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米大統領選:共和党有力候補トランプ氏の米軍再編構想と我が国防衛政策への劇的な影響

2016-03-23 22:50:44 | 国際・政治
■トランプ氏,在日欧米軍抜本削減
 米大統領選共和党有力候補トランプ氏の米軍再編構想と我が国防衛政策への影響について、今回考えてみる事としましょう。

 アメリカ大統領選挙、野党共和党指名争いにて最有力候補となっているドナルドトランプ氏は、日本など極東アジア地域へのアメリカ軍駐留について、アメリカに対し利益があるとは思わない、とし、将来に極東地域へアメリカ軍を展開することに対し否定的見解を示しました。トランプ氏は併せてNATOへの参加についても、アメリカに駐留費用の負担が重すぎると主張しており、その展開について大きく縮小する方針を示しました。

 アメリカの国防政策、鎖国か、大きな転換となれば日本の防衛政策に重大な影響が出ますのでもう少し真剣に日本国内における議論、日米外交防衛当局者会合でも、仮にアメリカが北東アジア地位において縮小する傾向となった場合、自衛隊の大幅な増勢が無ければ西太平洋地域が中国の勢力圏となる可能性が生じ、日本としてどこまで防衛力強化が可能であるのか、議論しなければならなくなっているようにも考える次第です。

 瓶と蓋の議論、は日本の防衛力が肥大化しすぎないよう1980年代に提示された内容ではありますが、いまだにその影響が残っている我が国では、防衛力を専守防衛としている為、我が国周辺地域での軍事ポテンシャルについて、アメリカの戦力投射能力を代替する、外征型への転換という発想がそもそもありません、しかし、専守防衛を堅持したとしても海洋国家である日本のシーレーンは大陸中国の目の前を航行しますので、防衛政策の転換も海洋展開等の面でこれまでとは次元の異なる議論が必要となってしまうでしょう。

 次元の異なる議論、とは、これまで禁忌とされてきましたフィリピンや南シナ海を含む海域への戦力投射によるシーレーン防衛と友好国防衛へ日本が防衛力を投射するという選択肢、若しくはこれが不可能である場合に日米関係と日中関係を再編し日米軍事衝突の可能性を考慮してでも中国の影響下に置かれるという最悪の事態を回避するために日本が独自に大陸へ対抗し得る装備体系を通常兵器以外も視野に議論するか、という、次元です。通常兵器以外の装備は、文字通り防衛議論の禁忌ですが、通常兵器だけでは対処し得ない状況に追い詰められるという前提で究極の判断を迫られる、という実質的な想定外に他なりません。

 また、防衛負担と安易に云われましても、通常兵器以外の装備の部分を差し引いて討議したとして、専守防衛を前提とした装備体系を構築しました自衛隊を、そのまま倍の規模としても必要なシーレーン防衛の能力やアメリカが東シナ海及び南シナ海地域から撤退した場合のポテンシャルを維持する事は出来ません。陸上自衛隊は対機甲戦の蓋然性が再び高まると共に友好国防衛へ水陸機動能力の抜本的整備を求められますし、海上自衛隊は洋上防空能力を厚木の空母航空団に替わる規模で整備しなければなりません、航空自衛隊も防空一本の防空自衛隊というべき編成から戦域間空輸能力と支援戦闘機の抜本的増勢による航空打撃力の一からの整備など、必要となる。

 問題はここまでにとどまりません。トランプ氏の在日米軍縮小と共に縮小が公言されているものが在韓米軍です。在韓米軍に関する部分では筆頭に挙げられるものが在韓米軍への弾道ミサイル防衛能力として、THAADの在韓米軍配備です。米本土へのミサイル早期警戒という位置づけと同時に、在韓米軍へ配備されるTHAADは、同盟国防衛という重要施策であり、加えて朝鮮半島有事の際に韓国を大きく後方から支援する在日米軍施設防衛という意味合いが大きく、在韓米軍の役割が韓国軍へ移管され、西太平洋地域での米軍施設が整理されるならば、THAAD配備へ反対する中国の要請に配慮する韓国政府に対応し、縮小される可能性も否定できません。

 日中の軍事バランスはアメリカからは理解していたとしても見方と認識は異なるようで、価値観の問題でしょうか、THAADについて。THAADの在韓米軍配備は中国を念頭としたものではない、と如何に力説したとしても、THAADと連動するMDシステムについては日本の本土防空と連動している訳で、反撃の核戦力を充分保有する米軍は核抑止の基盤が構築できている故に、THAADは中国に向けたものではなく北朝鮮の弾道ミサイルをのみ警戒している、とは言えるのでしょうけれども、日本は違う。

