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【防衛情報】A-400M輸送機納入,タイフーン増強にF-35巡る商戦と中古ラファールの用途

2020-12-28 20:19:38 | インポート
■週報:世界の防衛,最新11論点
 今回は航空防衛に関する11の話題、先ずは日本のC-2輸送機と並ぶ世界の最新鋭輸送機A-400Mについての話題です。

 ルクセンブルク空軍は10月初旬、エアバスA-400M輸送機の初号機を受領した。ルクセンブルクはNATO加盟国にあって人口や国土の広さではA-400M輸送機を必要とする規模ではないが、これは2001年に隣国のベルギー空軍がA-400M輸送機を導入する際、8機の導入契約を結ぶにあたって、内1機をルクセンブルク政府と共同購入の契約を結んでいる。

 ルクセンブルク空軍は平時からベルギーへ要員を中集させており、輸送機部隊ではベルギー空軍輸送調整本部へ空軍参謀1名、操縦士4名、機内要員2名を派遣しておりベルギー空軍と一部のC-130輸送機を共同運用している。かなり特殊な運用に見えるがNATOのA-400MそのものもEATC欧州航空輸送司令部隷下で、統合運用の態勢が執られている。
■C-130をミサイル発射母機化
 輸送機のミサイル爆撃機化、なにか映画モスラ対ゴジラのC-46輸送機改造爆撃機を思い出す。

 C-130輸送機に大量の長距離ミサイルを搭載するアメリカ空軍戦略開発計画についてロッキードマーティン社のアドバンストストライクシステムズ計画チームは2500万ドルにて第四段階の契約を締結しました。これはMC-130J特殊作戦航空機の貨物室にJASSM-ER巡航ミサイルを大量搭載し、空中発射母機として運用する全く新しい航空打撃技術という。

 JASSM-ERはロッキードマーティン社製で射程は930km以上、C-130輸送機であれば24発は搭載可能で、極めて射程が大きい事から戦闘爆撃機などに依存せずとも脅威対象より十分に離隔を以て投射できるスタンドオフミサイルです。計画では評価試験をMC-130Jにて実施していますがC-17戦域輸送機からの運用も想定、ゲームチェンジャーとなりえます。
■米政府専用機の超音速化案
 外交には速度が必要だとは考えるところですが、物理的な速度も必要なのでしょうかね。

 アメリカ大統領専用機エアフォースワンの超音速型が早ければ2025年にも開発される可能性があります、これはカリフォルニア州のベンチャー企業エキソソニック社が進める超音速旅客機構想がアメリカ空軍大統領政府高官空輸局に注目されたもので、試作機開発契約が既に8月に締結されていたようです。同社は低騒音超音速機の開発を進めている。

 エキソソニックが開発する低騒音超音速機は双胴体型という特殊な形状を採用していますが、アメリカ空軍大統領政府高官空輸局はもう一つ、ジョージア州アトランタの航空ベンチャー企業ハーミアスとも試作機開発契約を締結しており、こちらはマッハ5の極超音速機を開発しています。エキソソニックの超音速機は早ければ2025年に試作機完成見込み。
■ドイツ,ユーロファイター追加
 日本もこの方式でF-2の改良型を細々と開発していたらば後継でもめなかったのかもしれません。

 ドイツ空軍は11月5日、ユーロファイタータイフーントランシェ4戦闘機38機の導入を決定し、調達へ55億ユーロの予算を連邦議会予算委員会へ提出しました。ユーロファイター戦闘機は欧州共同開発の戦闘機ですが、進化する戦闘機というユーロファイターをドイツ空軍が最初に受領したのは2003年、この初期型の機体を今回取得する分が代替します。

 ユーロファイターは初期の機体をトランシェ1とし、マルチロールファイターとして設計されていますが、初期の機体はその完成度よりも素早い導入が念頭とされ、空対空戦闘を第一に完成しました。レーダーは従来のアンテナアレイ式であり、今回導入するトランシェ4は画期的なAESAレーダーを搭載したユーロファイターの遅いながらの完成系という。

