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滋賀-迫撃砲弾が演習場外国道に落下!軽自動車破損,81mm迫撃砲弾が饗庭野演習場外逸脱

2018-11-15 20:18:32 | 防衛・安全保障
■砲弾北1km逸脱,原因は何か?
 滋賀県湖北の饗庭野演習場で迫撃砲の事故が発生しました。稀にある場外落下ですが、国道に着弾する危険な状況です。

 千僧駐屯地祭での模擬展示の様子。死傷者が出なかった事は幸いでしたが、昨日14日1330時頃、滋賀県饗庭野演習場において訓練中の信太山駐屯地第37普通科連隊、中隊の迫撃砲小隊が運用する81mm迫撃砲から発射された砲弾の内一発が大きく弾道を逸脱し、演習場に隣接する国道303号線に着弾、この衝撃でアスファルトが飛散し、軽自動車ガラス等が損傷しました。一歩間違えれば、と。

 饗庭野演習場は滋賀県北部の山間部に位置する中部方面隊最大の演習場です。そして中部方面隊には大演習場は無く、中演習場はここ饗庭野と岡山県の日本原演習場のみ、大演習場での射撃訓練が必要な場合は、静岡県の東富士演習場や北海道大演習場等へ転地します。この饗庭野演習場に隣接し、福井小浜と滋賀湖北を経て京都を結ぶのが国道303号線です。

 高島市役所から饗庭野演習場は2kmの距離、とNHKでは報道されていますが、実際には饗庭野演習場は今津駐屯地に隣接、JR湖西線近江今津駅から徒歩15分の距離にあります。凄く近いように見えますが演習場の境界線が近いだけであり、射撃場はさらに奥にあり、戦車射撃場や小火器戦闘射撃場などは、この入口から奥へ自動車で20分以上奥に入った所に離隔して在る。

 81mmは手前、奥に連隊の重迫撃砲中隊が運用する120mm重迫撃砲。国道303号線は鯖街道の一つ、若狭湾の海産物を古くから琵琶湖の水運等と共に京都へ運んだ経路であり、若狭湾は海釣りの楽園である事から、特にチヌの一大策源地、この短絡経路に当る国道303号線は夜明け前から釣り客向けの店舗が営業していたりする個人的にも重要な経路です。山間部を縦貫する道路で将来的には、北陸新幹線敦賀大阪経路となる。

 演習場と民有地ですが、例えば新東名高速を走行していますと富士山近くで東富士演習場を眺める事が出来ます。この道路をよく利用される方ならば、白燐弾等の着弾の様子、地面近くに細長く白煙が急に雲の如く形成される瞬間をご覧になる事でしょう。しかし、実弾が逸脱したならば大事故であり、再発防止へ原因を徹底して究明しなくてはなりません。

 L-16迫撃砲は軽いので分解して運べる、奥に二門持ち歩いていますね。普通科連隊隷下の普通科中隊、その迫撃砲小隊に4門が装備されており、近接戦闘を担う小銃小隊等を中隊が火力支援するための迫撃砲です。イギリスロイヤルオーディナンス社が設計したL-16迫撃砲を1992年に64式迫撃砲後継として採用した陸上自衛隊は名古屋の豊和工業において本砲をライセンス生産、全国の普通科部隊へ配備しました。

 81mm迫撃砲弾は長径20m短径15mの範囲内に有効弾片を散布します。NHK等では10m以内に破片を飛ばすと解説していましたが、そんなに生易しいものではなく有効弾片とは殺傷範囲を示し、一般的な軽榴弾であれば重量3.2kgの砲弾を200m/sで投射、着弾時危険範囲は50m以内、安全を考えれば70mの離隔距離があっても伏せている必要があります。

 迫撃砲とは小型火砲で、射撃反動を底板を通じ地面に吸収させる事で構造を軽量化させたものです。弾道が極端な放物線を描いて飛翔する為、木立や市街地に壕の中といった錯綜地形から投射可能です。その分、重い弾を発射する事は出来ず、また構造が簡略化されている為、射程も榴弾砲ほど長くはありません。しかし軽量である為、第一線に携行できる。

 射撃の瞬間で砲弾が見えます。L-16迫撃砲は前述の通りイギリス製ですが軽量且つ高い信頼性から世界40か国で採用されている傑作迫撃砲で、重量38kgと軽量である上、砲身と砲架に砲底板を分割し、普通科隊員3名で人力搬送する事が可能です。射程は5400mあり、毎分最大80発、持続射撃でも毎分20発の砲弾を発射可能です。普通科中隊は150名から200名、これを支援します。

