北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

香港を救え!中国香港国安法受けイギリスが全市民へ旅券,共同声明“一国二制度”反故に反発

2020-06-09 20:08:13 | 国際・政治
■英外交真髄と混迷日本外交
 イギリス外交の神髄を視たという印象です。民主化要求を禁じた香港安全法を巡る国際政治の現状を英艦デアリングと中国艦太原の東京港寄港の写真とともにみてみましょう。

 中国政府は議会に当る全国人民代表大会において5月28日、香港での中国共産党への反対行為や民主化運動などを禁止した“香港国家安全法”を採択しました。これは1984年の英中共同声明においてイギリスによる香港返還の条件となる“一国二制度”即ち、返還後50年間の外交と国防問題以外では高い自治を維持するとの共同声明に反する事となります。

 中国空母の我が国排他的経済水域での初行動、沖縄県への中国公船による領海侵犯や漁船への妨害行為、世界が新型コロナウィルス感染症COVID-19禍への対策に奔走する中、中国は我が国南西海域にて一種の攻勢に出ており、こうした動向は日本周辺非ず南シナ海や中陰国境で顕著化しています。世界がCOVID-19により様々な取り組みを行えない中に。

 一国二制度。これは現在に至る中国本土における共産党一党独裁政治のもとでの自由を筆頭に基本的人権が著しく制限される体制へ、実に150年間に渡りイギリス統治が行われ、高度な自治と自由を謳歌した香港を中国本土へ返還する際に、香港市民の基本的人権を北京の中国共産党圧力から少なくとも半世紀保護する、という香港返還の大前提というもの。

 香港全市民へイギリス旅券発給。イギリスのジョンソン首相は中国政府による香港安全法としての香港自治権剥奪への英連邦盟主としての香港市民救済策へ旅券発給を提示しました。香港自治は2047年まで、イギリスの香港返還から半世紀は自由な香港を維持させるとの英中共同声明へのあからさまな離反行為へのイギリス政府の最大限の救済策といえる。

 BNOイギリス海外市民権。大英帝国は最盛期に陽の沈まない帝国として世界に海外領土と植民地を経営しましたが、同時に領域民の保護にも積極的であり、現在の主権国家イギリスの国民という狭い定義に加えてイギリス海外領土市民やイギリス臣民、そしてイギリス海外市民という制度を有しています。BNO海外市民はもともと香港を想定したものでした。

 ただ中国返還の時点でBNO制度は1997年以前に生まれた香港市民、イギリス統治時代の出生者に限定する制度となっていました。英中共同声明へのあからさまな離反行為を中国政府が行ったことで、全香港市民を保護する施策へイギリスが乗り出したもの。BNOはイギリス本土での六ヶ月間就労が認められていますが今回はもう少し長い期間を想定します。

 ジョンソン首相が提示した香港市民への旅券交付は一年間更新制でイギリス本土自由就労をみとめるものとなりますが、加えてイギリス外務省はウィーン領事関係条約にもとづくイギリス市民の保護を行うことが可能です。例えば香港市民であってもイギリス旅券を有しているならば不当逮捕や中国本土拉致に際し領事館員が保護を行うことも可能となる。

 中国による元イギリス領事館職員への拷問事件。別に二十世紀初頭の蛮行ではなく2019年11月20日にBBCにて報道されました、イギリス政府は領事館職員への中国政府によるこうした不法行為を含め、度を超した中国政府対応へ一石を投じる目的もあるのかもしれません。この事件は2019年8月、香港市民権を持つ元職員を換金暴行し発生した事件です。

 ラーブ外務大臣は中国大使を呼び出し抗議していますが、この事件では元職員が中国本土においてイギリス政府へ協力したことから政治不安をあおったとされ15日間にわたり拘束、拷問を受け自白強要を受けたという。中国政府は当初政治不安助長を掲げていましたがイギリス政府の抗議を受けますと中国側は不法買春の疑いがあったと主張一転させています。

 英中関係は確実に影響を受けます。イギリス政府としては全香港市民を不当逮捕から保護すると共に必要であればイギリス本土への転居も可能となりますが、過去の事例から中国政府の様々な妨害、イギリス企業の中国就業への妨害やイギリス製品への異常な高関税を原因不明の不法行為や詳細不詳の書類不備が提示されるリスクを懸念せねばなりません。

 しかし、イギリス政府には利点があります。EU欧州連合から離脱するイギリスはイギリス経済に不可欠な共通金融市場や東欧労働力から切り離されることを意味します。数百万の高度な労働者は少子化が進むイギリスにおいて重要な労働力ともなり得ますし、なによりイギリスが標榜する自由や民主主義への理解を持つ労働力となります。そしてもう一つ。

 TPP環太平洋包括協力協定。イギリスはEU欧州連合から国民投票による民意を受けての離脱が決定し、離脱手続きを推進中です。こうした中でイギリスは1968年のEC欧州共同体加盟以来恩恵に預かった巨大市場へのアクセスと欧州理事会が各国と締結した自由貿易協定枠組みの恩恵に預かってきました。イギリスは代わりの貿易圏を必要とすることに。

 英領ピトケアン諸島。実はイギリスは太平洋に領土を有しています、仏領ニューカレドニアの南方にありまして、人口は僅か70名、路面電車一両に乗れてしまうほどの人口ではありますが環太平洋地域の有人島です。そしてNHKの2020年1月31日報道に茂木外務大臣がイギリスのTPP加入可能性支援、というものがありました。環太平洋諸国なのですね。

 イギリスのTPP加入への日本姿勢は、2018年10月8日付BBC報道にも、日英首脳会談の際に安倍総理からイギリス側へTPPに歓迎する旨が示されたと報道があり、実は今回の香港市民へのイギリス旅券の希望者への発給はもう一つ、イギリスが環太平洋地域にピトケアン諸島に加え香港のイギリス市民、という条件を加える意図があるのかもしれません。

 中国批判声明に日本は参加拒否を表明。アメリカやカナダとイギリス及びオーストラリアが共同で発表した香港安全法への非難声明について、政府は日中関係を重視し6日に参加を拒否していた事が報じられています。この点については各国より失望が表明されている一方、アメリカ国務省は本日9日、日米は強い懸念を共有、と緊急声明を発表しました。

 日本政府としては、日中関係の特に工業生産への中国製部品への依存度の高さが今回のコロナ禍により改めてその上昇が認識され、習主席訪日や来年の東京五輪等の影響、またその地理的近さという面からも安全保障上の影響を加味してのものなのかもしれませんが、こと人権問題については、日中関係よりも環太平洋地域の一員としての広い視野が、必要とも考えます。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
(第二北大路機関: http://harunakurama.blog10.fc2.com/記事補完-投稿応答-時事備忘録をあわせてお読みください)

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 普天間移設見直しが必要だ,沖... | トップ | 【京都幕間旅情】東福寺,京都... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

国際・政治」カテゴリの最新記事