 ユーロファイターをユーロファイターで置き換える事となる背景には、トランシェ1の維持部品が製造終了となり、いずれ運用不能となる事を受けてのもので、トランシェ4の納入は今後2030年まで順次行われます。一方、ドイツ空軍は2025年よりF/A-18E戦闘機の導入を開始、更に次期戦闘機開発が本格化、これと並行し二機種同時調達される計画です。
■ギリシャ,質流れF-35を希望
 F-35導入は理解できるのですがこの選択肢は禍根を残しつつ財政負担も大きくなりそう。

 ギリシャ空軍はF-35戦闘機取得を計画、ラファール戦闘機と同時に2022年に取得する予定とのこと。エーゲ海におけるギリシャ離島沖でのトルコ海底資源開発を契機として緊張状態にあるギリシャトルコ関係ですが、ギリシャ空軍が導入するF-35戦闘機により新しい摩擦を生む可能性があります、何故ならばこのF-35は質流れ品に近い所以があるため。

 F-35はトルコ軍が取得予定であった機体をギリシャが取得する為で、これはトルコがロシア製S-400防空システムを導入した事を受け、データリンクでの情報流失を懸念したアメリカ政府が引渡を拒否していたもの。ギリシャ空軍はトルコとの対立を背景に戦闘機の近代化を急ぎ、フランスから中古機を含む極めて有利な条件でラファールを取得しました。

 ギリシャ空軍がラファール戦闘機とF-35戦闘機をほぼ同時期に調達する、第五世代戦闘機と第4.5世代戦闘機を調達するのは規模の大きな空軍では運用ならばハイローミックスとして一種の常とう手段ではありますが、確実に整備補給体系は複雑化すると共にこの二機種には誘導弾などの互換性も高くは無く、大丈夫なのか、と懸念しないでもありません。
■クロアチア,中古ラファール
 こうした輸出方法もあるのかもしれませんが日本の次期戦闘機開発に参考点と出来るのでしょうか。

 クロアチア空軍は10月4日、フランス政府より12機のラファール戦闘機を無償譲渡されるとの発表を行いました。ラファール戦闘機はフランス空軍が運用していた中古の機体であり、これによりクロアチア空軍次期戦闘機選定は候補となっていたF-16block70やJAS-39Dとイスラエルからの中古のF-16block30は事実上ラファール優位を意味しよう。

 ラファール戦闘機は先ごろにギリシャ空軍へ新規のラファール導入や旧型ミラージュ2000導入の見返りに8機を無償譲渡した事例が記憶に新しいが、今回のクロアチア無償譲渡は兵装や訓練の有償提供を含んだものであり更なる追加を期待したものと考えられる。クロアチア空軍は現在MiG-21戦闘機24機を運用しているが、旧式化と稼働低下に悩んでいる。
■フライングウイングマン前進
 無人僚機という新しい区分は戦闘機の効率運用を進める光明となるのか、中途半端な随伴機となるのか。

 ロイヤルウイングマン無人僚機、オーストラリア空軍がボーイングとともに開発を進める次世代無人航空機は十月下旬、初のタキシングに成功したとの事です。ロイヤルウイングマンは2020年内にも初飛行を予定しており、今後はタキシングから滑走路へ向かい、滑走試験や急制動試験を経て初飛行へ、そして最も難しいとされる自動着陸試験に臨みます。

 無人の自動管制により行われた今回のタキシング試験では26km/hまで加速し、トラブルなどは確認されなかったとの事です。ロイヤルウイングマンは自動僚機という名の通り、オーストラリア空軍が運用するF/A-18F,そして遠くない将来に導入が見込まれていますF-35戦闘機とともに緊急発進や航空打撃戦へAI人工知能を用いて自律飛行により随伴します。

 試作機は三機。ロイヤルウイングマンの実用化により、ロッテ編隊を組むための最低数が戦闘機2機であったのに対して、有人機と無人僚機を組み合わせる事で単機による戦術機動が可能となり、無人僚機は航空打撃戦では先行しての危険な索敵や空中戦では危険な囮を担い、その取得費用はF-35戦闘機の十分の一強に留まる、新世代の無人機運用戦術です。
■独仏FCAS無人機計画
 無人僚機の必要性というものは旧世代戦闘機と新世代戦闘機の製造費用差が著しく、1:1で置き換えられない為の打開策なのですが、どこまで実用性を持ちうるのでしょうか。