 日本本土に対して大陸から発射されるミサイルに対しての情報は、日本が大陸への大陸の核攻撃を躊躇させるほどの反撃能力を持たない以上、結果的には必要となるものですので、在韓米軍配備に中国の寮長を得る、という事は枠組として無理のようにも見えるのですが、アメリカは一応の姿勢は採っているようですね、米中と米韓の関係のみならず、地域大国にアメリカが区分する日中と米国のトライラテラルな関係をもう少し理解してもらうよう努力が必要ですね。

 一方、アメリカ本土への米軍再編が実施された場合、我が国としては在日米軍が縮小されるのであれば、米軍装備品の事前備蓄という、駐留なき抑止力を求める、という選択肢は挙げられるかもしれません。例えば、NATOではロシアの緊張が高まる中でアメリカ軍は冷戦時代に利用していたノルウェー国内の洞窟へ第2海兵遠征軍の装備品を事前備蓄しています、洞窟は機密に指定されているとのことですが、ノルウェー国内への米軍部隊駐留は極めて限定的であるものの、北極圏でロシアと国境を接するノルウェーは人口の観点から常備軍に限度があり、こうして米軍の抑止力と協同しているという興味深い事例があるという。

 ノルウェーの洞窟にアメリカ第2海兵遠征軍の装備を備蓄していたというお話です。米軍の事前集積、通常は船舶に1個師団分の装備を備蓄して遊弋させるのですが、ノルウェーでは地下の洞窟に事前集積を行っていたのですね、この方式、北欧は地質が安定しており、湿度が低く硬質で良好な洞窟環境があるのですが、というのも北欧諸国が地下要塞を近年までかなり重視し一部で維持しているのはこの地層故なんどえすが、陸上への事前備蓄という施策、これは我が国でも応用出来る施策なのかな、と考える次第です。

 アメリカの将来の国防政策について、孤立主義となる可能性が、特に大統領選での共和党トランプ氏の公約から垣間見えてくるわけですが、日本に対して米軍陸軍師団1個分の事前備蓄を養成し、その保守管理を日本側が支出することで、有事の際、人員だけの緊急展開を受け急速に陸軍師団を本土に展開させられる基盤を構築できます、米軍師団は重師団で1個師団だけえも戦車240両、装甲戦闘車235両に戦闘ヘリコプター50機以上というかなりの水準ですので、アメリカが本土重視で在日米軍撤収という将来の指針を示した場合、装備だけ日本で保管する、という選択肢の要請は、検討に値するかもしれません。

 まだ、大統領選は二大政党候補指名争いの段階ではありますが、ドナルドトランプ氏の大衆迎合的な発言は支持を集めており、トランプ大統領、という可能性は当然考える必要があります。そうなりますと、例えば陸上自衛隊を同一編成の少数大型師団へ再編し外征を念頭とした機動力と打撃力を持つ編成とする、海上自衛隊のヘリコプター搭載護衛艦を増勢しF-35B戦闘機を運用し南シナ海を含めた防空と南西諸島防空補完に充てる、航空団を少数化してでも大型化させ小規模な分散運用を含め友好国支援に充てる、というような、アメリカの外交政策急変に振り回されない基盤を、考えなければならない時期を迎えるのでしょうか。

北大路機関:はるな くらま
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8 コメント

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トランプ候補の主張は矛盾している (瀬戸の住人)
2016-03-24 21:13:57
お久しぶりです。
トランプ米大統領候補の発言ですが、実はよく検討してみると「在日・在韓米軍の縮小を求めているのに、対中姿勢は強硬派」だったりして、実は言っている事が矛盾しており、これで大統領になったら世界が大混乱に陥るのは必至だと思います。

