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中国軍、南シナ海西沙諸島ウッディー島にHQ-9地対空ミサイル部隊展開 南沙諸島と並ぶ係争地

2016-02-17 22:04:11 | 国際・政治
■緊迫の西沙諸島
 中国軍が南シナ海の西沙諸島のウッディー島に地対空ミサイル部隊を展開させている事が判明しました。アメリカ海軍は航行の自由作戦としてこの海域へ海軍艦艇の航行を継続しており、先月末もイージス艦カーティスウィルバーを航行させています。

 紅旗9、HQ-9地対空ミサイルの発射装置8基とレーダーシステムが衛星写真により確認されたとアメリカ国内報道で報じられ、南沙諸島工島造成問題と共に東南アジア地域の海を更に不安定化させる問題となっています、HQ-9は中国国産の地対空ミサイルで射程は100km、広域防空用に用いられるものです、2009年にはトルコに輸出され、EMP対策等が実施されていないとして返品されましたが、ロシア版ペトリオットと称されるS-300地対空ミサイルシステムの技術を協力により得ており、射程が大きい点が特色です。

 ウッディー島は中国名で永興島、面積は2.1 km²です。具体的な大きさですが京都市中京区が7.41km²、概ね中京区の烏丸通と二条通に四条通と河原町通を結ぶ線、祇園祭の山鉾巡行で一周する内側の面積といえば分かりやすいでしょう、たぶん。ウッディー島は明朝の時代に鄭和が南海遠征に先んじ1405年頃発見したとの記録がありますが、無主地として1932年にフランスがインドシナの一部として領有、1941年に日本軍が占領し1945年より中華民国へ編入、1950年に国共内戦において大陸系武装漁民が占拠し、その後ヴェトナム軍が駆逐、1974年に中国海軍がここを攻撃し占拠、1988年に中国軍が空港と港湾施設を建設し、2012年に中華人民共和国国務院が三沙市を新設、正式に併合しました。

 ウッディー島は近接するロッキー島の間を中国が埋め立て陸続きとなっており、2700m滑走路を有する飛行場が建設されているほか、埋め立て工事が継続しており、その上で中国政府は中国漁民の定着政策を推進、現在、人民解放軍と法執行要員や軍属と建設労働者に漁民を加え1000名程度が居留しています。領有権問題ですが、海底に豊富な天然資源が舞い属している事が海洋調査により判明しており、島嶼部を領有化する事で排他的経済水域を拡張できる利点がある一方、1974年に南ヴェトナム海軍と中国海軍との間で西沙海戦が発生し、中国海軍の駆潜艇4隻及び掃海艇2隻と南ヴェトナム海軍の護衛駆逐艦1隻と哨戒艇3隻が交戦、南ヴェトナム側が敗北しています。この関係で現在のヴェトナム政府は領有権主張を継続、中華民国台湾も高雄市に属すると主張、係争状態は続いています。

 地対空ミサイルは先週に中国本土から搬入されたとされ、規模は二個大隊、この地域はASEAN諸国と日本を結ぶ重要なシーレーン上に位置し、西沙諸島はヴェトナムと中国が領有権を争う国際係争地域となっています、過去には中国軍特殊部隊がヴェトナム海軍警備部隊を襲撃し全滅させた事例や、海軍艦艇同士の機銃による海戦、昨年にもヴェトナム海洋警察の警備船へ中国公船が故意に衝突させ沈没させる事案が発生しており、地対空ミサイル部隊の配置はこの紛争を更なる武力紛争に発展させる危険性があるでしょう。

 西沙諸島と共に中国はその南でヴェトナムとフィリピンの中間部分にある南沙諸島においても実効支配を進めています。1988年に赤瓜礁海戦として中国海軍がヴェトナム海軍を攻撃、この際に占領した岩礁とサンゴ礁について2015年から埋め立て工事を本格化し、岩礁地帯であったファイアリークロス礁とスビ礁に滑走路を建設しました。南沙諸島はフィリピンがパラワン州の一部に、マレーシアがサバ州の一部として、ヴェトナムもカインホア省の一部として、中華民国は高雄市の一部として、加えてブルネイも領有権を主張している国際係争地域です。西沙諸島は南沙諸島への経路にある重要拠点となっており、今回の西沙諸島への中国軍ミサイル配備は、南沙諸島への戦力投射へ繋がる可能性があります。

 アメリカは繰り返しこの西沙諸島と南沙諸島での係争と軍事力の投射に対し懸念を示していますが、オバマ政権下では有効な措置を何も取ってきませんでした。南沙諸島での埋め立て工事ですが、本格化したのが2015年でアメリカ政府と研究機関は埋め立てに数年間を要すると考え静観する構えですが、大量の建設資材と人員を投入し数か月間で巨大な人口島を造成したほか、軍用飛行場として転用できる民間空港と称する航空施設を建設し、海軍航空部隊等を展開させています。中国政府は海洋自由原則という国際公序を尊重せず海洋の閉鎖化を志向する施策を継続的に展開している事から、東南アジア地域と我が国シーレーンへも影響が考えられます、特に中東から我が国への石油シーレーンは豪州大陸北方を迂回する事が可能ですが東南アジア諸国と我が国とのシーレーンは迂回できず、今後の施策と必要な措置について慎重に見極める必要があるでしょう。

北大路機関:はるな くらま
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