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爆撃能力と航空自衛隊【第三回】:滑空精密誘導爆弾GBU-39とGBU-12ペイブウェイ

2016-08-07 23:00:47 | 先端軍事テクノロジー
■GBU-39,100km滑空し命中!
自衛隊の誘導爆弾は2015年から今年2016年にかけ大きく展開しています。中には、爆弾は破壊力ばかりではない、というものや精密誘導爆弾の定番、というものもありました。

滑空精密誘導爆弾GBU-39,アメリカ軍が開発した航空自衛隊の新装備です。滑空爆弾、とありますが、この爆弾は滑空し長距離を紙飛行機のように飛翔します。ミサイルではありませんので推進力は無く、翼により滑空するのみですが、現代の戦闘機は旅客機が飛行する飛行機雲を描くような成層圏まで簡単に上昇し、そこから投下することで実に100km以上滑空します、滑空した上で目標へGPSにより確実に命中するもので、此処まで長距離を滑空する場合、例えばGPSが目標付近で妨害された場合でも飛行時間が長く慣性で高い精度の下、命中できる。

GBU-39もう一つの特色はSDB小型口径爆弾と呼ばれ、航空爆弾としては小型で威力が非常に抑えられている点です。GBU-27ペイブウェイⅢの説明でも強調しましたが、GBU-27ペイブウェイⅢは従来核兵器を使い広い範囲を一挙に吹き飛ばすことによって結果的に小型の、しかし頑丈な目標も一緒に巻き込む、という手法が時代遅れと云いますか、関係ないものまで破壊してしまうという実情を紹介しました。GBU-39も発想は同じで、285ポンドという小型の爆弾、それでも野砲の203mm砲弾よりもやや大きいのですが、個の威力ならば、目標だけを破壊して周囲に余分な被害を及ぼしません。

SDB小型口径爆弾、としてGBU-39が規模を抑えている点はもう一つ、限られた航空機の兵装搭載能力において多数の爆弾を搭載出来る、という利点が挙げられます。特に将来戦闘機は、航空自衛隊が間もなく初号機の引き渡しを受けるF-35戦闘機の様にステルス性を重視し、機内兵装庫を配置し兵装をレーダーに反射させない配慮が為されるものとなります。すると、この搭載容積の限界というものが少なくない問題となりまして、実際、GBU-39は中距離空対空ミサイルAIM-120AMRAAMの半分程度の全長に収められ、前後二列配置できるのです。小型ということはたくさん投下できる、AMRAAMを4発搭載する区画にGBU-39ならば8発搭載出来ます。

遠距離から投射し滑空させるGBU-39,100kmの距離を隔てて投射すれば、射程50km以上の地対空ミサイルは限られますので、F-2やF/A-18E等から投下した場合でもかなり安全に目標へ打撃を加える事が出来ます、F-35等ステルス機でも敵防空レーダーへ近づけば近づくほど発見される危険性が高まります、100kmの彼方から複数の目標に同時に投射し、回避行動を執る事が可能となり、通信中枢、防空中枢、航空基地、重要橋梁、などを無力化し第一撃の優勢を得る事が出来るでしょう。

レーザー誘導爆弾GBU-12ペイブウェイ、レーザー誘導爆弾の代名詞的存在です。精密誘導爆弾というものは、朝鮮戦争などで重要な橋梁等を破壊するために一回の目標攻撃に空母航空団一個や戦略爆撃機による飛行隊を派遣するなど大掛かりなものとなり、大規模な航空作戦である為秘匿が難しいと共に、防空部隊との大規模な戦闘に展開してしまい、一機二機と損耗は強いられるという厳しい状況があり、命中率が悪いのだから大量に投下しなければならない半面、命中精度が高いピンポイント爆撃を行う事が可能な兵器があれば、一機二機と隠密裏に侵入し打撃が可能、という視点がありました。

精密誘導ならば命中精度が高いミサイルならば一発で、と思われるかもしれませんが、陸上目標を狙うのは難しい。大空に一点の大量エンジン排熱を排出し飛行する航空機を狙う空対空ミサイル、洋上に水平線上に大型の船体を浮かべ航行する艦船を狙う対艦ミサイル、こうしたミサイルに対し空対地ミサイルは山岳や谷間など狭隘地形と市街地や森林地帯という錯綜地形のレーダー反射や赤外線放出から目標を確実に判別して命中させることは難しく、1955年にはラジコン飛行機の様に発射航空機から誘導する手動指令誘導方式のAGM-12 ブルパップが、1963年には先端にテレビカメラを装着し発射時に画像の中央に位置する目標へズームするように滑空し命中するAGM-62ウォールアイが開発されました、ただ、前者は命中するまで爆弾を航空機から操縦する必要があり、後者は悪天候や夜間では使用できません。

レーザー誘導爆弾という発想は、ヴェトナム戦争が本格化した頃、レーザーの反射光を感知する新しい誘導方式がアメリカで考案され、1965年には試験が本格化しました。1968年にはヴェトナム戦争における本格運用が開始、レーザーシーカーが振動により機能不随となるなど初期の電子部品における信頼性の問題が指摘されましたが、AGM-12 ブルパップのように目標へ向かい投下した航空機が並走する必要が無く、AGM-62ウォールアイのようにTV画像がしっかり認識される白昼に投下する必要が無く夜間に使用出来るという利点は精度を超えた利点といえるものでしょう。

GBU-12ペイブウェイを自衛隊が導入した背景ですが、自衛隊のGPSへの独特の価値観が反映されているのかもしれません。もう一つ誘導キットがJDAMよりも若干安価となっています。ほかには、750ポンド爆弾JM-117に装着するKMU-342レーザー誘導キットがペイブウェイシリーズ最初の実用装備となっており、航空自衛隊では750ポンド爆弾JM-117も相当数備蓄しています。750ポンド爆弾JM-117は朝鮮戦争時代の米軍主力爆弾ですが、現在は米軍では旧式扱いとなり光景爆弾へ生産が移行、備蓄分はヴェトナム戦争などで大半が射耗しています。可能性としてですが、航空自衛隊は全ての爆弾を誘導爆弾へ置き換え、JM-117の備蓄分にKMU-342を装着するという選択肢もあり得るかもしれません。

北大路機関:はるな くらま
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