あと、かつてトランプ候補はフェイスブックで「我々は日本に関税無しで何百万もの車を売ることを許してきた」と言ったそうですが、実は対米向けの日本車の多く(トヨタ・ホンダなど)は米国内の現地生産車である事を知らずに主張しているなど、政治家としての基礎的知識の不足が目立ちます。
米国内では、対テロや雇用等で威勢の良い事を主張しているトランプ候補の支持者が多い様ですが、もしもこれでトランプ候補が大統領になったら、これらの支持者は正に地獄を見るのではないでしょうか。
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Unknown (yomoyama)
2016-03-25 01:49:58
まぁトランプ大統領誕生、という状況が成ったとしても。
彼の任期のおおむね8年の間に在日米軍の人員の全撤退などという一大事業が果たして可能なんですかね…
軍も上院も下院もトランプ氏のその方針を熱烈支持するともあんまり思えないんですよ。ましてや議会の支持が無ければその実行はいささか困難でありましょう。
もちろん日本としてはどんな状況も想定して備えなければならないのは言うまでもないのですけれど。
返信する
Unknown (軍事オタク)
2016-03-25 14:11:15
空母3隻
イージス合計12隻
大型補給艦艇 追加8隻
強襲揚陸艦3隻
LPD6隻
大型機動揚陸プラットフォーム(MLP)3隻
なっちゃんタイプ高速輸送船6隻
(MLPへ連結可能にする)
RORO船又はフェリー型輸送船6隻
(MLPへ連結可能にする)
海兵隊2~3万人
海兵隊用各種ヘリ80機
特殊作戦群2000名
特殊作戦ヘリ20機追加配備
特殊作戦輸送機各種合計10機
C-2輸送機60機
弾道弾800発
巡航ミサイル1000発
戦闘機300機追加配備
ステルス長距離爆撃機50機配備
P-1フィリピン用追加20機
下地島空自利用
陸海空のフィリピン常駐
潜水艦36隻
戦略原潜4隻
ぐらいはやらないとだめですかね~
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Unknown (Unknown)
2016-03-27 09:25:21
これでもテッドクルーズよりマシというね...........
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左右双方取り持ては此れ即ち中道也 (はるな)
2016-04-04 20:13:47
瀬戸の住人 様 こんばんは

>「在日・在韓米軍の縮小を求めているのに、対中姿勢は強硬派」

これ、在日米軍縮小と在韓米軍縮小を掲げつつ、対中強硬を実現するならば、同盟国への大量武器供与や米本土からの戦力投射能力強化、という方式で実現するほかない、となります

核兵器の使用へのハードルを下げる旨の発言もしていますので、面倒になれば即核攻撃、というこれまでにない種類の核戦略を考えているのかもしれません

>実は言っている事が矛盾しており

左右双方取り持ては此れ即ち中道也、全米が恩恵を新たに受けつつ一方で損失を耐え抜くという、朝三暮四的な施策を撮る事になるのかな、と思います

>現地生産車である事を知らずに主張しているなど

大衆迎合主義、つまりポピュリズムに基づく発言ですので、この当たりは、アメ車の定義を明確に発言せず、日本ブランド車、という意味で発言しているのかな、とも受け取れます

・・・、アメ車といえば、ガルウィングに流線型とタイヤカバー車、というイメージを持っているのと同じかな、とも

>これらの支持者は正に地獄を見るのではないでしょうか

一方で大損しつつ一方では多少の恩恵、おや、いつぞやの衆院選後の某国を思い出しますが・・・
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実は親日派? (はるな)
2016-04-04 20:17:27
yomoyama 様 こんばんは

トランプ氏ですが、実は相当な内面的親日派なのでは、と考えています

対中強硬と在日米軍撤退の両立案として核武装を提示していますが、中国内陸部やその周辺地域の核戦力へ核抑止を実現できる核戦力というものは、その運搬手段の射程が米本土まで届く規模となるのですよね

・・・、しかし、日本が核武装を実現させる様々な国際法体系の根本的転換を図る努力とアメリカの外交的犠牲を図りつつ、その核戦力はアメリカには絶対向かないであろう、という確信がなければ、提示できるものではありません

すると、そうとう日本を信頼しているのでは、と
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経済的に実現できない話ではない (はるな)
2016-04-04 20:22:02
軍事オタク 様 どうもです

当方が提示しています、5個広域師団・機甲師団・水陸機動部隊、88艦隊(DDH×8&DDG×8)・F-35、4個大型航空団、に若干の緊急展開部隊を加える事で、北東アジア地域から東南アジア地域までの平和と安定させることは、軍事的に可能では、と考えています

更に、経済的には不可能ではない、とも

しかし、国内心情的にアメリカに突き放されるのであれば、親中派が育ち、中国と共に西太平洋から他の国を排除しようとする動きが顕著化しないか、という課題の方が大きいと考えます、具体的には専守防衛を貫きすぎる事で戦力投射面で依存できる国が日本一国で行う選択肢をはじいて中国以外なくなってしまう、ということ
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人材不足 (はるな)
2016-04-04 20:22:39
Unknown 様

日本もそうですが、かの国も人材不足なのですね・・・
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