 欧州無人航空戦闘システムFCASについて、ドイツのFCMS合弁会社とフランスのタレス社及びスペインのインドラ社はフェーズ1のセンサーシステム完成を11月に発表しました。センサーシステムは地上試験や有人航空機を用いての適合試験が2021年前半にかけて実施され、フェーズ1を土台に、その後のフェーズ2へ2023年にかけて進む計画である。

 FCASは2040年代の欧州における航空戦闘を念頭とした無人航空システムであり、欧州共同開発のNGF第六世代戦闘機との無人僚機としての適合性、また無人機単体での任務遂行能力などを見込んでいる。欧州では過密航空空域での無人機運用に大きな制約があり、フェーズ1のセンサー開発は現在のところ無人機へそのまま搭載する試験は見込んでいない。
■ナイジェリアにJF17迂回供与か?
 JF-17,性能を絞った分だけ必要な任務ではかなり高い能力を持ち、実のところ日本の防衛から興味深い機種です。

 パキスタン空軍に納入された中国製JF-17戦闘機の一部がナイジェリア空軍の国籍表示に塗装された写真が11月6日にインターネット上に投稿された写真から発見され、JF-17戦闘機がナイジェリアに供与される可能性が示されています。JF-17戦闘機は中国が輸出用に開発した最新型軽戦闘機で性能はアメリカ製F-16戦闘機block30に匹敵するとされる。

 パキスタン国内報道によればJF-17戦闘機はフライアブルコストで6120万ドルとF-16E等の最新鋭戦闘機よりも割安で、照準装置や武器システムを省いた機体そのものは3500万ドルに抑えられています。ナイジェリア空軍では40機の次期戦闘機を選定中であり、パキスタン政府はJF-17戦闘機3機の国籍を明らかにしない第三国への有償供与を検討中です。
■インドネシア,F-35供与に固執
 インドネシアは日本が高速鉄道入札で痛い目を見ましたがアジアの奥深さのような難しさを感じますね。

 インドネシアのスビアント国防大臣は次期戦闘機についてF-35を要求するとしてアメリカが提案するF-16VやF/A-18Eを一蹴しました。アメリカ政府はF-35の製造に余裕が無く新規調達の場合は9年間が必要であるとともに第5世代戦闘機の前にインドネシアは第4.5世代戦闘機を有していない為、先ずこれらでの慣熟が必要、という見解を示しました。

 インドネシア空軍はF-16C戦闘機33機とロシア製Su-27やSu-30戦闘機16機を運用中ですが、SU-27とSu-30戦闘機の老朽化が予想外に進み後継機を必要としています。インドネシアはアメリカとの友好関係を強化する一方で次期戦闘機選定に難渋しており、韓国が開発する第五世代戦闘機KF-Xとの共同開発を模索していますが実現性が低く混迷中です。
■比空軍,スーパーツカノ
 フィリピン空軍、先ずは現実的に運用可能で必要性も高いCOIN機を揃える模様だ。

 フィリピン空軍は10月13日、新たに導入計画を進めていたブラジル製EMB-314/A-29スーパーツカノ軽攻撃機6機の引き渡しを受けた。フィリピン空軍は旧式化と老朽化が進むOV-10ブロンコ軽攻撃機/観測機の後継機を選定しており、EMB-314/A-29スーパーツカノ軽攻撃機は現在フィリピン空軍が進める空軍近代化計画の重要な一歩をすすめた構図だ。

 EMB-314/A-29スーパーツカノ軽攻撃機は元々はジェット練習機を補完する高等練習機として強力なエンジンを搭載したターボプロップ機となっているが、強力な推進力のエンジンから1.5tもの兵装を搭載した軽攻撃機でテロ対処任務を担うCOIN機だ、2017年にはイスラム過激派が南ラナオ州マラウィに浸透、五か月間の市街戦となった事は記憶に新しい。

 フィリピン空軍はマラウィの戦いにて装備するOV-10が充分な性能を発揮出来なかった事から後継機を模索していた。なお、空軍は現在戦闘機が無く韓国製A-50攻撃機で代替しているが、空軍近代化計画は老朽化し飛行不能となったF-5軽戦闘機後継に新たにF-16戦闘機12機を導入し航空打撃力強化へAH-1対戦車ヘリコプター6機の導入を希望している。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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