北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

沖縄国民保護図上訓練の課題【1】台湾有事の拡大か南西有事先行型か-先島諸島からの全住民避難の難題

2023-02-25 20:19:07 | 国際・政治
■戦闘という危機的状況下
 2023年3月に初の沖縄県邦人保護図上訓練が行われ南西有事の際に離島地域からの住民対比に関する実施要領の検証が行われる、1月28日に産経新聞が報じました。

 南西有事に対する避難民輸送図上訓練が実施されます、これは沖縄県の離島地域からの住民避難を実施し、戦闘地域に住民を残さない、という沖縄線における反省に基づくものです。ただ、この図上演習がどの程度、軍事的知見に基づき実施されたかについて未知数となっています、思い起こせば沖縄戦でも、第32軍と沖縄県庁の連携がありませんでした。

 浮流機雷と地対空ミサイル、この二つの問題をどの程度認識しているのか、十分認識しているならば有事の際に図上演習通りの退避が実現するでしょう、しかし認識していなければ、対馬丸事件のように疎開船が被害に見舞われるという懸念が生じます。そもそも南西有事をどのような状況で想定しているのか、ここから当事者は検討しなければなりません。

 台湾有事の拡大か、それとも台湾有事に先立つ策源地確保へ南西諸島を確保するという南西有事先行型かにより、状況は異なります。どちらも回避が望ましいのですが、台湾有事は中台関係、日本が介入せずに起こらないよう抑止する方法がありません。ここで前述した浮流機雷の脅威ですが、台湾有事の拡大という想定で、最も検討しなければなりません。

 浮流機雷、これは事故です。浮遊機雷という自由に遊弋し目標を狙う機雷はありますが、当然無差別攻撃、漂う機雷は交戦国も非交戦国も人道輸送船さえ触れれば撃沈する、こうした仕組みですので、国際法上厳しく制限され、浮遊機雷については敷設後短時間で機能停止するよう厳しく制限があります、しかし、浮流機雷は事故により発生する危険物です。

 係維機雷という、浮力を持つ機械水雷を海底の係留装置から係維索により任意の深度に設置する機雷があります、国際法上敷設することは戦闘行為に当たるのですが、軍事行動の一環としては交戦国同士が用いることのできる通常兵器です。機械水雷は多くの場合、硫酸アンプルを用いた激発装置を仕込んだ複数突起を備え、船に触れればアンプルが割れる。

 硫酸アンプルが割れることで流れ出した硫酸が周りを包む亜鉛版と銅板に触れ、つまり18世紀から存在するボルタ電池の方式で電気を発生させ、その電流が信管を作動させるというもの。機雷というものはボルタ電池が発明された少し後に開発されています。構造が簡単であるために、同じ程度の大きさの洗濯機とあまり違わない費用で製造できるのが強み。

 機雷は最も費用対効果の高い装備といわれていますが、実際に湾岸戦争においてアメリカ海軍に被害を与えたのはイラク軍が装備した対艦ミサイルでもミサイル艇でもなく、事前に敷設した機雷です。ミサイルは一発数百万ドルの費用を要しますが、機雷は最も構造が簡単な係維機雷の場合は数百ドルでも製造でき、多用されます。ただ多用される分掃海も。

 掃海艇が曳航式掃海器具を引っ張り、機雷をつないでいる索を切ってしまい、浮上した機雷本体を機関砲で射撃し破壊する、もっとも単純な機雷掃海方法です。もちろん、船舶を感知し始めて目標に向かい浮上する浮上機雷や魚雷を内蔵して船舶を検知し魚雷を打ち込むキャプチャー機雷、磁気に反応爆発する磁気機雷や音を感知する音響機雷等もあります。

 浮流機雷は、この係維機雷を処分した際に浮上した機雷が海流に流れ出すもので、また間の悪いことに台湾近海の海流はすべて日本列島のほうへ流れているのです。こうしたものが先ず流れ着くのは沖縄県の南部、つまり今回住民避難が想定されている地域なのですね。もちろん浮いているものですので、海面からも見えるもの、よけることは可能なのですが。

 音響機雷や磁気機雷が開発されている中で、係維機雷に意味があるのか、と問われますと係維機雷は、しかし圧倒的安さというものが利点に挙げられます。台湾有事を想定する場合は、中国軍が30万発ともいわれる機雷、何しろ機雷は温度管理さえしっかり継続しますと半世紀程度は倉庫で備蓄できる、台湾も台湾本島防衛のために多数を備蓄しています。

 国民保護のための避難には民間船舶を用いることが第一です、たた、運航計画を十分に取り、民間船といえども浮流機雷への注意というものを想定し、またフェリーには機雷を探知するレーダーは搭載されていませんので、夜間航行を行う際には特に留意事項となります。ただ、浮いているから触れれば爆発するので、目視で確認できるのが浮流機雷という。

 民間フェリーにも台湾有事の際に、平時の訓練では問題なく参加しているが、有事の際には危険なので避難輸送を行わない、という、過去のイランイラク戦争における日航機邦人輸送拒否のような問題が生じないように対策を行う必要があります。そして、どの時点で輸送停止を決断するのか、要件についても輸送計画に内密でも検討しておくべきでしょう。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
(第二北大路機関: http://harunakurama.blog10.fc2.com/記事補完-投稿応答-時事備忘録をあわせてお読みください)

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 【京都発幕間旅情】N800系電... | トップ | 中国の対ロシア武器支援準備... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

国際・政治」カテゴリの最新記事