約に応じて、三菱重工を中心にライセンス生産を行えば、F-2が生産終了したのちでも、戦闘機、ハリアーは厳密には攻撃機・・・、いや支援戦闘機であるが、ラインの維持は可能だ。F-35に関して、特に海上自衛隊が将来、例えば、しらね型ヘリコプター搭載護衛艦の後継となる22DDHなどに、その運用を期待した場合でも、F-35Bに関してはライセンス生産が認められる可能性は、F-22のライセンス生産と同等の可能性しか有していない。他方で、ハリアーであれば、ライセンス生産が認められる可能性はあり、ハリアー+の性能も、今後20年を見渡しても、近代化を重ねれば、第一級の性能を発揮できる可能性もある。付け加えて、輸出市場でも、F-2よりは、ハリアーへの需要は高い。何故ならば、F-35を除けば、軽空母用の艦載機となり得る機体が見当たらないからだ。

Img_48991  日本では過去にもこうした、本国での生産が終了した機体を日本で生産し、世界に供給した事例がある。川崎V-107だ。陸上自衛隊の輸送ヘリ、海上自衛隊の掃海ヘリ、航空自衛隊の救難ヘリとして採用されたV-107は、もともと、アメリカのバートル社が、陸軍と海兵隊用に開発した輸送ヘリで、特に海兵隊ではCH-46として採用、後継機V-22の配備まで現役にとどまる予定だ。このV-107は、バートルでの生産が終了してのち、スウェーデン軍やタイ軍、サウジアラビア王室専用機などとして川崎重工で生産され、輸出されている。アメリカで生産が終了したV-107を川崎重工がライセンス生産し、供給したのだ。

Img_4658 本国では生産終了となったハリアー、しかし、この機体を、基本的には海上自衛隊用、そして、もちろんこれは武器輸出三原則の緩和と兼ねてではあるが、日本以外の国においてハリアーを必要としている国に対して、BAEシステムズ社からの発注に応えて三菱重工が中心となりライセンス生産し、BAEシステムズ社を通じて三菱重工が供給する。この方法は、かなり無理があるようには見えるが、日本国内の戦闘機生産基盤を維持存続させる、一つの方法にはなるのではないか、そう考える次第。

HARUNA

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8 コメント

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興味深い提案ではあるのですが、武器輸出三原則の... (アシナガバチ)
2009-08-13 07:26:37
興味深い提案ではあるのですが、武器輸出三原則の緩和が提言されましたが、政権交代になればそれも見送られる可能性が高まりますからね・・・。
返信する
22DDH軽空母化、個人的には期待したいです、ハリア... (蒼い)
2009-08-13 08:29:13
22DDH軽空母化、個人的には期待したいです、ハリアーのライセンスもふくめて。
ただ問題は最近のアメリカの姿勢が変化していると思える点です。
以前は日本の防衛力強化に前向きな意見もありましたが、最近は中国との関係強化を重視するあまり、日本の防衛力強化を否定的にとらえる意見も目立つようになった気がします。
中国と問題をおこす事は全部駄目という感じで。
オバマ政権高官や駐日大使も、やたらと非軍事分野での協力、非伝統的な関係強化という事を強調しています、これは中国と関係を悪化させるような、日本との軍事関係を強調するのはよろしくないという、オバマ政権内部の志向を反映しているのではないかと疑っています。

こんな記事もあります。
http://newsweekjapan.jp/stories/world/2009/08/post-408.php
戦略国際問題研究所といば、保守的で比較的日本に好意的で、日本の防衛力強化を主張することが多かったと記憶していますが、最近は日本の軍事的弱体化を望むような論調が多くなっている気がします。
これもアメリカと中国との関係強化と無縁ではないでしょう。
敵基地攻撃能力取得や22DDH軽空母化(世艦で元海自の人が言ってた案ですか?)も次期政権は民主党になる可能性が高い以上、望む事は無理なのかもしれませんが、仮に次期政権が望んだとしても、アメリカが強固に反対してくる可能性が高いのではないかと思っています。
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アシナガバチ 様 (はるな)
2009-08-13 12:26:04
アシナガバチ 様

武器輸出三原則によって、自衛隊は“不当に”高い兵器を買わされているので、防衛費の調達費用抑制には、“聖域があってはならない”、という論法は成り立つとも思うのですがね・・・。

他方で、兵器の国産能力を維持することは、第一に“中立性の確保”、これ、スウェーデンの兵器国産国是も同じ目的でしたが一応憲法九条とも矛盾はしませんし、国内での生産基盤を維持することで整備性と稼働率を高め、最小限度の装備数で防衛を成り立たせる、“周辺国に脅威を及ぼさない”、という論点とも両立するとのではないでしょうかね・・・。

稼働率50%でもいいから、直輸入でF/A-18Cを600機くらい揃える、という思考体操は、面白いのですが・・・。
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蒼い 様 (はるな)
2009-08-13 12:39:34
蒼い 様

日本へ文民支援を求めているのは、アフガン復興には、特に対機甲戦を重視して冷戦時代に精強な部隊を錬成してきた陸上自衛隊の、後方支援を期待するよりも、文民による協力の方が、長期的に見た事業評価が上に位置するからではないでしょうか。

山岳戦ならば、7普連、14普連、13普連、34普連が有名ですが、日本の自衛隊による国際人道支援は基本的に犠牲者を出さないという前提、自衛への戦闘には直接関与しないという大前提がありますので、基本法の縛りが一部では日本以上に厳しいドイツ軍でさえ、第二次大戦後最大の攻勢(苦笑)に出たアフガニスタンへは、自衛隊の後方支援はちょっと、という背景が見えます。