 富士総合火力演習における射撃の様子、周りに二人安全要員が見える。実弾射撃の安全管理について。長径20m短径15mの範囲内に有効弾片を散布するため、安全管理は非常に徹底しています。駐屯地祭等の訓練展示では簡略されていますが、射撃訓練では砲身を井桁状の安全竿で囲み、着弾地外へ砲身が向かないよう徹底されており、射撃統制員と弾着観測の下で弾着が着弾地から大きく逸脱しないよう統制されています。

 実弾、岩屋防衛大臣は昨日の事故に際しての記者会見で、訓練弾か実弾か、という回答が二転三転していましたが、正確には訓練弾は実弾です。そして訓練弾の他に発射動作の演練に用いる擬製弾が配備されています。擬製弾は形状と重量が実弾と同じ、駐屯地祭等での装備品展示に並ぶものです。大臣は訓練弾と擬製弾を言い違えたのではないでしょうか、ただ、軽自動車と着弾点の距離の正確な数字が出ている訳ではありませんので、なんともいえません。

 訓練弾、発射するが爆発しない弾薬です。これは当方の推測で、その根拠はNHK報道により着弾痕の映像が示されていた為でした。長径20m短径15mの範囲内に有効弾片を散布、81mm迫撃砲弾が舗装道路に着弾しますと、弾薬メーカーパンフレットでは鈴蘭の花のような抉欠痕が広範囲に広がる様子が示されています、映像の事故着弾痕は此れより小さい。

 事故は、演習場東側の発射地点から西に2.5kmから3km離れた目標地点に弾着させる計画、しかし事故では1km程度北に偏向し演習場隣接の国道付近を直撃したという。当初報道で推測したのは装薬の量を間違えて3km飛ばす予定が最大射程の5kmに近い距離を飛翔した、というものですが、報道発表を見る限りは、偏向したのみで飛び過ぎた事故ではない。

 120mm重迫撃砲射撃の瞬間の反動の様子、考えるにこれが影響したのではないかと。警察から連絡があるまで迫撃砲弾の発射訓練を続けていたという。この間は30分ほどとのことでした。この報道を知るまで、当方は射撃時の反動で底床と副底板が沈下した事で方針が瞬間的に偏向し、迫撃砲の再装填中止が間に合わなかったのではないか、という推測を行いました。迫撃砲は手動で装填、射撃速度は非常に早く偏向察知が間に合わない事も。

 警察からの連絡まで気付かなかったという事で、砲底板の射撃反動による沈下という可能性は無くなりました。沈下したならば一発だけの偏向では済みません、次発以降も影響する。監的壕から着弾を確認していない中での射撃持続ですが、榴弾や白燐弾以外の炸裂しない訓練弾の観測は難しく、しかし、射撃による沈下が原因ならば一見してわかります。

 交差射撃か同時弾着射撃による弾道交差に伴う偶発的な空中での砲弾接触、有り得ない話ではありますが可能性の一つとして複数の迫撃砲が同時弾着射撃、つまり単一目標へ集中射撃を行った際に迫撃砲弾同士が空中で接触し、訓練弾同士である為に爆発する事無く、片方が演習場外に落下した。ただ映画ではありませんので弾薬同士の弾道接触はあるのか。

 弾薬の不良、1970年代には64式迫撃砲では弾薬の信管不良により争点と発射時の反動で瞬間的に砲身内でさく裂し、迫撃砲ごと周辺の隊員が殉職する悲惨な事故が発生しています。今回は弾道の逸脱事故ではありましたが、迫撃砲弾には野砲の砲弾と異なり安定翼が装着されています。榴弾砲の半分以下と初速が遅い為ですが、変形し逸脱した可能性、と。

 砲の老朽化、今回の事故は第3師団第37普通科連隊で発生しました。第3師団は1995年防衛大綱改正により政経中枢師団へ改編され、L-16迫撃砲の装備は全国的に早いものでした。早くから装備した事で既に老朽化が始まり、迫撃砲の結合が反動による瞬間的な偏差を生み、一発だけという事ですので、瞬間的偏向があった、こうした可能性も考えられる。ともあれ、死傷者が出なかったのは不幸中の幸いでした、早い原因究明を望みたいですね。

 再発防止策について。もっとも考えられるのは対迫レーダーによる弾道確認です。迫撃砲弾を追尾するレーダーで特科連隊に一基配備、饗庭野に近い配備部隊は姫路と豊川です。肉眼で迫撃砲弾を追尾する事は限界がありますので、レーダーによる弾道逸脱を早期検知する事が一つの施策となり得る。もう一つは、白燐弾の初弾における使用の徹底、これは白燐の白い弾道が肉眼で確認できますので弾道逸脱の徴候を検知する事に寄与しましょう。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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1 コメント

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第二北大路機関追記 (はるな)
2018-11-16 07:42:33
着弾の音があったという事ですので、訓練弾薬ではなく榴弾を使ったようですね

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