どうでもいいですが、あんな激戦地にアフガンへ、民主党は本当に自衛隊出すのでしょうかね・・・、次の選挙の後、どっちが与党になるか判りませんが、アフガン反対を自民党が明確に示せば、民主党はこれまでアフガン派遣の意思を示していた訳ですから、・・・。まあ、ブレることはよくあるのですが、野党気分のままで与党になるのはやめてほしいと思う次第。

ところで、日米関係は互恵協同、米中関係は競合を視点としていますので、これを見誤るのは妥当ではないかな、と。

22DDHの軽空母化ですが、イタリアのジュゼッペガリバルディも、最初は、国内法で空母保有禁止が明確に決められていたので、ハリアー積むまで数年、法規の改訂などが必要でした。これを考えると、ひゅうが型も、ハリアーくらいならば・・・。
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失礼します。 (J-CON)
2009-08-13 22:01:47
失礼します。

ここ数日ハリアー関連の話題興味深く拝読させていただきました。

特にハリアーのライセンス生産を行い、輸出を考慮するのは新しい観点で目から鱗落ちた思いです。
他機種ならともかくハリアーの持つ特殊性から考えれば、まだまだ将来性があるかもしれませんね。

>U-36後継
少し誤解があると思うのですが、現在標的えい航任務と電子戦訓練支援はUP-3Dが担当しておりますので、U-36は模擬対艦ミサイルシーカーを用いた、模擬対艦ミサイルを演じる役目が主になりますので、必要数は激減しております。

ゆえに事故で機数が減っているにも関わらず後継機の話が出ないという説もあります(純粋に適当な機体がないところもありますが)・・・このままこの種の機体の消滅も予算によってはあるかもしれません・・・・

>22DDH
私はしらね型の後継艦は1隻しか作られないのではと愚考しております・・・それは主に予算と人員の面からです。けっして現在の海自はひゅうが型を楽に運用できていない面から十分ありえます。

イギリス辺りが空母型の船体の艦船を抑制的(必要数以外は予備保管)に運用するのは象徴的ではと思います。ひゅうが型およびそれ以上の艦を4隻って結構すごい話ですから。
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はるなさんの毎回の問題的は、とても現実的で一日... ()
2009-08-13 22:39:42
はるなさんの毎回の問題的は、とても現実的で一日も早く実際に防衛省に入られて現実化していただきたいと思う次第です。

ただはるなさん、ハリアーに関してなのですが、例えば5年後の隣国との戦闘機のバランス上、中国、韓国、ロシアを含めて充分対抗出来ますか?

隣国は侮らない方がいいと思います。わが国は例えばエレクトロニクスの部分で優位性を保てるという
確証は持てないのではないですか?


戦争にいざなったら、目的はただ一つ、どんな事があろうと勝利しなければ。
返信する
J-CON 様 こんばんは (はるな)
2009-08-13 23:53:07
J-CON 様 こんばんは

ハリアー関係のネタは、DDHに搭載できないか、と考えた先に、既に生産終了しているのでライセンス生産しかない、という、名古屋港寄港の掃海艇内での雑談の中で出たものなのですが、突飛ながら、一つの方法のようにも思えた次第。突飛ですけどね。

UP-3Dとの相互補完、U-36にF-2を充てると、超音速機の運用特性や、戦闘機の整備体系の研究にもなると思うのですがね。コストが段違いですから、難しいことは承知です。・・・、他方、やってしまうと、航空教育集団の再編が必要になってきますが・・・。一歩前には進めるかも。

22DDHですが、護衛隊群を再編して、三個隊群体制とすれば、DDH3隻体制も可能になるのかもしれません。護衛隊群の能力は金巧が必要ですからね。・・、しかし、パワープロジェクション能力の関係上、無理してでも四隻体制を構築するのでは、と考えています。・・・、DDHを直轄艦にして、護衛艦隊直轄の旧地方隊用DD/DE部隊を直衛に充てる編成、護衛隊群には、従来型DDHを改めて建造し、全通飛行甲板型と分けて運用・・・?ちょっと無理がありそうにも。

ただ、護衛隊群を一個隊群を四個護衛隊12隻体制+直轄艦として、三個護衛隊群体制(四個護衛隊いるのだから、群ではなく三個護衛艦隊と呼称しても良いのですが、そしてタスクフォースを編成する際に、護衛隊群という呼称を使用)で、運用するという方法もあるのでは、とか昔、考えたことがありました。
返信する
い 様 こんばんは (はるな)
2009-08-14 00:05:50
い 様 こんばんは

北大路機関の扱うような問題認識は、どちらかというと、政策決定者の方に提示した方がいいのでは、と思ったりします。
もともと、これは以前にも書きましたが、Weblogの前の原型の北大路機関は、大学で米軍再編問題に関する研究の為にできた自主ゼミの一つなのですからね。

ハリアーですが、電子装備とデータリンクの近代化に注力すれば、もちろん、運用次第というのもありますが、今後数十年間は充分ポテンシャルは維持できると思います。
ハリアーⅡ+は、F/A-18Aと同じAPG-65レーダーを搭載していますのでAMRAAMを運用できます。また、仮にDDHに搭載して運用した場合、イージス艦を始め護衛艦との協同で構成する艦隊防空ネットワークの一端として機能する訳ですから、単体で性能をみるのは、そこまで重要ではないのかな、と。

一方、技術的優位を保てるのかについてですが、これは努力次第でしょう。
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